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第四話:お友達と予期せぬ再会

『女性は着飾る生き物』とマルガは言っていた。

 故に拾われてから真っ先に仕込まれた事は、自分を如何に美しく魅せるか……今になって思えば何故、一介の盗賊団の首領がそんな方法を知っているのか疑問だが、当時の俺はそんなもの気にも止めずただ言われるがまま、自分を美しく魅せる方法を模索した。


「……結果、上流階級に混ざっても違和感がないとはね」


 いつもの媚びて、女としての色気を意識した声ではなく、あくまで第一王子との結婚を望む娘としての至って普通な、耳障り良く高い声を意識しながら、俺に見惚れていたボーイから受け取ったジュースを一口含み、毒が仕込まれていないのを確認してから飲み込む。

 

「王子との結婚、そのチャンスが手に入るのならこれだけの人が集まるよねそりゃ」


 集められたエントランスは、着飾る為に振り掛けたのであろう香水の匂いが充満し、少々、鼻がキツいが上流階級となれば仕方ない。


「今年はウチの領内が豊作でして。香りも色も良いワインに期待出来ますの」


「あらあら良いですわねぇ。今度、一口頂いても?お詫びにはなんですが、質の良い鉱脈を掘り当てまして、宝石がたくさん採れましたので、少し差し上げましてよ」


 耳を澄まさなくても、そこかしらから貴族達のマウント合戦が聞こえてくる……飲み物が不味くなるから、せめて周囲に聞こえない様にしてくれないかな。

 いや、無理か、貴族なんて他者にマウント取るのが生甲斐みたいなしょーもない連中ばっかりだし。

 

「ちょっと!!私が入れないってどういう事よ!?」


「ん?」


 入り口から怒鳴り声が聞こえ、興味本位で視線を向ければそのなんというか、男の俺以上に格好に気を遣っていないおそらく、貧困層の女性が衛兵に怒鳴っていた。

 そりゃ、身分は問わないとは募集要項に書かれていたが、せめて(ここ)に入っても恥ずかしくないと呼べるレベルが、最低ラインである事にぐらい気付こうぜ。


「……なにあれ」


「嫌ですわね。これだから貧民は」


「そう言えば、此処にも及第点で入ったお恥ずかしい方々がいる様ですわねぇ?」


 可能な限り、エントランスの端の方にいた女性達が気まずそうに顔を下に向けた。

 ……選民思想ってやつは嫌になるね、何かしらの方法で稼いでいるのならともかく、こんな所で礼儀もなく大声で話して、他人を馬鹿にする様な連中はどうせ、親の威光に縋ってるだけの連中。


「まぁ、それは私も同じか」


 親か盗賊団かの違いだけどさ。

 とは言え、少しばかり気に食わないのは事実、同族嫌悪みたいなものだけどあのまま好き放題にさせてるってのは違うよな。


「自覚があるのなら外に出たほうがよろしくてよ?」


 その声は俺の後ろから聞こえ、まるで動こうとしていた俺を嗜める様にしその声の主は俺を後ろから追い抜き、小さくウィンクをする……え?誰??


「えぇ、えぇ、確かにこの様な場、目的にはそれ相応の格好が求められる事でしょう」


 演劇を見ているかの様な気分にさせる声の主は、快活なよく通る声量で、美しく整った顔に自信満々の表情を浮かべ、この場にいる全員を釘つける様に大きな手振りを行う。


「美しいドレス、清潔感のある化粧や整え着飾った髪、アクセサリーの数々など、一人の王子を射止めんとするワタクシ達に必要なものは須く、金銭が必要なものばかり……誠に悲しい事ですが、環境によってこの幸運を掴み取れるステージに登れるかどうかは決まってしまいます!!」


 クルリと回りると、シャンデリアの光を受けて金色の髪が美しく輝き、その下の自信に満ち溢れた翡翠の瞳をより美しく、引き立てる。

 此処で、漸く場を奪われている事に気がついた貴族が慌てて、口を開く。


「そ、そうですわ!!貴女も話が分かる人ね、ほら早く」

 

 だが、残念な事に主役はステージを譲らない。


「だからこそ!!ワタクシは悲しいのです。数多くの少女達が、恋焦がれそれでも諦めざる終えなかったこの美しくも、苛烈な戦さ場において、あまりにも……あまりにも醜い!!まるで、この街のゴミ捨て場の様な心の根の持ち主がいらっしゃる事に」


「ブフッ!」


 い、言いやがったよこの女!!

 同じ貴族の娘が、貴族の娘にゴミ捨て場って!!しかも、これから嫁ぐ可能性のある王子、引いては政に関わってるかもしれないってのに、この国の現状を揶揄に使いやがった!!思わず、吹き出してしまったがこれは悪くないだろ。


「ふふっ。どうやらワタクシのセンスを分かってくださるお友達もいる様ね……残念ながら、貴女達には伝わっていない様だけれど」


「な、なによ!?この場に不相応なのは、向こうでしょ!?貧民が一丁前に夢見てるんじゃないわよ!!」


「あら?先ほど、貴女がご自身の口で言ったじゃありませんか。及第点だと、例え及第点であろうと彼女達は自らの努力で、この場に立っている。それを悪く言う権利は誰にもないと思うのだけれど?それに──」


 クルリと回り、俺を見たかと思えば、スルリと後ろに回り込み抱き着く──え?なんで??


「こーんなに小さい子の方が道理を分かっていてよ。お恥ずかしくありませんの?」


 ……あの、十七です俺、そりゃ、外見はチビですけどね?

 ただまぁ、彼女の狙い通りに比較対象に俺を用いる事で、口論をしている相手以外の周囲を味方につけた様で、咎める視線に我慢が出来なくなった悪口三人娘は、逃げる様に城外へと出て行った。


「お、覚えていなさいよ!!」


 そんなテンプレセリフと共に。

 

「……ふぅ。皆様、楽しいご歓談の最中、見苦しいものをお見せしてしまい、大変申し訳ございません。何かお心の休まぬ事がありましたら、是非ともワタクシ、シャルロッテ・フォン・アスモに」


 何処かで見た顔だとは、思ったが演劇を締めくくる役者の様に頭を下げるこの女性、まさか隣国の一つアスモ帝国の第四皇女様かよ。

 そりゃ様になってる筈だわ、皇女の身分でありながら大女優として声明を集めているのだから。


「ごめんなさいねお友達。あの場でワタクシの言葉に笑ってくださるなんて、豪胆さと凛々しさを魅せてくれたものだからつい、嬉しくなっちゃって」


「いえ……こちらこそ、助けていただいてありがとうございます。きっと、私じゃアスモ様ほど上手く出来なかったでしょうから」


「うふふ、そうかしら?きっとワタクシとは、比較できない様な勇ましい名乗りが見れたのではなくて?それと、ワタクシの事はシャルロッテで構いませんわお友達……ずっと、お友達呼びも味気ないからお名前、教えて?」


「マリナ・フォックシーです。シャルロッテ様」


 グイグイ来るな……さすがは、物怖じしない大女優なだけある。


「マリナって言うのね。ふふっ、それにしてもフォックシーとは。貴女のお祖父様はお元気?随分と前から、直接は会っていないの」


 ……なるほど、この国に送り込まれるだけの事はある。

 俺が今使っているフォックシーという名字は、此処らへんでは有名な宝石商、しかも歳をとってボケた爺さん一人しか生きていないある程度の身分と、偽装のし易さを兼ね備えた家のものだ。

 マルガの奴が、爺さんの代理人に就いているが、直接話せばボロが出ると書面だけのやり取りに切り替えたが……それに不信感、或いは疑問を抱く奴がいるとは。


「──えぇ。私は血の繋がった娘ではないですが、我が子の様に可愛がってくれています。ただ、最近はボケてきてしまって……」


 俺が出来る事は真実を隠し通す事だけだ。

 本物の権謀・策謀の中、生きているであろう目の前の相手にどこまで通用するのか分からないが、()()()()()()()()()()()()()()


「養子なのですか?」


「はい。と言っても、遠い血縁を頼りにしたものですけどね」


「なるほど。話辛い事を聞いてしまったわねアイナさん」


「いえいえ……それで一つ疑問なのですが、今回の婚姻、貴女様なら国を使って叶えることも出来たのではないでしょうか?」


 話題転換とアスモ帝国を探る目的を兼ねて、少し踏み込んだ質問を投げかけると、一瞬、雰囲気が変わったが、すぐにニコニコとしたものに戻った……何かあるなこれは。


「あら。ふふっ、ワタクシが踏み込んだ質問をしたから?そうねぇ……聞けば、この婚姻、最後の決め手は王子にあるというじゃない?」


「はい」


 初耳でしたね、ありがとうございます。


「国を使えば確かに、手に入るでしょう。この国とワタクシの国の力関係はそういうものです……ですが、それはあまりにも退屈でしてよ。己の力、己の美貌、人生の伴侶は今まで確固たるワタクシが積み重ねたもので勝負したくない?」


 まるで、勝負師の様な事を言う彼女が眩しく見えたのは、シャンデリアの光を受けて輝く金の髪だけが原因ではないだろう、貴族という生まれはその人間性を腐らせるもんだとばかり思っていたが、どうやら違うらしいな。


「ハハッ、シャルロッテ様は先ほど、勇ましい名乗りが見れるのではと期待してくれましたが、私から見れば貴女様の方が何倍も勇ましいと思いますよ」


「ふふっ、ありがとう。でもね」


 言葉を区切ったシャルロッテは、屈むと俺の耳元で囁く。


「──誰も動こうとしない場で、動こうとした貴女に背中を押して貰ったのよワタクシは」


「え?」


「あら、そろそろ王子様が現れる時間みたいね。楽器隊が準備をしているわ」


 話は終わりと楽器隊の方を見るシャルロッテ。

 彼女に囁かれた内容を問おうと口を開いた瞬間、割れんばかりと太鼓の音が響き渡り会話を行える空気では無くなってしまう。


『王子様、ご入場!!』


「──は?」


 ドラムロールの音が響き渡る中、レッドカーペットの上を歩き、現れたのはつい最近、出会ったばかりの相手で思わず、彼を見たまま口を開けてしまう。

 ウチの王子は、確かに全然、公の場所に姿を現さないし、俺も縁遠いと興味が無かったから気付けなかったが……


「……エイダン様」


 長い黒髪を見間違う筈もなく、あの時、路地裏で俺を助けてくれた騎士の正体、それはこの国の王子様だった……おいおい、どんな御伽話だよ。

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