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毎日三枚小説『エイプリルフールに真実を』

作者: 都梅数多

「俺実はさもうすぐ引越すんだよね。言ってなかったんだけど」

 大会に向かうバスの中で、パートナーの弘道はそんな嘘を付いた。本来なら四月一日は学校の始業式の日で、まともに嘘を付いている暇はない。

新しいクラスで新しい生徒と仲良くなるのに嘘はいらないからだ。でも今日はソフトテニスの地区大会で、僕もちょうど嘘を考えていた所だった。僕はワザとらしく目を逸らし、窓の外を見ながら言った。

「実はさ俺も引っ越すんだよ。親父が転勤になってさ。新潟まで行かないといけないんだ」

「お前も今日がエイプリルフールだって判ってたのかよ」

落胆ぎみの声が聞こえてきた。僕は笑った。

「そういう事だ。まあ今日はさ。嘘みたいな勝ち方してやろうぜ」

 でも初戦から優勝候補の登場だった。うちの町から隣あった町にある。江越中だ。昔は僕の通っている中学と同じ位だったのに、僕らが中学校に入ってから強くなった。もちろん何回も練習試合をして、その度にぼろ負けさせられた相手だった。

 全員が集まった中で、団体戦のメンバーが発表される。通常僕は三番手だった。一番手二番手が僕より強いと思ってはいなかったが、先生が変わってから毎回そうだった。

「大島・取手。お前らが一番手だ」

 先生は僕らに笑顔を向けた。信じられなかったが嬉しかった。

「俺は江越中はライバルだと思っている。お前らが一勝あげて楽にしろよ」

「はい」

僕と取手は同じタイミングで答えた。

 勝つしかない。でも壁は厚かった。

「アドバンテージレシーバー」

審判がそう言って相手側のコートを手の平で差した。試合は3ゲーム取られたら負けだ。そのうちもう2ゲーム、しかもあと1点取られたらもうゲームオーバー。僕はボールを一つ握り床に弾ませる。相手が対角線ばかりに打ってくるので相当走らされた。何とか息を整える。監督に呼ばれて僕と道弘は先生の目の前に立った。先生は穏やかな顔で言った。

「お前に何が足りないか判っただろう?お前らを一番手にした理由もな」

 要するに僕が努力不足で、一番手は元から捨てていると言いたいのだろう。僕は歯を食いしばった。他の奴は、先生がいる前だけで頑張っているだけだ。僕は歯を食いしばって込み上げてくる怒りに堪えた。取手に背を叩かれた。無言の表情が相手はそっちじゃないといっている。

試合が再開して僕はボールを持った。ボールを地面に弾ませて呼吸を取る。サーブを始める一瞬。動き始める前はやっぱり緊張する。

一投目はネットに掛かった。僕はまた地面にボールを弾ませる。

「なあ」

僕の集中をいきなり弘道は妨げた。

「俺、引っ越すって言ったの。嘘じゃないぜ」

視線を合わせず、道弘は言った。

「は? 何言ってんだよ」

「もちろん栄転なんてのは嘘だ。神奈川支社の業績が悪いから閉鎖するんだって」

特に気持ちなんかこもってない。棒読みの台本みたいな口調だった。

「そこ、試合に集中して」

主審から注意を受ける。僕は頭がパニックになっていた。

「だから、絶対一泡吹かせてやれよ」

ぎゅっとラケットを握る手が汗ばんだ。二年間一緒だった道弘が本当に引っ越してしまうとは思えなかった。しかも、新学期といえば、今日からだ。大会が終われば居なくなるってことなのか?

僕は半信半疑のまま、ボールをとんとんと弾ませる。ボールを天高く投げ、僕は手首を思い切りスナップさせる。

ボールがラケットに当たった瞬間。僕は生まれてはじめて、これが連動したサーブなんだと思った。

ラケットを構えてレシーブが来るのに備える。しかしボールはラインのギリギリの所で跳ねて、そのまま外に向けた。副審を凝視する。手を平行に伸ばしライン内に入っていた事を告げる。デュースだ。これで二連続決まれば僕らがゲームを取る。

もちろん安心なんか出来ないが僕は絶対県大会まで道弘を道ずれにしてやろうと思った。

ちょっとスランプ気味で、中々更新出来なくてすみません。読んで頂きありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 爽やかな読後感。 素敵な話でした。また、寄せてもらいます。
2009/12/12 10:57 退会済み
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