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待ち望まれた施設

「今日あたりどうだろう」


朝食の中、ぼそっと呟く。


「好きにすればいいじゃない」


妻はそういうと、顔も見ないで、急いで仕事に出てしまった。

その背を見送り、冷えてしまったコーヒーを飲む。


鞄には、以前からすっと出せずにいた辞表。

今日はこれを提出するために会社に向かう。

今日で最後かと思うと、会社に向かう道も、なんだか新鮮に思えた。


「本当に、受け取っていいんだな」


「はい お世話になりました」


上司は、面倒そうに辞表を受け取ると、どこかに電話をしていた。

苦手だと思っていた顔も、最後だと思うと、すこし愛嬌があるように見えた。


同僚たちに挨拶をつげ、総務に残りは有給消化すると伝え、必要な書類を記入。

昼休憩の前に、会社を去る用意も終わってしまった。


帰り道、いつも気になっていた、高そうな料理屋にはいる。

思っていたほどはおいしくなく、思っていたよりずいぶんと高かった。


誰もいない家に帰りつき、玄関をあける。

妻に残せる財産の明細を作り、リビングにおいておく。

最後に手紙でもと考えたが、やめておこう。

早く忘れてくれればいい。

もう、家に帰ってくることはないとだけ、メモを残す。


僕が今から向かう場所は、新しくできた公的施設である。

利用するのに料金はいらない。

尊厳死とはちがって、健康だろうと、18歳以上であれば、自分の意志だけで終わりを迎えられる場所だ。


「宗教上の問題がある。神はお許しにならない」

「未熟な若者が早まった判断をしかねない」

「未来は誰にもわからない、早めに終わらせることに何の意味がある」


世間の批判の声が大きかった。

しかし、匿名の世論調査では、支持率88%、内心誰もが望んでいたことが判明した。


白く、シンプルな建物は病院の外観と似ている。

長い行列をまって、ようやく入り口に入る。

入り口では、疲れた顔をした男性が迎えてくれる。


「お待たせして申し訳ありません、最近は本当に忙しくて」


「いえ、こちらのわがままで来ていますから」


本人確認を済まし、書類にサインをする。

その先には、また長い行列ができており、その先で注射を受けると、ようやく終わりを迎えることができる。

受付に礼をのべて、自分も行列に並ぶ。


「あぁ やっと終わることができる」


妻が帰宅し、メモを見る。

興味なさそうに、それを捨てると、ソファに座り、テレビをつける。


NEWSのキャスターは、長い行列の前で、視聴者に告げる。


「新法により設立された、この施設「国立自死センター」の利用率は国民全体の70%を超え・・・」

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― 新着の感想 ―
[一言] たまに思う事があるのですが、人が死ぬのってけっこう、大変ですよね。看取りとか、葬式とか、お墓とか。 私は、こんな事を思うのは変かもしれないのですが、死んだら無なので、お墓とか葬式はいらない…
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