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待ち望まれた施設

掲載日:2021/06/22

「今日あたりどうだろう」


朝食の中、ぼそっと呟く。


「好きにすればいいじゃない」


妻はそういうと、顔も見ないで、急いで仕事に出てしまった。

その背を見送り、冷えてしまったコーヒーを飲む。


鞄には、以前からすっと出せずにいた辞表。

今日はこれを提出するために会社に向かう。

今日で最後かと思うと、会社に向かう道も、なんだか新鮮に思えた。


「本当に、受け取っていいんだな」


「はい お世話になりました」


上司は、面倒そうに辞表を受け取ると、どこかに電話をしていた。

苦手だと思っていた顔も、最後だと思うと、すこし愛嬌があるように見えた。


同僚たちに挨拶をつげ、総務に残りは有給消化すると伝え、必要な書類を記入。

昼休憩の前に、会社を去る用意も終わってしまった。


帰り道、いつも気になっていた、高そうな料理屋にはいる。

思っていたほどはおいしくなく、思っていたよりずいぶんと高かった。


誰もいない家に帰りつき、玄関をあける。

妻に残せる財産の明細を作り、リビングにおいておく。

最後に手紙でもと考えたが、やめておこう。

早く忘れてくれればいい。

もう、家に帰ってくることはないとだけ、メモを残す。


僕が今から向かう場所は、新しくできた公的施設である。

利用するのに料金はいらない。

尊厳死とはちがって、健康だろうと、18歳以上であれば、自分の意志だけで終わりを迎えられる場所だ。


「宗教上の問題がある。神はお許しにならない」

「未熟な若者が早まった判断をしかねない」

「未来は誰にもわからない、早めに終わらせることに何の意味がある」


世間の批判の声が大きかった。

しかし、匿名の世論調査では、支持率88%、内心誰もが望んでいたことが判明した。


白く、シンプルな建物は病院の外観と似ている。

長い行列をまって、ようやく入り口に入る。

入り口では、疲れた顔をした男性が迎えてくれる。


「お待たせして申し訳ありません、最近は本当に忙しくて」


「いえ、こちらのわがままで来ていますから」


本人確認を済まし、書類にサインをする。

その先には、また長い行列ができており、その先で注射を受けると、ようやく終わりを迎えることができる。

受付に礼をのべて、自分も行列に並ぶ。


「あぁ やっと終わることができる」


妻が帰宅し、メモを見る。

興味なさそうに、それを捨てると、ソファに座り、テレビをつける。


NEWSのキャスターは、長い行列の前で、視聴者に告げる。


「新法により設立された、この施設「国立自死センター」の利用率は国民全体の70%を超え・・・」

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― 新着の感想 ―
[一言] たまに思う事があるのですが、人が死ぬのってけっこう、大変ですよね。看取りとか、葬式とか、お墓とか。 私は、こんな事を思うのは変かもしれないのですが、死んだら無なので、お墓とか葬式はいらない…
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