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かしましくかがやいて  作者: 優蘭ミコ
硝子の心たち
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3.冬の大三角-シリウスの祈り-

マフラーを編みながら紗久良は凜への本心に気が付くが、それを言い出せない自分に対して苛立ちと焦りを覚えるが、具体的な解消方法を見出すことは出来なかった。

マフラーは編み進められてはいたがそのスピードはまるで蝸牛かたつむり紫陽花あじさいの葉の上を這う様なスピードでその進みはあまりかんばしいとは言えなかった。特に莉子が凜に告白してからのスピードダウンは目に見えての物が有り、マフラーの長さより溜息の長さの方が明らかに長かった。


時計の針は既に午前零時を回っていたが目が冴えて眠る気にもならず、まんじりともしない空気に包まれながら無駄な夜更かしを続ける紗久良はまるで夢遊病にでもかかった様に無表情で感情が欠片も見えない。


雑な言い方をしてしまうと出遅れたという立場にある自分が歯痒くて仕方がなくて夜空に向けて叫びたくなる衝動を不安定な殻の中に包み込む。凜が告白される場面二つに居合わせてしまった偶然はいったい何を意味するのだろうか神様は私に何をさせたいのか、そんなオカルト的な思考さえ湧き出して来る。


編み棒と毛糸をベッドの上に放り出し自分の体も投げ出すと天井を見詰めながら現状分析を始めるのは優等生の嵯峨さがという奴だろうか。定期テストではトップテンに食い込むことが有る位の成績を持ちながら嫌みが無くて実は男子に結構人気のある彼女だったが、幼馴染ではあったが凜と言うパートナー的な存在が居たから彼女に告白したりラブレターを送る男子は今までは居なかった。


しかし、凜が女の子になってしまったと言う状況の変化により、男子の一部に不穏な動きが有る事は紗久良もなんとなく感じていた。それでも、自分の本当の気持ちに気づいてしまった状況において、彼女は凜への気持ちを貫く覚悟が出来ている。だが、同じ思いの人物が自分以外に二人現れて既に告白を終了している昨今において、自分もと言うのは今更ながら的な感が有って極めて言い出しにくい状況にある。


はっきりしているのは凜を取り巻く三人中で自分が一番劣勢な環境に有る事は火を見るよりも明らかだった。男子であるにもかかわらず告白した吹奏楽部の元部長、涙ながらに気持ちを伝えた莉子、この二人は凜の心にざっくりと食い込む事が出来ている筈で凜はその思いにどう応えるかを全力で考えている筈。その考えの中に自分は居ない、私は今ただの長奈々馴染みでしかないのだ。


戸籍上凜はまだ男子だから、女子との付き合いを優先するかもしれない。少なくとも吹奏楽部の元部長は来年の三月が来れば中学を卒業してこの学校から立ち去り凜の前から居なくなる。そうなれば自然消滅という事が十分に考えられるから現状一番注目しなければならないのは莉子かもしれない。いや、莉子だって時が来て同じく卒業を迎えればそれで凜に対する思いはあきらめに変わる可能性が無いとは言えない。


しかし、時に任せていい問題なのか……自分との関係だって幼馴染と言う立ち位置で全て丸く収まって時の流れの中に置き去られてしまう可能性だって十分に考えられる。結局三人共思いは成就されずに人生の思い出の中に埋もれる事だってないとは言えない、いや、その可能性の方が高いのではないだろうか。


一番辛いのは凜、それは十分に理解している。凜の辛さを少しでも支えられたらそれだけで満足な筈だから、思いは恋でなくてもいいのかも知れない。幼馴染で親しい友人、その立場でも彼女に接していられるのなら満足できるかもしれない。


……違う


そんな浅い思いでない事はこの前、自分に心を問質といただした時にはっきりと気付けたではないか、私の想いは凜に対する恋よりも深い愛、体を投げ出しても良いと思うくらい身悶えしそうな位の切なさに翻弄されることを覚悟した大切な思い。しかし、今は頭の中で思うだけで粘土細工をこねくり回すだけの行為は愛なのか。暴走する思考を紗久良は止める事が出来なかった。


そして、輪廻する思考は彼女を不安の淵に追いやって行く。


紗久良は天井を見詰めながら暫くの間、思考を停止する。そして胸の前で両手を組むと目を閉じて空に祈る。凜との関係が終わりませんように、その未来が明るい物であることを、そして、もしも望めるのであれば、死がふたりを分かつまで共に暮らせる事を……


どこの誰に祈ればその願いが叶うのか、太古の昔まで血筋が続くご先祖様か、八百万やおろずの神なのか、あるいはこの世界の創造主か。いずれにしても私が願う様な細かい事案は取り上げてくれないだろう。しかし、今出来る事はこれしかない。


紗久良は祈る、凜の幸せが自分との関わりで有る事を……星達は少女達を見詰めながら優しく微笑んで見せる。


★★★


「紗久良、その、宿題……」

「え~~~、また、やって来てないの」

「う、ん、まぁその、色々考える事が有って、なんか手につかなくてさ」


紗久良は凜の『色々考える事』という言葉にドキリとする。おそらくそれは吹奏楽部の元部長と莉子の事だと直感したからだ。しかしそれを表情に出すことはせず鞄からノートを取り出すと、何事も無かった様に凜の前に差し出した。


「……まぁ、しょうがないわね、色々あったもんねここ最近」

「え、う、うん」

「大丈夫、何とかなるわよ」

「そ、そうか……なぁ…」


極めて不安そうな表情を浮かべる凜の顔を見ながら紗久良はにっこりと微笑んで見せる。


「もしも、にっちもさっちも行かなくなったら私に相談してよ。付き合い長いんだから完全に解決出来なくても、気休めに位にはなれると思うわ」

「……紗久良」

「楽観論も一つの考え方だからさ」

「う、ん……そうだね」


凜の顔に笑顔が戻る。それは何時もの彼女の表情にかなり近い柔らかさが有った。それを見た桜の心にも一筋の光が差した様に感じられて安堵が戻って来る。それが長続きする物なのかは今は分からない、でも、少なくとも希望を捨てる理由は存在しないことを確信する事が出来たのは、紗久良にとって明るい未来への材料であることは確かだった。


誰に祈ったのが効いたのか……紗久良はそれを検証してみる必要が有るのかなと考えてみたりした。

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