恋愛ないし異性について徹頭徹尾無関心でした
私のは心霊現象でなかったと思います。亡くなった方の霊魂がもどってきたり、のりうつったりしていたのではないと思っています。おそらくは私の幼い脳内が作り出した劇に過ぎませんでした。でも、私は劇の中で日を暮らしていました。私にとっては、そこが実生活の場でした。というのは、そこ以外に生きる場がなかったので。
私は恋愛ないし異性について徹頭徹尾無関心でした。まわりがその話で持ち切りの時でも、私には関係がありませんでした。いわゆる性的マイノリティーに含まれるからではありません。確かに、そういう方々はいらっしゃるようです。異性に魅力を感ぜず、性欲を持たずと、そういう方々が実際にいらっしゃいます。私は、違いました。私の場合、無関心と無関係を装っているのでした。心の中は、無関心どころではありませんでした。そのことにばかり関心があったと言っても言い過ぎではありませんでした。もしも「春花でも彼氏が欲しいの?」と言ってからかう人があらわれていたなら、どっちかが生き続けない世界を私は空想したかもしれません。具体的には、何かの行為に及ぶことはしなかったでしょうけれど。
仮に、「春花でも彼氏が欲しいの?」と馬鹿にする人が現れたとしても、その人の発言に対してあからさまな反応を示すことを、私の自尊心が許さなかったでしょうから。