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第二話:出会いは路地裏で

「はぁ……疲れた。固定の住処があるってのは良い事だけど、遠出した時が面倒だなぁ」


 盗賊団のアジトと言えば、どんな場所を想像するだろうか?

 薄暗い洞窟の中?寂れた街や、滅びた村に捨てられた要塞?それとも、自然一杯の森の中?確かに、そういう場所で暮らしている盗賊達も居るけど、俺の所属する黄昏の夜明けが、アジトにしている場所それは──


「ちょっ、通して!!仕事遅れちゃうから!!」


「あらやだ、シンダーさんのとこの奥様じゃないの。最近はどう?」


「今日のオススメは、隣国から仕入れたばかりの新鮮な魚だよぉ!」


「ママ〜!こっちこっち!!」


「衛兵さんいつもご苦労様。これ差し入れです」


 ──見ての通り、あらゆる所に人、人、人がいる王都『スプロール』に黄昏の夜明けのアジトはある。

 この国は、ほんの数年前まで今にも消えそうなほどの貧乏国家だったのだが、地下資源を一か八かで探ったらなんと大当たり!!たくさんの木炭に鉄鉱石果てには、宝石までザクザクと眠る地下資源国家だったのだ。


「お、そこのお嬢さんや。ウチで採れた宝石を身に付けてはみないかい?」


「えー?どうしましょう……あら、どれも綺麗ねぇ」


 こんな感じで露店で宝石が売られているのも、決して珍しい光景ではない……ちなみにほぼ偽物だから気をつけて買いなよ。

 そして、豊富な地下資源を頼りに国家を急激に成長させたこの国は通称、夢の国と呼ばれお上もなにをとち狂ったのか国名を夢の国『アリス』と改名したのだが、結果的に皮肉な名前となる。

 周辺国家から地下資源を欲した商人を皮切りに、金の匂いを嗅ぎつけた色んな国が人を寄越し、結果的に多国籍状態となったこの国を探りたい各国の諜報機関などなど……

 それはまぁ色んな人間が全くもって、インフラなど成り立っていなかった国へ流れ込んだ結果、皮肉な事に夢の国アリスは俺が居た世界にもあった九龍城砦よろしく、新築改築だらけの迷路都市ばかりとなり、黄昏の夜明けの様な犯罪組織の温床と化したのだ。


「夢を見るなら一番だが、命が惜しければ近寄るな……そんな言葉すら使われる事になるとはねぇ」


 まぁ、おかげでフードを目深に被って歩いていても、誰一人気にも留めない……この街の人間にとって素顔を隠しているなんて当たり前の地雷、踏むわけが無いのだから。

 ちなみに、犯罪組織なら誰でも住処に出来るかと言われれば、難しいの一言だ。

 知恵か力がなければ、基本、路地裏に転がる冷たい死体になってるだろうからね。


「……まぁ、こうして絡んでくる馬鹿もいる訳だけど」


「あぁ?なにを言ってやがる?テメェ、上着で隠しちゃいるが、随分と細い体付きをしてるな。碌に栄養が取れてねぇ男か、女だろ?」


「一人旅でもしてまちたかぁ?それなら、よく調べる事をおしゅしゅめしまちゅよ〜!此処は、泣く子も冷たく転がるアリスの首都アバランチ!!俺らみたいな犯罪者だらけでちゅからねぇ!」


「ハハハッ!!なーに気持ち悪い言葉遣いしてんだよ!ヤラレ!!こっちまで鳥肌立っちまう気持ち悪さだぜ」


「そいつは悪い事をしたなぁガラワ!」


 ……はぁ、これだからこの国に戻るのに『地平線から顔を覗かせる太陽』って云う黄昏の夜明けを示す刺繍が無い上着を着るのは嫌だったんだ。

 せめて、誰か見た目でわかる厳つい奴をつけろよなマルガのやつ……俺一人じゃこうなるって分かってたでしょうに。


「よいっしょっと」


「あん?──イッテ!?」


「ヤクルイ!?」


 ポケットに忍ばせておいた小石を指で弾き、何やら偉そうに俺の外見をご高説していた男の視界を一時的に潰してから、路地裏特有の狭い壁を駆け上り、落下──高さの乗った回転蹴りでヤクルイだっけ?の禿げ上がった後頭部を思いっきり蹴り飛ばし、きったないゴミ捨て場へと吹き飛ばす。


「ッテメェ!!」


「おっと」


 懐から取り出したナイフを受け流す……予想以上に反撃が早いな、伊達にこの街で生きてるゴロツキじゃないって訳か。

 それならそれでまぁ、ど素人過ぎてこっちの予想を外してくる輩より楽だな。


「澄ました態度しやがって……ツラァ見せろやぁ!」


 ターバンを頭に巻いた赤ちゃん言葉のキモいやつ……ヤラレのナイフ使いは意外と上手く、真正面からの戦闘ってよりは暗殺向きの俺じゃあ少しばかり相性が悪い。

 大振りに威嚇の意味を込めて、振り回されるナイフはもう片方の、蛇みたいな細い目のガラワとの連携は出来ないが、力が込められている一撃を生身で受ければ大出血は確定、しかもこの振り方でこっちの出方まで見てるとなるとこうして、避け続けているのにも限界が来そうだな。


「オラァ!」


「っと」


 あ、フードに刃先が引っかかって脱げた。


「……なんっだ……この美人!?」


「私の美貌に惚れちゃった?ありがとね、お陰で隙だらけ」


「かへっ!?」


 顔を真っ赤にして固まるヤラレの顎を掌底で、打ち上げると間抜けな声と涎を撒き散らして、膝から崩れ落ちるという見事なK.Oが決まった。

 ……本当にこの顔って男受けの良い美人なんだなと染み染み分かって、なんだかケツが痒くなるよまったく。


「さてと……この次は」


「……テメェ、よくもやってくれたなぁ?」


「ッッ!?」


 慌てて振り向こうとした瞬間、両脇からゴツい腕が背中から回されガッツリと持ち上げる形で拘束されてしまった……クソッ、ヤラレの奴に思いの外手間取ったか。


「ヤクルイ!!」


「なにボサっとしてんだ!!ガラワ、とっととコイツの身包みを剥げ!!ヤラレの奴と俺の後頭部の分、キッチリ身体で支払って貰わなきゃ割に合わねぇ」


 ……下衆が、チッ、何処の組織の関係者か分からないから、不要な争いを避ける為に殺さない様にしてたが、男にヤられるくらいなら、この場でコイツらをぶっ殺して──


「女性に手を出すとは褒められた行為ではないね?」


 ──暗器を取り出そうとした瞬間、この場には似つかわしくない清廉潔白さを感じる凛とした声が聞こえ、ヤクルイの動きに合わせて、後ろにいたソイツを俺は見る事になる。


 まず目につくのは、大通りから差し込む太陽の光を受けて艶やかに輝き、右肩から流す様に纏められた男にしては長い黒髪と、優しい口調からは想像出来ないほど笑っていない瞳だ。

 

「ヤベェ!!『警備騎士団』が来やがった!!」


「こんな路地裏まで見張るのかよ!?」


 慌てふためく連中の声で、俺が乱入者に見惚れていた事に気がつくのと同時に、漸く服装へと視線が向く。

 童女の様な格好をした少女を守る様に描かれる二本の剣は正しく、警備騎士団の証であり、穢れなき正義の実行というこの国で無茶なスローガンを掲げる彼らの特徴でもある真っ白なマントは、ソイツの黒髪と同じく太陽の光を受けて輝いている。


「偶然だけどね。さてと、大人しく彼女を離すのならこの場は見逃してあげても良いけど、どうする?」


「「は、はひっ!!」」


 凄いな……ただの威圧だけでコイツらを圧倒して戦わず勝ちやがった。


「ふぅ……怪我はないかい?お嬢さん?」


「あ、はい。ありがとうございます」


 雑に落とされた俺を気遣って、差し出された手は想像よりも細く綺麗で驚いたが、生まれてこの方金持ちを殺す時以外見たこともない所作に、一瞬、反応が遅れてしまったが多分、違和感を抱くよりも早く彼の手を掴めただろう。


「ん……それにしても一人でこんな路地裏を歩くのは危ないよお嬢さん。今みたいな連中が闊歩してるんだから」


 はい、よく知ってます、なんなら普段はそういう連中の一人です……なんて、言えるわけもなく愛想笑いを浮かべて受け流しつつ、話題をすり替える。


「あはは、以後気をつけます……あの、騎士様お名前をお聞きしても宜しいでしょうか?後日、お礼を」


「え?良いよ。ボク──じゃなくて、俺は職務を全うしただけだから」


「いえっ!それでは私の気が収まりません!!」


 ぐいっと前でに出ながら強気に問い掛ければ、彼は困った様に頬を掻いた……イケメンはなにしても絵面に花があって良いなぁ。


「エイダ……えっと、エイダン・アイビスと詰所で言ってくれれば分かるはずだよ」


「分かりました……エイダン様ですね。それじゃあ、私は急いでいるのでこれで!」


「待ってくれ!!」


 これ以上、追求されて正体がバレると面倒だからとっとと走り去ろうと背中を向け、走り出した瞬間、声をかけられた為、若干、重心が前に出た状態で立ち止まる。

 まさか、正体がバレた?いや、俺の仕事を見て生きて戻った奴は居ないはず……そんな失敗をあの野郎がする訳がない。


「君の名前は……なんと言うんだい?」


 おっと、これは予想外……いや、確かに来訪者が誰か分からなきゃ不安か。


「マリナです。マリナ・フォックシー」


「マリナか……うん、覚えたよ」


「それじゃあ、今度こそ失礼しますね」


 ペコリと頭を下げて今度こそ、この場から離れる事に成功したので、この勢いのまま足を止めずに黄昏の夜明けのアジトへと逃げ込んだ。









「彼女、また路地裏を進んだな……何事もなければ良いんだけど」


 マリナが立ち去った先を心配そうに見つめながら少しの間、耳を澄ますエイダンだったが、悲鳴の様なものが聞こえてくる事はなく、心配はしつつもこの国の住人であれば大丈夫かと背を向けて歩き出す。


「美しい人だったな……」


 フードで全ては見えなかったが、薄暗い中でも彼女自身が微光を放っているんじゃないかと、錯覚するプラチナブロンドの髪だけではなく、右目の下にある小さなホクロが少し幼さの残る彼女に妖艶さと、何処か厭世的な雰囲気を身に纏う彼女のアンバランスさが今でも、エイダンの脳裏にこびり付いて離れない。


「……まさか、一目惚れでもした?このボクが?」


 いやいやまさかと頭を振りながら、路地裏から出るエイダンは当然のことだが、前方への注意が疎かになっており、路地裏から出た瞬間、ゴツンっと誰かとぶつかってしまう。


「おっと……ごめんよ、考え事を……って、団長さんか」


「団長さんかじゃ、ありませんよ全く……路地裏をほっつき歩くなど心臓に悪い事をしないで頂きたい」


「ごめんって……あと一応、此処、外だからボクに敬語を使ってると違和感しかないよ団長?」


 団長は眉間に皺ばかりあるその顔にハッとした表情を浮かばせ、姿勢を正す。

 この動作も不思議ではあるのだが、まぁ良いかとエイダンは苦笑と共に受け流した。


「戻ったら勝手な行動に対して、反省文を出す!!覚悟しろ、エイダン!!」


「はっ!」


 見事な敬礼を返し、エイダンは団長と共に詰所へと戻っていくのだった。

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