番外編 一度目の世界 1
「ご苦労様。もう用はないわ」
甘い匂いを身にまとい白いドレスを着たエレナは牢の中で倒れているアリスに告げた。
倒れているアリスはもう返事もしない。それを横目で見てエレナは笑いながら牢屋を後にした。
3日後、広場に国民を集め、そこで処刑する予定だ。この国に厄災をもたらした罪人イリークの弟子。3年間、否認し続けとうとう自白したことになっている。
馬鹿な人間どもは操られ、イリークを処刑し、魔法師たちを断罪した。自分に逆らう力のあるものは先に潰しておいた。
魔力のある者の中に聖なる血統がいるのではないかと探し、うまく聖獣を竜に成長させることもできた。
ここまで長かったが、少しづつ破滅に向かうよう計画を立て、そのように進んでいくのが楽しくて仕方がなかった。
最後の仕上げだ、よく見るがいい。エレンは心の中に燃え盛る憎しみを抑えきれなかった。
しかしその晴れ舞台である処刑日を迎える前にイリークの弟子は死んだ。
もう少し生きながらえればよいものを!と計画の崩れにエレンは苛立ちを覚えたがすぐにその遺体を森に運ぶように指示した。
森の奥、黄金に輝く竜の姿。
その竜は聖獣の申し子が亡くなったのを感じ取ったように苛立ち、地面を足で掻いていた。
エレンはその前に立つと、貴方の愛し子を連れてきたわ。と部下にアリスの体を放り投げさせた。
「見なさい!あなたの愛しい子が死んだわ。人間がやったのよ!何の力もない人間が聖獣の申し子を殺したのよ!」
やせ細り、髪の艶を失いボロボロにやつれた身体に、死してなお辱める様に剣が幾度も幾度も突き立てられる。聖獣に見せつけるように。
聖獣は天に向かって咆哮した。
聖獣は神の力をその身に通すことで成獣になる。はるか昔、人と神の交流があったころ、神と契りその係累に聖なる血を持つ人族が生まれた。そういう者の中にも聖獣と契約する存在がいた。
聖獣は彼らと魔力を通わせ成獣に変態し、生涯側にいて見守ったという。聖獣の申し子は亡くなっても丁寧にまつられ、聖獣の聖域で安らかな眠りにつくのだ。
その大切な身体を、魂を穢すとは。
人族の国に連れてこられ、1000年近くも孤独に過ごしてきた聖獣。ある日、森に一人の女がやってきた。そして、血の付いた布を差し出す。聖獣が興味を示さないと何度でもやってきて同じことを繰り返した。
ある時、その女の持ってきた布切れから一生得られぬと思っていた聖なる力を帯びた魔力を感じた。
これまでの反応と違うことに気が付いた女は、顔に笑みを張り付けていった。
「この血の持ち主を大切に思うなら私と契約なさい。」
聖獣は拒んだ。彼女と契約しても聖獣は成体にはなれない。
契約したい相手だとも思えない。
「あなたの渇望するこの血を持つ者をすぐに殺してもいいのよ。」
聖獣は羽をはばたかせ飛び去ろうとすると
「お前には探せないわ。封じているからね。さあ、さっさと契約なさい!あの男と同じように!」
この国の建国の王、その男も聖なる神の血など流れていなかったはずだ。そもそもその血を引いていたなら、神の国に入れたはずなのだから。その男と契約ができた以上、自分とも契約ができるはずだと女は詰め寄った。
「この血の持ち主がどうなってもいいのね。」
聖獣は女に血を流すように言った。女はためらうことなく自分の腕に剣で傷をつけ、聖獣はその血を口にした。が、名前はつけさせなかった。
「これで、お前は私を害することはできないでしょう?お前は私を守るものだから」
女はそう言って高笑いをした。




