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かしましくかがやいて  作者: 優蘭ミコ
硝子の心たち
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21.もう一度、そして・・・

恵美子の言葉で凜の迷いは溶けて行き、本当にすべきことを理解した。そして、紗久良に尋ねた一言に頬を染めながらも幸せを感じる。

恵美子の話に凜の心に少しだけたける感情が込み上げる。それは彼女の未熟さから来るものなのかもしれないが、今はその事に気付くことは出来なかった。


「凜ちゃん、凜ちゃんは本当に好きな人が誰だか分るって言いましたね。なら、何故悩むの?」

「え?」

「本当に好きな人が居るならその人のところにまっすぐ行けば良い、悩む必要なんてないでしょ」

「……で、でも」

「私ね、凜ちゃんの話を聞いてて思ったんだけど、告白されたその人に対する感情って、単なる共感であって愛とは違うんじゃないかしら」

「共感……ですか…」


凛の脳裏に傑の顔が浮かぶ。吹奏楽部の部長としてリーダーシップを発揮していた時の表情、それから入院してやつれ輝きを失った表情、そこに自分の戸惑った表情が重なる。


「そう、普通に同情してるだけ。凜ちゃんも女の子にならないと命に係わるって言われてその時人生最大の決断をした訳よね、彼もそれと同じことをしないといけない訳でしょ、高校受験を一度見送るって言う重大な決断をね」


言葉が出ない凜、色々な事を混同し、空回りをしている自分を指摘され、再び混乱する頭の中が消化不良を起こしてフリーズしてしまいそうになる。


「でもね、人生って運が良ければ……いえ、現代では普通になってきた百年近い時間の中で、たかだか一年って問題にしなければいけない尺なのかしら」

「振り返ればそうかも知れませんけど、リアルに直面してる時って……辛さが時間を止めてしまうと思います、十分な尺だと思いますけど」

「そうね、それは本人にとっても周りにとっても辛い事、力になってあげられる人が居ないと人の心は折れてしまうわ、その人の為になってあげたいって思うのは当然ね。でも、それが原因で本当に大切にしなければいけない人が手の指の隙間からすり抜けてしまったら、凛ちゃんは残りの時間をちゃんと過ごせるかしら」

「……それは」


残り時間を過ごせるか、その言葉に心の中でたぎる物がすっと冷えて行く。凜に残された時間は無限といって良いくらい長いのだ。その間、本当に大切にしなければいけない人を失った後悔と悲しみに耐え続ける事が出来るのか、もし本当に傑に対する今の気持ちが単なる共感でしかなかったとしたら自分は……


「そんな甲斐の無い生き方、凜ちゃんは出来る?」

「でも、放っておけないです、その人の事」

「そうね、凜ちゃんは優しいものね。でも、ちゃんと分けてあげないと、皆が不幸になってしまうわ」

「……皆が?」

「凜ちゃんも、凜ちゃんに告白した人も、凜ちゃんが一番好きな人も、凜ちゃんを一方的だけど好きだって言ってくれてる人も、そして、凜ちゃんに告白した人に愛を打ち明けた人も」


冷えた心が詰まってそこから今度は涙が溢れて来る。凜はその涙を隠そうとしなかった。それも自分の心だから。


「もう一度落ち着いて、自分の心に尋ねて御覧なさい。誰が答えてくれたかしら」


優しく微笑みながら見詰める恵美子の柔らかさが感じられた時、凜の脳裏に浮かんだのは紗久良の暖かな笑顔だった。


「……はい」

「凜ちゃん、私思うの。凜ちゃんに告白した人の対する思いって、友情とも言えるんじゃないかしら?それを蔑ろにするのはいけない事だと思うわ」

「はい……」


頬を伝う涙が妙に熱く感じられた。それは自分の心が温めた物、自分の心は決して冷めて痛みを感じなくなった無機質な物では無い、ちゃんと人を愛する事が出来るのだと凜は感じる事が出来た。


「もう一度会って話してみます。そしてちゃんと伝えます」

「そうね、それが良いわ」

「……先生」

「なぁに?」

「あの……あ、ありがとうございます」

「うふふ、ごめんなさいね、年よりのつまらない説教で」

「いえ、とっても楽になりました」


二人は視線を合わせながらくすくすと笑いだす。迷いから解放された心の軽さはまるで小鳥の羽根の様、そして、何時もの安らぎが訪れる。


★★★


窓の外、校庭の隅に生える銀杏の木の葉は黄色味を増し秋が深まるりつつあることを伝えてくれる。机に頬杖を突いてそれを眺める凜は、前の席に座りながら編み物の手進める紗久良に視線を移すと何となく訪ねてみる。


「ねぇ、紗久良……」

「ん?」

「……その時って…何時だと思う」


要領を得ない質問に指先から目を離し紗久良は凜に顔を向けると不思議そうな表情を作る。


「何の、その時?」


その視線が結構真直ぐだったものだったから、凜はその直撃に耐えられずに頬を染め思わず目を反らして机の上に突っ伏した。


「……ううん、何でもない」


額から汗が滲むのを感じながら凜は真っ赤に熟れたトマトの様に顔を染める。それが恥ずかしくて顔を上げる事が出来なくなって只管焦りまくりながら黙り込むが紗久良は追及の手を緩めない。


「何、何のその時よ」

「だから、良いんだってばもう」

「良くないわよ、最後までちゃんと言いなさいよ」


凜には紗久良が自分の言った言葉の意味を理解していてその事をはっきりと聞きたいからしつこく追及してくる様に感じられたが、実際はそん名では無くただ単に不思議な事を言ったもんだと言う興味本位の物でしかなかった。何時もの昼休みの風景、何事も無く過ぎて行く個々の時間に凜は恥ずかしさと共に、何時までも続いて行く事を祈った。そして誓う、いつか必ず紗久良に自分の気持ちを打ち明けようと。

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