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かしましくかがやいて  作者: 優蘭ミコ
それぞれの二人
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13.恋人と呼ばれて

時間潰しに店の中を見て回っていた紗久良は、十分程して試着室のカーテンが開く気配に気が付いてそちらに向かうと、採寸を終えた凜と女性店員が妙に仲良く中から出てきた姿を見て心にほんのり火が付いたりする。特に凜のほんのり頬を染めた嬉しそうな笑顔が何故かしゃくに触って、ほんのりの火が中火位迄パワーアップされたりする。


二人は一言二言会話を交わしてから別れ、ひらひらと凜に向かって手を振る女性店員と目が合った瞬間、紗久良の心の火の設定値は強火までブーストされたりしていた。勿論、その本のの存在は魔性の笑顔で覆い隠す。そして」嬉しそうに戻ってきた凜に対して腕組みしながら仁王立ちの紗久良はとげとげの有刺鉄線の様な口調で言葉を区切りながらこう言った。


「どう、だったのかしら……」


その妙に陰影がはっきりとしてまるで隈取くまどりでも施したんではないかと見まごう程の暗黒を張り付けた面差しを向ける紗久良の迫力に何故そんな事になっているのか分からずに思わず腰を低くし愛想笑いを装備する。


「え、う、うん、Bカップの後半だって」


その言葉の裏に何となく嬉しそうなニュアンスが含まれているのに気が付いた紗久良の迫力は急速に冷えて元の彼女に戻って行った。


「そ、そんなに?」


凜は小さく頷いて見せる。紗久良は凜にてくてくと近づいて行くと、彼女の胸に両掌を当てて改めてそのボリュームを確かめてから、凜に背を向けると自分の胸に手を当ててその大きさを確かめてみる。そして、ちょっと悔しそうにチッと舌打ちして見せた。


「どうかしたの?」

「え、ううん、何でもないわ。さ、凜君はどんなのが良いのかな、一緒に選んであげる」

「……う、うん」


くるりと振り向き後ろ手に手を絡ませながら明らかにから元気な笑顔を見せる紗久良の態度の豹変に凜は戸惑いを見せながらもなんとか笑顔を返して見せた。くるくると変わる女の子の表情は、この年代特有の思春期未満な時期に見られるある意味輝きなのかも知れなかったが、天と地程に態度を変化させるのは止めて欲しいかなぁなどと、凜は思った。


★★★


必要なインナーを買い揃えて二人はデパートの中をぶらぶらと散策する。今回は買うものが限定されていたから目的の物を揃えるにはそれほど時間は必要なくて、時間はまだ午前中。早めのお昼にしても良かったのだがあまりお腹もすいていなかったので、取りあえずと言う感じで歩き回る。会話は途切れ々で他愛のない物だったがそれは空気みたいなものでごくごく自然、特に気まずくなる事も無い。


また、当人同士は気付いていなかった様だが二人はいつの間にかふんわりと手を繋いでいた。お互いの暖かさが伝わっている筈なのだがそれが当たり前すぎて気にする必要は無かったのかも知れない。これが凜が男の子時代だったら考えられない事かも知れないが、紗久良も凜もお互いを同性としての認識度が深まっている証拠なのかも知れなかった。


エスカレーターで一階迄下りて、広いフロアーの中をふらふらと歩き回っていると紗久良が急に足を止めた。同時に凜は彼女の手を少し引っ張る様な形で足を止める。


「……どうしたの」

「うん、ちょっとね」


そして紗久良は凜の顔を覗き込むと眉間に小さな皺を寄せた。


「だ、だから、何?」

「ねぇ凜君」

「……は、は…い」


つないでいた手を離すと紗久良は徐に右手の人差し指を凜の唇にちょこんと当てる。そしてすりすりと擦ってみてからその指先を暫くの間まじまじと見てから再び視線を凜に戻す。


「荒れてるね、唇」

「え?」

「いらっしゃい、こっち」


紗久良は再び手を取ると目の前に有ったブースの中に凜を引っ張り込む。同時に聞こえる女性の『いらっしゃいませ』の声。紗久良が凜を引っ張り込んだのは某有名化粧品の販売ブースの中だった。そして、ショーケースの内側に立つにこやかな女性店員の前に凜を立たせるとその唇を指差しながら紗久良は妙に強い口調で訴えた。


「この荒れてるのが何とかなりそうな奴下さい」


その物言いがおかしかったのか、女性店員は口元に掌を当て、くすくす笑いを押さえながらソーケースの中から何本かリップクリームを取り出した。実際問題、秋も深まり乾燥が酷くなってきたから紗久良も肌も唇も荒れ気味で少し困っていたのだが、凜はそれ以上に酷くてすぐに手当てが必要な状態に荒れ放題の唇をしていたのだ。


「唇荒れたら困るんじゃないの、楽器演奏するのだって支障が出そうな気がするんだけど」

「え、あ、うん……」


紗久良の指摘通りで金管楽器の場合、唇のコンディションは楽器の音色にもろに影響する。ユーホニアムやトロンボーン、トランペット、フレンチホルン等々々、マウスピースに唇の振動を伝えて音にする楽器の奏者は練習と同時に唇のケアも必要なのだが凜はまだそこまで気を回す事が出来ていない様で、紗久良に指摘されて今更気が付いたりしたのだ。


「こちらどうぞ」


女性店員はショーケースの前に置かれた丸椅子を掌で指し示し座る様に促し、それに応じて凜はゆっくりと腰かけてから顔を上げると女性店員は凜の顔に自分の顔を近づけて唇をじっくりと観察する。化粧品の甘い香りが鼻をくすぐると近過ぎる女性の香りに思わず頬を染める凜の様子を見たと同時に紗久良が彼女の後頭部をぺしっとはたく。


「お連れさんはあなたの恋人さん?」


女性店員の『恋人』と言う言葉に凜の心臓がドキリと脈打つ。二人が同性同士に見えるの同性同士に見えるのか判別は付かなかったが、少なくとも女性店員の目には特別な関係に映った様だった。そして、周囲からそう見えている事に改めて気づいた凜はその場で固まりながら頬を染めるしかなかった。

紗久良に引っ張り込まれた化粧品売り場のブースで、女性店員に彼女は恋人なのかと尋ねられその返答に困りながらも凜はある結論を導き出す。

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