第五話 現実
作戦時間30分前に移動を始め、馬に乗りながら(馬を操っているわけではない)目的地に向かっている。ホーネットの中心にある城に乗り込むのが翔だったらしく、ルートも一緒らしいので話し合っている。
「俺さ、この世界に来てよかったと思ってる」
「なんでだよ?この先何があるか分からないのにそんなこと言っちゃって」
「だってさ、普通に生きていたら来られないはずだったこの世界に俺たちはいるんだぜ。見たことのない生物、見たことのない鉱物、そして魔法やスキル、この世界にはそれがある。すごいと思わないかい?俺たちがいた世界とは別の世界があって、しかも元の世界とは全く違う。俺は少なくとも神秘的だと思う」
「はいはい、なんか宗教っぽいものにはあまりかかわりたくないけど、言ってることは分かるよ、一応ね」
「俺、魔王倒してもこの世界に居続けてもいいと思う」
「はぁぁぁあ?……何言ってんだ?元の世界の家族とかに会いたくはないのかよ?しかもこの世界に来てから日が浅いから分からないけど、昔に撲滅した病気があったり、未知の病気があるかも知れないから、俺たちには免疫がないぶん居続けるのは危険なんだよ!?しかもここは元の世界とは違って奴隷制度がある可能性がある。それでたぶん衛生環境が最悪だと思う。その場合、街中にる病原よりも深刻なものがあるかもしれない。そこからネズミを通して、町中に蔓延する可能性もある。ペストみたいにな。まあ可能性の話だが…この国を見てる限りそんなことはないと思うけど…」
「じゃあいいじゃん別に、だってさ俺たちが魔王軍を壊滅させたらさ、勇者とか英雄として羨まれるんだよ!元の世界に戻っても、ちゃんと仕事いけるか分からないし、たとえ就職出来たとしても、社畜として一生を過ごすんだろ!…だったらいいんじゃん」
「そうかもしれないがなぁ〜。……..おっとそろそろ、作戦時刻だ。お前は剣をちゃんと抜いとけよ」
「分かってるよ。そういうお前も剣を抜いたらどうだ?」
「俺は剣を持ってないんでね」
「話をしているところ悪いですが、そろそろ馬から降りてください。このあたりで下りないと、この子が邪魔になりますので」
翔の護衛の人に言われてしまった。
「「すみません」」
そう言って、俺と翔は馬から降り塹壕の中に入っていった。
塹壕の最前列の方へ連れられて、前の方へ立たされた。他のほうにはちょっとだけだが、クラスメイトの姿が見える。
行おうとしている作戦は人海作戦らしいです。俺たちは後ろの方に引くことができないんですが…一番前にいて特攻する人はこんな気持ちだったのか、最悪だな。
そろそろ、作戦決行時刻である。その時には太鼓の音が鳴るらしいのだが…早く来ないかな。ずっと待っているのは、好きではない早くしてくれ。
『ドドドォォンン』
少し音が小さかったが、唸るように音が遠くの方から聞こえた。すぐさま塹壕から飛び出て、瓦礫と化した街中へ突っ走っていった。
道中、連邦に栄光あれとか万歳とか聞こえたが聞き流す。
街中は既に、見たことのない生物が死体となっていた。俺の足の速さは中の中あたりしかも鎧を着ているのでそれなりには遅い、がどういうことだろうか、敵が既に死んでいる。しかも魔王軍に押されているってことは、一般兵じゃなかなか倒せないとして、恐らくやったのは俺たち召喚された奴らだろう。表情からしていきなりやられた感じがする。姿は人間に近いが近いかと聞かれると違うという感じの、よくわからん姿だった。
さらに前進していき俺が担当する区域に着いたがもうすでにあらかた片付いた後。何人か死傷者が出ているらしいが、すぐに城の方へ行けと言われたのでそちらの方へ向かった。さすがに俺の出番は取って欲しくなかった。
城の中はまだ戦闘中だった。こちらも死傷者が出ているが既に手遅れの方が多かった。中には翔の護衛の人もいた。奥の方で金属音が鳴り響いており、近づくて見てみると重装甲の鎧を着て10キロはありそうな巨大な斧を振り回してる奴と、翔がやりあっていた。既に翔の剣は折れていて、鎧を攻撃したとき衝撃で折れてしまったのではないかと思う。
「翔、お前大丈夫か?動きが完全に人間じゃないような気がするんだが…」
「ちょっと黙ってて」
「はいはい、じゃあちょっと時間稼いでて、支援しとくから」
俺は相手の後ろに回り込んで、早速『現夢』を使用してみた。しかし発動しなかった。
まさかの不発か?そんなものがスキルにあるのかよ…ハードだな。
実際、斧が振り回されているので、当たったら絶対動けなくなるような気がするので、下がったりしている。4回ほどやってやっと『現夢』が発動した。
さて夢の内容は、絶望に陥れるため、地獄みたいなところで仲間が苦しんでいる所を、イメージしてそれを夢にした。
「翔。これで動きがある程度、収まったと思うんだけどどう?」
「全然だめ。ていうか無茶苦茶に暴れてる。お前なんか、ヤバいものでもこいつに使ったのか?」
「いいや、ヤバい幻覚見せてるだけ」
「お前普通に考えてみろよ、確かにヤバい幻覚見せてたら、恐怖で動き止まるかもしれないけど、仲間が無残に殺されてるところとか見せたら、暴れるに決まってるだろ!! と言うかお前、そんな危険なスキルだったら早く言ってくれよ。」
お~そうか、じゃあほのぼのした夢を見させればいいのか。えっと…顔がよく分からないから、イメージしにくいな。しょうがない翔に兜を取ってもらうか。
「翔ちょっとそいつの兜壊して取ってくれない?」
「分かった。時間かかるから離れてて」
翔が相手の鎧を使って、頭の方まで登って行った。『現夢』で感覚を失っているようで、掴もうともしなかった。
翔が剣を兜に向かって斬りかかった。兜の厚さがどれくらいか知らないが、斬れないと思っていた。しかし翔はそれを、二つに斬っていた。けれど、剣はその衝撃に耐えられず、砕け散った。
相手の顔は豚のような顔だった。これがオークかと思いつつ、俺はすぐさま、ほのぼのした夢を見せようとしたが、夢を押し付けられるようになったので、翔にこれ以上、負担をかけないために、試すことにした。
見せる夢は・・・爆発するものにしよう。確実に死亡したか分かるからだ。
オークの体がだんだんと膨らんでおり2倍ほど、膨れた際、体が耐え切れず、周りに臓器をと鎧を撒き散らした。。事前にある程度離れていたので、なんの被害もなかった。翔は疲れたのか、寝ている。しかしゲーム感覚でできたので気軽であった。
そうやって、気を抜いていると、どこからか矢が飛んできた。
あ、これ死んだわ。
直感的に悟る。
避けれることなんてできなかった。俺は目を閉じる。
しかしでもいつまで痛覚が来ない。そっと目を開けるとそこには血を流しているアイリスがいた。刺さっているのは心臓のあたり。確かいきなり抜いたら大量出血で死んじゃうだっけ?俺は医者ではないので、何をすれば良いのかわからない。『現夢』を使うには時間がかかる。クソどうしたらいいんだ!アイリスが何か言っているが小声でよく聞こえない。
「アイリスさん!血が出るので喋らないでください」
けれどアイリスはやめない。顔からは涙が流れている。
呟いている内容が分かった瞬間、俺の体感時間が止まった。鼓動が小さくなっていき、ついには聞こえなくなった。そこから再び時間が動きだした。アイリスが呟いていた内容は、「父上、母上、ごめんなさい」だった。
そうだこれは現実だ。ゲームなんかじゃない。死んだ仲間は帰って来ないし、最初から始めれない。死んだらそこで終わりなんだ。
争いで死んでいく人達の気持ちはこうなのか、現実とは残酷なものだと再確認をさせられた。
余りにも軽すぎる死に俺は驚き、立ち尽くした。
遅れてすいません。
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