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かしましくかがやいて  作者: 優蘭ミコ
それぞれの二人
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6.莉子の輝き

今野は告白する、自分に好きな子が出来た事、そしてそれが莉子である事、そしてその事を伝えて欲しいと。ところが莉子は凜にぞっこんだから面と向かって言える訳は無いのだが、彼女はそれを引き受けてしまう。

「実は好きな子が出来た」


真顔の今野、その声色(こわいろ)は声変わりして間もない物だったが口調も重厚でそれなりに重要な秘め事を打ち明けられた様な気がしないでもなかったが凜は思わず爆笑してしまった。


「……冷てぇ奴だな」


そう言って再び顔を背ける今野に慌てて誤る凜だったが、爆笑してしまった事実は彼に対するアドバンテージを大幅に増やしてしまった。


「ご、ごめん、そんな意味じゃ」

「じゃぁどんな意味なんだよ」

「いや、その……え~~~」

「まぁいいよ凛、俺みたいのが恋バナなんて滑稽なことは分かってるさ」

「こ、滑稽だなんて」

「分かってんだよ小太りで運動苦手で頭もそれほど良くなくてオタクっぽくて……」


実際問題彼の着眼はあながち間違いではない。頭が悪いと、オタクっぽいと言うのは完全に否定する事項ではあるが、小太りと言う事に対しては正直完全に否定して払拭出来る人物はこの世にそれほど多くは無い筈だ。


「そんなふうに思わなくても」

「いや、そんなふうだろ、そんな俺が好きになったのが女子バスケ部のエースだなんてな」

「女子バスケ部のエース……エースって…え?」

「そう、お前と同じクラスの莉子さんだよ」


沈黙……そして今野が何を言ったのか理解した時、凜は背中を滝の様な汗が流れ落ちるのを感じた。


「……は、い?」


そして今野の熱い期待と困惑が入り混じった視線が凜に突き刺さる。切々と何かを訴えている様な彼の視線はその思いが本気で有る事を思が立っている様に感じられた。


「凛、その、頼みって言うのはだな……」


もぞもぞと話し出そうとした今野を制して凜はゆっくりと立ち上がると彼の言葉を遮る様にぽつりと一言。


「いや、言わなくても分かるよ、何が言いたいか……」


はあっと小さく溜息をつくと徐に立ち上がり、肩を落としぎみに凜はのろのろと楽器倉庫に向かう。そして愛用のユーホニアムのケースと譜面台を持ち出すと部室に戻り今野にちらっと視線を送る。そしてもう一度これ見よがしの溜息を一つ。


「……あ、のさ、凄く言いにくいんだけど」

「なんだよ凜」

「あんまり期待しないでくれよな」

「ああ、分かってるさ。男は当たって砕けるものだ」


だったら自分で告白しろよとポロリと口走りそうになったその言葉をぐっと飲み込むと、のたのたと部室を後にした。吹奏楽部の部室と言うのは少し妙なところに有って、その場所と言うのが体育館のステージ脇二階の小部屋で本来は何かの行開催時、放送機材を持ち込む場合に使う事を想定したらしいのだが全く使われる事は無く、その部分を部室として拝領したという事らしかった。


しかし、部員にはかなり不評な場所である。なにしろ簡易的に使うことを想定した空間だから暖房施設が無く、夏暑く冬は底冷えの寒に晒されることになる。全体ミーティング位にしか使用しないからまぁいいかと部員は割り切っていたりする。


★★★


いつも練習に使っている自分の教室に戻り、椅子を持ち出してそこに座って楽器をケースから取り出そうとして見た物の妙な疲労感に襲われて何だか闘気が沸いて来ない。そのままぼんやりと窓の外を眺めていたらあっという間に時間が過ぎ去り何もする事なく夕日が教室に差し込み始めてしまった。しょうがないから今日は引き上げようかと立ち上がって椅子を元に戻そうとしたその瞬間、がらりと教室のドアが開く。


「おやおや凜君、今日も練習ご苦労様だね」


首にタオルを巻いてユニホームのタンクトップのトップスに膝丈の長さの短パン姿の莉子が体を思い切り動かした後の爽快感を振りまきながら輝く様な元気と共に教室に入って来た。


「うわぁ!!」


思わず悲鳴を上げる凜の姿を莉子はスポーツドリンクの入ったボトルのストローを銜えながら不思議そうな表情で視線を送る。


「何?」

「え、あ、いやその……」

「いやその?」

「う、うん、何でもないよ、急に声かけられたからちょっと驚いただけ」

「ちょっとにしては大袈裟だったぞ」


莉子はにやにや笑いを浮かべながら汗ばんだ体で凜にペトリと抱き着くと、薄手のユニホームからじんわり伝わる彼女の体温に凜は何故か狼狽する。女の子同士にしか見えないが、まだほんの少し男の子が残っている凜の心にほんのちょっとだけ炎が灯る。しかし、体は完全に女の子だから身体的な変化はそれ以上盛り上がる事は無かった。そして、今野の頼みが頭を過り、凜は勇気を振り絞って口を開く。


「あ、あのさ、莉子……」


その改まった態度を不審に思ったのか莉子は抱き着いた腕を少し緩めて凜の瞳の奥を覗き込む。


「……ん、なぁに?私の唇が欲しいの」


相変わらず大胆な莉子の発言に凜は頬を染め、莉子の頬に当たるのも構わずにぶんぶんと首を振って見せる。


「そ、そうじゃなくて」

「じゃあなぁに?」

「え、いや、その……」


凜の言葉に何か期待を膨らませる彼女の心情を冷静に分析しはじき出された結論は、今野の事を打ち明けるタイミングではないと判断して凜はそのまま莉子のされるがままになる事にした。そして気のすむまで抱き人形にされた後、二人は玄関で待ち合わせて校門を出るまでの短い二人きりのデートとなった。


「じゃぁ、また明日」

「うん、朝迎えに行くからそれまでしばしのお別れね」

「あ、あぁ……そ、そうだね」

「浮気しちゃダメよダーリン」


莉子はウィンクと同時に投げキッスを飛ばすとくるりと(きびす)を返し、夕暮れの帰り道を反対方向に向かって駆けて行く。その彼女の姿はまるで悪戯な妖精が魔法を使って目の前から姿を消したいな錯覚に襲われて凜は思わずはっとする、そして思うのと同時に今野に深く謝罪する。


「今野……僕、話せないかも知れない…」


そう呟くと同時にカラスの鳴き声が聞こえた様に感じたのは単なる錯覚でそれは今野に対する罪悪感から来るものかも知れなかった。

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