蛇神の血をひいて
私の祖国は東大陸でも特殊な信仰をもつ国。
王家の始祖は蛇神の血をひくとされ、王家の血をひくものは白い髪に紅い瞳のアルピノで生まれる。
そして、それ以上に卵で子を腹に宿し孵化させ、人間の赤ん坊と同じくらいまで腹で育ててから産み落とす。
そして、番いとなった相手が不貞をしようものなら蛇神の呪いがふりかかる。
それは、本来なら死だ。
しかし、私は蛇神の血を受け継ぎながらも、アルピノではなかった。
漆黒の髪に緑の瞳をもつ王女。
もしも番いと結ばれなければ、不貞を働かれたなら、相手ではなく私自身に死の呪いがふりかかる。
私の両親は、私をできるだけ城に、信頼できるわずかな女官だけを仕えさせ塔へととじこめた。
ー私をまもるために。
まだ、幼いこころがすでに恋人や夫をもつ者に憧れてしまわぬように、
私は城深く、塔高く、閉じ込められた。
ー大切に守られて。
しかし、私の世間での印象は違う。
滅多に外に出してもらえない哀れな王女。
たまに同性しかいない孤児院や修道院などには慰問に出してもらえたから、慈悲深く健気と言う噂もたった。
いつか、良縁に恵まれてくれるようにと、両親はわざと悪者になり、また兄弟達もそれに習った。
そう、私はとても大切にそだてられたのに。
ーごめんなさい。父上、母上。呪いが発動はしてしまいましたわ。
中央大陸で一番の大国リオン。
大陸会議に珍しく父上が私を同席して、紹介したい男性がいると上機嫌だった父上がその男性を紹介する前に、私の目は、ひとりの男性に釘付けになってしまった。
光り輝くような美貌を持ちながら、切なく、熱く、悲しげに、けれど、あきらめたように。
いろいろな想いをこめて、夜会でも一番目立つふわふわゴージャスな金髪に、凍えるようなアイスブルーの繊細な恐ろしいほど繊細に整った顔立ちに、見る者全てを惹きつけるスタイル。
私の国にもその名を届けていたエリザベス・パーマー。
のちに私の大切な親友となる彼女を見つめるその熱に、私は恋してしまった。
同じ蛇神の血をひく両親はすぐに私の呪いが始まったことに気がついた。
そして。彼、ポマス・マポも。
本来なら私の相手として父上が紹介しようとしていた彼は、大国リオンの若きブレインとして、活躍する上、とても優しくて誠実な男性だ。
だったひとつの欠点、ツルッパゲをのぞけば。
そして、私の大切なエリザベスの想い人。
私が恋した瞳がむかう女性。
その全てが、皮肉で。でも運命だったのだろう。
叶わぬ想いをもつ者通し、ポマス様の策略もありいま、私は陛下の子を孕っている。
「私が死んだら、どうぞ、あなたの望む相手を娶り子をなしてくださいませ」
「いや、いらぬ。私の大切な子供は、一生このティアラだけだ」
夫婦二人だけの寝室で、私の腹に耳を押し当て腹の中で笑い声をあげてるティアの存在に目を細める彼には、うちあけている。
蛇神の呪いもイレギュラーな私にだけ作動し、別に私が死んだとしても、彼が望めば普通に女を抱くことも子をなすこともできることを。
しかし、彼はキッパリ拒否をしたばかりか、こっそり私のもう一人の親友アークレッドに住むカノン・フィルを通し魔女ヤーガバーバから不能になる秘薬を手に入れ、三日三晩高熱に苦しみ抜いた。
周囲には、無能で不能な王として。
いまもエリザベスを想いながら、決して不誠実ではなく私に接してくれる彼を。
腹の中のティアラは賢正しく慕っている。父として。
誰にも邪魔されない親子の時間は、ティアラの誕生ともに終わる。
「ありがとう、エドワード」
「礼をいうのは僕だよ。可愛い娘をありがとう。そしてー」
すまない。
そう続く言葉を私は唇で塞いだ。
私は世界一幸せな夫をもつ妻だ。
そして、彼にとって、最後まで悪妻だろう。優しく誠実なエドワード。
再婚はしないとは口にしない。きっとティアラに母をと、おもってるのだろう。
けれど、誠実なエドワード。
自ら子のできない身体になった。
おそろしく、純粋で、馬鹿な男。
私の初恋を叶えてくれた。
誰よりも愛しく、哀れな夫。
エドワード。




