スキル研究所
最近はやたらと知り合い関係の依頼が続いている。
だが、ギルドの受付のお姉さんにああも頼み込まれてしまっては断るに断れなかった。
ギルドは仲介手数料で利益を出している以上、高額の依頼を手放すわけがない。あのまま、受付のお姉さんの頼みをかわし続けても、時間を無駄にするだけだっただろう。
それにスキル研究所を狙う何者かの正体は私も気になっている。
そんなわけで、依頼を正式に受注した私はカンガード家が所有するスキル研究所に出向いていた。
「あなたが噂の赤フードの冒険者さまですね。どうぞこちらへ」
大きな鉄門の前に立つ二人の警備兵に、依頼のことを伝えると、スムーズに敷地内へと通された。
研究所はレンガ造りの巨大な建物だ。
しかし、本当に危険な研究ーーあまり使用された記録データのないレアスキルの効果を試したり、人工的にレベルを上げた試験スキルの効果を測定する時には、地下を使うらしい。
カンガード家のスキル研究所が持つ一番の研究功績は、スキルレベルの人工的な強化だ。
いつもスキル名の後ろについているⅠ~Ⅴ(私の場合は最大Ⅹ)の数字がスキルレベルであり、スキルの効果の強さを表している。
スキルレベルはスキルの使用によって、自然に通常限界のⅤまで上昇することもあれば、本人の適正に応じて早めに上昇限界がやってくることもある。どれだけ頑張っても、Ⅲあたりでスキルレベルの上昇が止まってしまうケースがそれだ。
だが、近年のカンガード家の研究によって、人工的にそのレベルを上げられるという事実が発見された。
かなり希少かつ高価な魔力鉱石を使用するため、一般人がスキルレベルをひとつ上げるのには、一ヶ月分以上の賃金が必要だと言われている。
カンガード家はこの技術を独占し、外部秘としているため、魔力鉱石の販売とスキルレベルアップの施術で、莫大な利益を得ているらしい。
そのスキルレベルアップに関する情報こそ、盗賊団が狙っているものだろう。
研究所の中に通されると、そこには一人の少女がいた。小さな背丈に見慣れた、表情の変化の少ない顔。
だが、彼女は私の正体には気づかない。
彼女は挨拶をする。
「こんにちは、赤フードの冒険者。私はこの研究所の研究統括をしているエルス・カンガードと申します」
そうやって、優雅に頭を下げた彼女からは、さっきお茶会で一緒に飲んだ紅茶の匂いがした。