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かしましくかがやいて  作者: 優蘭ミコ
愛・響き合う
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2.冷たさに震える心

凜は再び傑のもとを訪れる。そして彼の本心を確かめると摩耶をもう石戸ここに連れてくることを誓った、しかし摩耶は……

「先輩は摩耶の心を受け止めてあげることは出来ないんですか」

「どうなんだろうな……」

「随分冷たいですね」

「人の心なんてそんなもんだ」

「……そ、そんな訳…無いです」


窓の淵に肘を掛け頬杖を突きながら病室の天井に視線を向ける傑の姿に凜は極度に不満そうな表情を見せるがその気持ちを言葉に表すことは出来なかった。病に倒れた不安が元の本心からの発言ではない様に感じられたのと尊敬する先輩への同情心も有るのかも知れないが、いずれにしても言葉を見つけ出すことは出来なかった。


「なぁ凜……」

「はい?」

「お前、考え直す気はないか」

「え……?」

「友達としてじゃなくて……こ、い…」


彼の言葉が終わるか終わらないかのうちに凜は首を横に振る。


「この前話した通りです。それに僕には今、好きな子……おそらく一生変わる事無く好きでいられる子がいるんです」


傑の眉尻がピクリと動く、それは明らかな動揺だった。


「傍にいすぎて気が付かない事って有るんですね。僕、近いうちにその子にちゃんと好きだって伝えるつもりです」


廊下側の窓に映る景色はかさかさと枯れた木の葉の音が聞こえてきそうな程乾燥して寒々とした冬の光景だったが傑の目には凜を中心に暖かな暖色系に包まれた風景が広がっている様に感じた。それは本気で人を愛せる心を持つ者のおくふところを垣間見せているのかも知れなかった。


その心と自分の内側を比較した時の温度は無限に近い差が有って、それを埋める事は今は不可能に思えた。そして悟る、今の自分に凜と付き合う資格は無いと。だが、その中にも希望は見いだせた。それはそんな奴でも見放さずに近づいてきて支えになろうとしてくれる者がいる、ならばその人に本気で向き合うべきではないか、そして自分が取った態度を心の底から反省して心の底からびるべきではないかと。


目を伏せ何かを祈る様に膝の上で手を組み傑は暫くの間黙り込む。そしてほんの少しの笑顔を浮かべると顔を上げ、ゆっくりと凜に向けて視線を向けて小さく口を開く。


「……俺、凜が羨ましいな」

「え?」

「巡り合う人にちゃんと巡り合って、気持ちを伝えようと思う事が出来て」

「そんな……」

「俺は巡り合えるのかな、そんな人に」


視線がどこに定まっているのか判然はんぜんとしないしない彼の視線は凜を抜いて廊下側の窓の外に焦点が有っている様に感じられた。そしてその視線は酷く弱々しく今にも消えてしまいそうな程だった。傑の病状は一進一退の様で、快方かいほうへの道が中々見つからない苛立ちと不安は時として彼を押し潰そうともするのだろう。その様子を見ながら凜は傑の摩耶に対する態度や発言は決して本心ではない事をここで確信した。


「あの、先輩……」

「ん?」

「もう一度。もう一度だけ摩耶さんと会ってみて貰えませんか?」


その言葉に傑は即答しない。彼はかなり長い時間の沈黙の後、ようやく口を開いた。


「なぜ?」

「それは今の先輩の沈黙間に答えが出てるんじゃないですか」


微笑みながらそう言う凜を見詰めながら傑は苦笑いを浮かべながら右手で頭をぼりぼりと掻いて見せる。


「お前、時々鋭いよな」

「ええもう、日々成長してますから」

「……なるほどな」


そして苦笑いは真顔に変わる。そして傑は視線を上げると凜をじっと見つめる。


「凛、もう一度頼みたいんだが……」

「はい、もう一度、摩耶をここに連れてきます」

「済まないな」

「いいえ、僕と先輩は友達ですから」

「……そうか、男の友情は一生物だったな」

「はい」


真顔は柔らかな笑顔に変わる。それは彼の素直な心と摩耶に対する思いを表している様に見えた。


★★★


……摩耶は再び登校しなくなった。


彼女の心はきっと硝子細工よりも繊細で脆くて傷つきやすくて壊れやすい。思春期特有の危うさなのかも知れないがこのままにするのは彼女にとって決してプラスにはならない筈だと数日間悩んだ結果、メールやその他での連絡ではなく直接話す事を凜は選択した。傑が入院する病院から帰宅し自室に入ると椅子に座って机に向かう。そして制服のスカートのポケットからスマホを取り出すと、アドレス帳から摩耶のダイヤルを選択し、コールする。そして、ちょうど20コール目でスマホの向こうから声が聞こえた。


「……なに」


朴訥ぼくとつと喋る彼女の声は酷く掠れて一瞬女の子の声とは思えない位のガラガラ声、加えて聞こえる衣擦れの音。おそらくベッドに寝転んで無意味に寝返りを打ちながら天井でも見詰めていたのだろうか、その光景が目に浮かんで凜の心にぐさりと突き刺さる。


「あ、うん、ありがとう、出てくれて」

「用件だけ言って、凜君とは長話したくないから」


その言葉の端々の冷たさが更にザクザクと突き刺さる。


「うん、じゃぁ……ね、その、も、もう一度佐藤先輩に会って欲しいんだ」


そう言った瞬間通話は無言で切れてしまった。沈黙するスマートフォンの画面を暫く見詰め、何かに思いを巡らせた凜は再び摩耶の番号をコールして5分程呼び続けたが摩耶が電話に出る事は無かった。溜息は小さなものだったがその意味は遥かに大きい。そして、どうしても顔を合わせて最低限自分の声で伝えたい、その思いは揺らぐ事は無かった。椅子からゆっくりと立ち上がると部屋の窓を静かに開ける。冷たい冬の乾いた風が部屋の中に吹き込んで来る。それはまるで今の摩耶の心の様だった……凜の脳裏には冷たさに震える摩耶の姿が浮かんで見えた。

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