表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/6

第三話:拭えぬ行い

「ふぅ……ただいま、戻ったよ」


「お!思ったより遅かったな、また手でも出されたか?」


「その通りだよ全く……マルガの奴がちゃんとした外套をくれればこんな事にならなかったのに」


 路地裏の中でも一等地と呼べる清潔感が確保され、それでいて秘匿性もあるこのアジトは一攫千金を夢見た商人が、奮発して建てたらしく、今こうして俺が座ってる様な柔らかいソファがあってとても助かる。


「おーい、下着見えるぞマリナ」


「ん?チラ見で銀貨五枚な」


「その辺の娼館よりたけぇじゃねぇか!」


 ゲラゲラと下品に笑う下っ端共。

 当然だけど、暗殺という役割でマルガからの仕事を唯一受けられる俺は、それなりに立場が高い扱いをされている為、あの野郎に拾われた子供でも偉そうにソファに座れてるって訳だ……本当に入れ替わりが激しいからな下っ端は。


「そういやよ、最近、城の方がなんだか賑やかになってるがなんかあるのか?」


「んー……祭りの時期にしちゃあ、随分と早いよな。まだ春先だぜ」


「商人共も何やら流通を増やしてるみてぇだし、こりゃなんか一発あるんじゃねぇ?」


 そういや、デバンナ子爵の好みを探ってる間も、そんな話聞いたな……物が動いてるって事は、金が動いてるって事だ、俺らみたいな盗賊団からすれば狙い目だが、なんか違うんだよな空気が。

 ガチガチに警戒をしてるんじゃなくて、何処か浮かれている様な、さっきの奴じゃないが祭りの準備をしていると言われた方がしっくりくる。


「普通の街なら人が多いなとかで分かるんだろうけどよ」


「この街でそれは無理だな!!」


「何せ、常に人だらけ!!人混みは友達だぜハッハッハッ!!」


「何かしらねぇか!!マリナ」


 ちょっ……急に大声で話を振られるからびっくりしたじゃん。

 ほらそこ、小動物みたいとか笑わない……全く。


「残念だけど何も。そもそも、私が仕事帰りだって知ってるでしょ?」


 俺がそう言うと思い出した様に、手をポンっと叩く下っ端……こいつ、知能、鳥以下か?


「入念に調べ上げるのがお前だったな。その辺の男なら、軽く枝垂れかかるだけでコロッといくぜ?」


「相手がデカい女好きだったらどうするのさ。私じゃ、準備しなきゃ一生、堕とせないわ」


 ほんっと、この身体小さいからな……この世界で一応、十七歳を迎えてはいる筈だけど、大きさだけなら中学生レベル。

 色気を出して誤魔化してるけど、この身体に興味を持てない男だっているだろうし、そういう連中に無駄な時間をかけたくないから、外見以外の好みを探るのも俺の仕事の一つだったりする。


「胸も無いしな!」


「男の巨乳とかただのデブじゃねぇか!!」


 そう言ってまたしてもゲラゲラ笑う野郎ども……どうにも馬鹿にされてる感じがして気に入らないな。

 スッとソファを立ち上がり、ゲラゲラと笑っている男の腕をそっと、自分の胸元に優しく近づけ、自然と上目遣いになる様にし、一瞬で目元に薄く涙を溜める。


「お、なんだ?」


「……私じゃ、駄目?」


「ッッ!?!?」


「はっ、なんてな。茹蛸みたいに顔を真っ赤にするなら、私の事を馬鹿にするのはやめてよね。サクッといっちゃうから」


 女なんて、無理やり抱くか高い金払って、娼館に通うかしかないウチの野郎どもを堕とすだけなら、純真無垢を演出するだけで、見ての通り俺が離れた直後、前屈みで崩れ落ちる奴が爆誕する……単純だな男って。

 折角、立ち上がったしこのまま自室に戻るかと決めて、必要な物以外は全く、置いていない自室に戻り簡素な格好に着替え、服の内側に隠していた髪を解放する。


「……あぁ、俺は生きている。まだ、こうして生きている」


 姿見に写る何処からどう見ても、貧乳でチビな美少女の死んだ魚の様た目と視線を合わせる。

 鏡なんだから合って当然だろうと、冷静な自分のツッコミが入るが、この行為は必要なのだ……俺が俺であると認識し、まだ生きているという実感を得るためには。


「肌の艶からして栄養と睡眠は問題ないな……ただ、疲れているのは事実だ。精神的に休んではいない」


 鏡に写る自分が血塗れになる……わかっている、これはただの幻覚で現実の俺は、綺麗な姿のままだ。

 見えていないだけ?それはそうだ、きっと俺の身体は他人の血で濡れている、けどそれがなんだ?これは俺が生きる為に選んだ選択の結果だろう?


「……今更、血に濡れる事を恐れる訳がないだろうに」


 外からドカドカとデカい足音が聞こえ始めた。

 どうやら、マルガの奴が帰ってきたらしい、なんて考えている内にノックの一つも無しに扉が開け放たれる。


「随分と早いねマルガ」


「ふん。俺の目的に繋がる情報が手に入ったからな。来い、仕事の時間だ」


「人使いが荒いんだから……すぐに準備するから待ってて」


 はぁ……今度は何をやらされるんだか……まぁ、なんでも良いか。










「また盗賊団か……幸い、デバンナ子爵は周辺諸国との関係は薄いから助かるが……」


 デザインや質感からして、高級品である事が分かる赤い貴族服を纏い、頭には宝石をあしらった王冠を被る疲れ切った表情の男が、眉間を摘みながら昨晩起きた()()()()()()の報告を受けていた。

 彼はその身なりからも分かる通り、この夢の国アリスの国王、クロウ・デ・アーサーその人なのだが、疲れ切った雰囲気がそうさせるのかあまり、服装は似合っていない。


「我が国は王都ですら、犯罪率は70%を超えますからな。各地の貴族は、半ば独立気味に独自の警備を用意していますが」


「嘆かわしい事だな大臣……」


 側に立つモノクルを右目に付けた大臣の言葉に、更に力なく項垂れるクロウ王。

 そんな彼を大臣は、感情の読めない瞳で見つつ手元にある資料を捲り、何枚かを纏めて王へと差し出す。


「ルシフェード国、ベルゼーバフ国、アスモ帝国の三国より、我が国の警備が足りない様であれば人員の派遣が打診されています。これらの手を借りるのも策では?」


「……どうせ、対価に我が国の資源を永久に借りるとか、一年毎に法外な金額の支払いだろう?そんな事をしていれば、どうにか立て直したこの国が滅んでしまう」


「ですが……このままでは、上流階級はやがて死ぬか他国へと流れ、そう遠くない内に領地経営すら行えなくなりますよ」


「分かっておる……」


 この国は何もかもが足りないとつくづく思い知らされるクロウ王は、それでも何かこの国の為に出来ないかと必死に頭を悩ませ……問題の先送りを選ぶ。


「……此処のところ暗い話ばかりだ。何か一つ、明るい話題を作ろう」


「と、言いますと?」


 逃げたなと思いつつ、大臣は王に言葉の続きを促す。


「国民全員から、王子の嫁を選ぼうと思う」


「……はい?」


「馬鹿を見る目をするなベクター。これはあくまで表向きの理由だ。民には明るい話題で、喜んで貰いこの国に悪意を持ち込もうとする輩を炙り出す為のな」


 一国の王子、その嫁となる機会が国から直々に用意されたとなれば、民はその前例にない方針に驚きつつ、もしかして王族になれるのではと夢を見る事ができ、この国に何かしらの悪意がある者達にとっては、無作為に選ばれるという状況は身分や素性を隠しやすい好機でもある事に間違いはなかった。


「あまりにリスクが大きすぎます。間者を自ら招く事になるのですよ?」


「当然危険はある。だが、もはや我が国は安全な道ばかりを選んでおれん。国の癌一つくらい、自らの手で切除出来ると示さねばならんよ」


「上手くいけば良いのですが……しかし、宜しいのですか?王子は」


「最終的な決定権はアイツに与える」


「はぁ……わかりました。準備を進めます」


 というやり取りがクロウ王とベクター大臣の間に行われたのが、マリナが王都へと戻る数時間ほど前の出来事で、告知だけは済まそうとベクター大臣の手によって、この政策が公布され、城周辺は盛り上がっていたのだ。

 そして、準備は確実に進んだ二週間後──


「マリナ・フォックシーです。この様な身なりですが、十七を迎えておりますわ」


 会場となった城内、エントランスホールに内心では引き攣った笑顔を浮かべるマリナの姿があるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ