アリスの帰還
しばらく馬車に揺られていても、夢から覚めて牢屋に戻ることはなく、馬車は記憶の中そのままの公爵邸に到着した。
屋敷も懐かしいと感じたのは一瞬で、すぐに嫌悪感と不安に置き換わった。家族のみならず使用人にいたるまで誰一人アリスに心を向ける者はおらず、蔑まれ無視され、世話もろくにされずにいたのだから。
3年前までこの屋敷で公爵令嬢として大切にされていた。
両親と兄、弟とここで幸せに暮らしていたのだ。父は王宮に勤め、兄は跡継ぎとしての勉強をしながら薬草などの研究をしていた。私の一つ下の弟は貴族学校へ、私は王立学院の魔術科へ通学していた。
父は忙しくて屋敷でゆっくりすることはなかったが、それでも家族に対する愛情は他愛ない言葉の端々や表情、プレゼントで十分示してくれていた。兄も忙しく、また重責を担いながらも弟妹達への愛情に溢れ、時には貴族としての在り方を厳しく教えてくれたりもした。
両親も兄弟も惜しみない愛情を注いでくれていたと思う、そして私もそんな家族がかけがえのない大切な存在だった。
まさかそんな家族に嫌われ捨てられると日が来るとは思いもしなかった。
馬車で門を通り、停車場につくとメイドと執事のロイドにつれられた弟のルイスが迎え出てくれていた。
「アリスは少し疲れたみたいなの。ちょっと休ませたいからルイスはロイドと待ってくれるかしら」
馬車内で目が覚めてから一言も口を利かず、無表情でほとんど反応しない私を心配した母はすぐに私の部屋に連れていき着替えさせるとベッドに寝かせた。
「アリス・・・どうしたの?どこかつらい?痛い?なにかあったの?」
(こっちが知りたい・・・)
16歳のはずの弟が4歳くらいにしか見えなかった事や、執事のロイドがずいぶん若いと気づいたとき、時が戻ったのだと思った。夢じゃなければ。
(・・・そんなこと起こりますか。ええと・・・牢屋で死にかけてたから、死んだのかな。もうすぐ公開処刑の予定だったから助かったな。・・・いや助かってないな、コレ。)
久しぶりの優しい母をみた。ちょっと若い。
牢にいるときは何度も母を呼んで泣いた。助けてと手を伸ばしてもその手はとってもらえなかった。
(今更・・・無理だよ。)