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木の小精霊

 地上に戻ってきた僕を待ち受けていたのは、眩しすぎる太陽の光であった。

 徹夜でダンジョンの整地をしていた僕は思わず目を細めてしまう。


 ただ、時刻はすでに八時。

 急がないと学校に遅れそうだった。



「はやくこの子を植えないとね」

『ありがとなのー』

「肉も忘れたらダメなのだ!」

「うん、わかってるよ。そうだ、せっかくだし、ミィちゃんも今日は一緒にスーパーに行く? トカゲ君達の分も買わないとだから結構な量になるから荷物を運ぶの手伝って欲しいんだ」

「行くのだ!! 肉の山を買うのだ!!」

「あははっ……、山は買えないかな。それじゃあ、今日はなるべく早めに帰ってくるね」

「頼んだのだ!!」



 庭に喋る葉っぱを植えるとじょうろに水を汲み、軽くかけてあげる。



『これは美味しい水なのー』

「普通の水道水だよ」

『最高級の水道水なのー』



 どうやら喋る葉っぱは水道水が気に入ってくれたようだった。

 とても幸せそうにしてくれると僕の方もなんだか嬉しくなる。



『お日様の光もたくさん浴びれて気持ちいいのー』

「満足してくれたならよかったよ。また何かあったら言ってね。一応朝と夜に水をあげに来るから」

『ありがとなのー』

「おっと、時間がないから僕は行くね。ミィちゃんもおやつくれるって言われても変な人について行ったらダメだからね」

「もちろんなのだ! おやつ程度で私は釣られないのだ!」

「お肉なら?」

「貰うのだ!!」

「だからついて行ったらダメだよ!?」



 少し心配しながらもこれ以上は遅刻するので僕は家を飛び出していた。







「ま、間に合ったぁ……」



 本鈴前になんとか間に合った僕は机に突っ伏してぐったりとしていた。

 すると、それを心配した瀬戸くんが声をかけに来る。



「今日はぎりぎりだったな。何をしてたんだ?」

「ミィちゃんがダンジョンを壊しちゃったから片付けてたんだよ、朝まで……」

「徹夜かよ!? 大丈夫か?」

「この後寝るから大丈夫……」



 すでに僕は夢へと旅立ちかけていた。



「まぁ、怒られない程度にほどほどにな」

「うん……」



 そのまま僕は眠りについていた。







 放課後になると僕のところへ、三島さんと椎さんがやってきた。



「あはははっ、柚月君、すごくよく眠ってたね」

「ちょっと昨日寝てなくて……」

「先生も諦めてたよ」

「……寝てないの?」



 心配そうに椎さんが僕の顔を覗き込んでくる。



「実はそうなんだよ。だからすごく眠くて……」

「夜更かししたらダメだよ」

「……めっ」

「これからはなるべく気をつけるよ」

「そんなに遅くまで何をしてたの?」

「……配信?」

「配信はしてたんだけど、どちらかと言えばミィちゃんが散らかしたのをお片付けしてた感じかな?」

「そういえば小さい子がいるんだったよね。服、どうだった?」

「すごく喜んでたよ。大きさもちょうど良かったし。二人とも、選んでくれてありがとうね」

「私たちも選ぶの楽しかったしね」

「……んっ」

「それでもありがとう。また何かお礼させてね」

「それじゃあ、今度パフェでもおごってよ」

「……大きいの」

「そのくらいならいいよ」

「やたー。なら今度そのミィちゃんと一緒にね」

「……約束」



 確かに選んで貰った服を着たミィちゃんを見て貰うのは悪くないかも知れない。



「それで今度の休みとかどうかな?」

「僕は大丈夫だよ」

「……んっ」

「じゃあ決定ね」

「おいおい、一体何の話をしてるんだ?」



 僕たちが話していると瀬戸くんもやってくる。



「瀬戸におごってもらう話をしてるのよ」

「……んっ」

「ちょっと待て! どうして本人のいない中で俺がおごる話になってるんだ!?」

「あ、あはははっ……」

「細かいことは気にしないの!」

「全然細かくねーよ!」



 僕は思わず苦笑をしてしまう。

 そして、日曜にみんなで会う約束をして帰宅の途についた。







 家に帰ってくるとミィちゃんが抱きついてくる。



「今日はちゃんとお留守番してたのだ!」

「うん、偉かったね」



 僕が頭を撫でるとミィちゃんは嬉しそうに目を細めていた。



「今日は誰も来てないんだね」

「そうなのだ。一人っきりだったのだ」

「さすがに一人じゃつまらないよね。何か考えないと」

「それよりもスーパーなのだ! ハイパーなのだ!」

「ハイパーだと別の意味になるね。服だけ着替えてくるから待っててね」

「わかったのだ。急ぐのだ!」

「はいはい、わかってるよ」



 急かすミィちゃん。

 先に玄関へ行き足をバタつかせているようだった。


 僕も制服から私服へ着替えると急いでミィちゃんのところへ向かおうとする。

 すると庭の方から声が聞こえてくる。



『お兄ちゃん、いるの?』



 葉っぱさんも考えたら一人埋まってるだけで寂しかったのかな?



「いるよ。今帰ってきたところ」

『少しだけ来て欲しいの』



 ミィちゃんを待たしてる身としてはそれほど時間が取れるわけではないのだが、この子も急を要しているように見える。



「わかったよ」

『ありがとなの』



 僕はその足で庭先へと出る。

 すると、朝より少し大きく元気そうに葉っぱが育っていた。



『お兄ちゃんのおかげで大きくなれたの。ありがとなの』

「それはよかったよ。やっぱり太陽に当たらないとダメなんだね」

『それでお兄ちゃんに見て欲しかったの』



 何を見るのだろう? と僕が首を傾げると葉っぱの根の方がもぞもぞと動き出す。



「えっ!? だ、大丈夫なの?」

『んっしょ、っと。出られたの』



 葉っぱの根ができてたと思うとその姿が変わる。

 頭に緑の葉っぱを乗せ、金色の長い髪と緑のワンピースを着ている手のひらサイズの女の子がそこにいた。



「お兄ちゃんのおかげでこんなに大きくなれたの」

「えっと、君はあの葉っぱ君……だよね?」

「そうなの。お兄ちゃんに育てて貰って木の小精霊になれたの」



 クルッと僕の手のひらで回ってみせる。



「それはよかったね。おめでとう」

「ありがとうなの。嬉しいの」

「八代ー、まだ時間かかるのかー?」



 玄関の方からミィちゃんが待ちくたびれたように声を上げる。



「あっ、もう行かないと」

「あの、あのね、お兄ちゃん」

「どうしたの?」

「な、名前を欲しいの」

「あっ、そっか……」



 少し考え得て精霊っぽい名前を思いつく。



「それならティナ、とかはどうかな?」

「ティナ……、ティナ……、うん、すごく良いの。ありがとうなの」

「それじゃあ行ってくるね」

「あのあの……、ティナも一緒に行きたいの」

「えっ? 行くってスーパーに?」

「うん、なの」

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