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7 師匠は誰にでもフレンドリーです

一つ前で木の家を三階くらいの高さ、と表現しておりましたが、二階くらい、へと変更しました。


 家の中に入る。


 木の壁、木の床……そりゃそうか。

 高さはなかなか、広さも森の中の師匠の家よりも広い……。入り口入ってすぐはダイニングになっているみたいで、広めなキッチンと、テーブルとイスのセットが置かれている。端の方には二階に上がる階段があって、テーブル奥には別の部屋へと続くドアもある。

 埃も無く、綺麗な部屋だ。自我がある木である事を除けば、めっちゃ良い家だろう。


 心なしか、家全体がワクワクしているように感じる。ジルお爺さんで鍛えられた私の観察眼を舐めてもらっては困る。木の家は、感想を待っているのだろうか?


 そんな事には恐らく気付いていない師匠が、いい笑顔でこちらを振り返った。


「凄いねぇ!可愛いお家だね!」

「……そうですね。良いお家ですね。」

「お気に召したようで良かったです。」


 ザワワワワワ!


 頭上にある葉っぱが喜び揺れているのだろう。なかなか感情豊かそうな家だ。いや、木なのか?


 ただ、問題は、この家を改装するという所なんだけれど……。大丈夫かな?入り口を大きくするために切ったりなんかしたら……。


「木の家さんー!僕と、このヴィリアがね、今日からお世話になるんだけれど、お店も開きたいんだー!少し形を変えたいんだけれど良いかなー?」

「師匠、強いですね。」

「ん?なにがー?」


 私が心配していた事を、なんの躊躇もなく、しかも木の家に直に聞くという……。その勢いの良さ、流石です。師匠。


 木の家の反応は……なんだか静かだな……。大丈夫なのだろうか。


 不安に思っていると、家全体が振動し始めた。


「お二人共、一度外に出ましょうか。」


 ニコニコ顔のレイさんに促され、入ったばかりの家から出る。なかなか落ち着かないな……でもそれも仕方ない。木の家から魔力の動きが感じられたからね。


 外へ出て木の家の方を見ると、先程の揺れとは比較にならないくらい揺れていた。


「これからたくさんお客さんが来るかもしれないって思ったら嬉しくなっちゃったのかなー?」

「そっちですか……?」


 私はてっきり、家の改造など許せるかー!の怒りの揺れだと思ったのだけれど……。

 師匠はやっぱり楽天的だ。



 木の家はどんどん揺れが大きくなり、あちこちの地面が盛り上がってきた。


「……これ、大丈夫なんでしょうか?」

「もしお二人に危険が迫りそうでしたら、すぐに対処しますので。」


 レイさんの落ち着いた返答。その笑顔、おそろしや……。対処って……木の家処分する気ですか?


 揺れる木の家よりもレイさんが恐ろしくなってきたところで、大きな音が鳴り響いた。



 ゴゴゴゴゴゴゴゴ!!



 ……なんという事でしょう。二階建ての高さの木の家は、三階建ての高さの木の家になりました。



 一回部分は根っこで構成されているようで、たくさんの根が壁を作っている。床は土のままなので、あそこに木の板を敷けば良いのだろうか?


 今もまだ少しウゴウゴと動いている一回部分は、扉のない倉庫のような状態だ。お店として使うには十分な広さがある。


「お店部分を作ってくれたんだー!凄いね!!」


 師匠は今の動きに動じる事なく、木の家を褒め称えている。木の家は枝の一部をてっぺんの葉が生茂る部分に持っていった。照れてる?照れているのか?


「これならお店部分は少し手を加えるだけで良さそうですし、その間も上の部屋は普通に使えますから良いですね。」


 うんうんと頷くレイさん。確かに、改装中暮らせなくなる可能性もあったから、これはありがたいのかもしれない。


 しかし……。


「これ、どうやって上に上がるんですか?」

「え。」

「あ。」


 ザワワワ!?


 いや、葉っぱを揺らして会話に入ってくるなし……。


 根っこは急勾配な角度で上に伸びていったので、二階部分に上がる手段が無かった。


 困った木ですね……なんて呟きながら、レイさんが対応してくれる。


「とりあえずは、梯子でも借りてこないとダメかもしれないですね。木の家は魔力をかなり使ったようですので、しばらくは動けないでしょう。階段の製作を最優先に依頼しておきましょう。」

「お願いします。」


 近くのお店から梯子を借りてきてくれたレイさんと一緒に二階になったリビングダイニングへ移動して、一階部分のお店作成の話を詰めた。



「うん。このくらいですかね。後は足りない物など出たら、遠慮無く教えて下さいね。」

「はい。ありがとうございます。」


 こうして、私と師匠が暮らす家が確定した。


 一階部分もとても広いので、製薬をする部屋も作れるそうだ。細かい作業が多いので、専用の部屋があるのはありがたい。


「これからここがお家になるのかー!ワクワクするね!ヴィリアー!」

「……。」


 ……師匠は一週間に一度しか帰ってこない予定だけれど、とても嬉しそうだ。これは現実を突きつけるべきなのだろうか?……いや、もう少し泳がせておこう。うん、その方がきっと……私が楽しい。



「では、魔王城に戻りましょうか。主人の不眠症を治して下さるんですよね?」

「はい。不眠症はすぐには解消されないかもしれませんが、しっかり対応すれば改善していくはずです。その改善には、周りの方の協力も必要かもしれませんが。」

「そうなのですね。私は全身全魔で協力させていただきますよ。」


 レイさんが胸に拳を当て、軽く礼をする。腰がピンと伸びていて、綺麗な仕草だと思った。


 全身全魔……確か、古代人の本には『全身全霊』と書いてあった気がするけれど、今は全身全魔と言っている。最初にそう言った人は、ふざけ半分だったのだと後に言っていたそうな……。


 それにしても、自分の持てる力全てを使うって……そんな気合入れなくても大丈夫だとは思うんだけれど……。まぁ自分の上司の健康の事だし、長年悩んでいたんだものね、真剣にもなるか。



 馬車に乗って魔王城に戻る間、レイさんに魔王様の生活の事を聞ける範囲で聞いていった。やはりこの人、魔王様本人よりも魔王様に詳しい気がする。

 しばらく質問していって、ふと頭に過った疑問。朝、毎回あの朝食の時のような陽の当たる場所に出ているのだろうか?もし毎日陽に当たっているのなら、体のリズムはリセットされるだろうから、不眠症は解消しやすいかもしれない。


「そういえば、魔王様っていつもあの場所で朝食を食べていらっしゃるんですか?」

「いいえ。普段は起きたらすぐに仕事をしたいとおっしゃるので、執務室へ簡単に食べられるものを運んでいますよ。あのように優雅に朝食を食べられる姿はめっちゃレアです!私は心のシャッターを目一杯切りました!」


 ……おかしいな、ちょっと前までのレイさんと性格が変わった気がするぞ?細かい質問し過ぎて、熱が入っちゃったかな?


「執務室は陽に当たるような設計ですか?」

「はい、設計上は。主人は陽に当たると文字が読みにくいと言って、いつもカーテンを閉め切った状態でランプを点けてお仕事されるのです。なので、あの朝食の時の……日差しが顔にかかった美しさ……久々に良いものを見ることが出来ました。」


 すげー饒舌だなぁ……。

 これはあれか。主人大好きっ子か……?


「あのお方は仕事熱心過ぎて、なかなかゆっくりとした時間をお取りにならないのです……。私としましては、街の人に魔王様の素敵さをアピールするためにも、ゆっくりと時間をとって街に繰り出して頂きたいのですが、なかなか……。あぁ……あの美しさ、格好良さを私だけが知っている今ももちろん良いのですが、魔王様の良さをもっと世に知らしめたい……ああ、でも独り占め出来なくなると言うのも……。難しいものです。」

「はぁ……そうですか。」


 あれだ。古代人の本にあったぞ。ファンだ。これは紛れもない魔王様ファンだ。

 真面目そうだったのに……めんどくさい人だったんだな……あんまり関わらんでおこう。



 魔王城に向かう馬車の中は、レイさんによる魔王様を絶賛する嵐によって面倒臭い風が吹き荒んでいた。私はそれを、全身全魔で受け流した。


 ……早く着かないかな。あ、香りのレシピでも考えるか……。

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