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6 魔王国で暮らすための家。師匠は気に入ったみたいです

若干説明回。


 朝食が終わり私と師匠は魔王様と別れ、レイさんに連れられて城下町へと向かった。

 私達に貸してくれるお家兼お店まで連れて行ってくれるそうだ。


 お城の外へ出て、すぐ近くに停まっていた馬車へ案内される。

 馬車は箱型でそこまで豪華ではない見た目をしていた。

 二頭の馬が繋がれていて、こっちをチラチラ見ている。よく見ると、馬の首には黒い鱗が生えていて、尻尾は蜥蜴のようになっている。この地域は魔素が濃いから、普通の動物の方が少ないはずだ。

 

 馬車の中は、見た目と違って随分と豪華だった。椅子はふかふか、窓にかかるカーテンは、外から見るとただの黒だったのに、内側には綺麗な刺繍がされている。……お忍び用なのかな?


「これからあなた方が暮らす事になるお家に案内します。馬車にはゆっくり走ってもらいますので、良かったら街中を見て行ってください。」

「わーい!ヴィリアー!城下町ってね、凄いんだよー!みんなイキイキしていて、街はキレイなのー!」

「そうなんですか。」

「うん!そしてねー!魔法の噴水があったり、あちこちにキレイなお花が咲いてたりしていて、見て周るだけでも楽しいんだよー!」

「へぇ……。」


 師匠の言う通り、街は活気に満ちていて、キラキラとしていた。


 人々のほとんどに角が生え、羽があったり尻尾があったりしている。さすが魔族の街だ。

 でも、見た目だけで、聞こえてくるお店の呼び込みや値下げ交渉など、人族と何も変わらない様子に少しホッとした。


「ね?みんな楽しそうでしょー?」

「そうですね。」

「我が主人の統治が、隅々まで行き届いているんです。」


 少し胸を張ったレイさん。自慢の主人なのだろう。

 ゆっくりとした足取りで進む馬車の中から見る街の景色は平和な街だった。



 馬車はさらにゆっくりになっていき、やがて止まった。


「さぁ、着きましたよ。」

「ここ……ですか?」

「凄いねぇ!」


 馬車の窓から見える家は……ここだけ世界が違うと言いたくなるくらい異様だった。

 レイさんは馬車を降りて私に手を差し出してくれる。その動作で、この家で間違いのだと言われた気がした。

 私はお礼を言って、レイさんに馬車から降ろしてもらった。師匠は後ろでピョーンと飛び降りていた。


「この家なんですがね、今は家主がいないので、こんな状態なんですよ。」


 ニコニコ顔で家へと案内するレイさん。私は黙って案内された家に目を向けた。



 木がうなだれている。

 そうとしか表現出来ない。


 この家の周りは少し空間が空いていて、お隣さんとの距離はまぁまぁある感じだ。そのお隣さんの家は普通の家。木の板と石を使っていて、綺麗なクリーム色で木が塗られている。可愛らしい家だ。


 対して、私たちが案内され家は……『木』そのものだ。大木だ。家と同じくらいの幅の大木。空へと伸びるはずの葉が途中で方向転換して、地面に向かって曲がっている。……木がうなだれているように見えた。


「めっちゃ木だねー!」

「木ですね。」

「前に住んでいた方が、自然の中で暮らしたいと言う欲を全開にしたそうで、このような家になったようです。我々としては、周りに迷惑がかからなければどんな家でも構わないという方向性なもので……。」

「隣の家とは間が空いていますし……迷惑はかからないでしょうね……。」

「ええ……。」


 レイさんが困ったような顔で続けた。


「最初は木の形の普通の家だったのですが……時間が経つにつれ、自我が芽生えてしまったようでして……。あ、一方的に家の動きで察する程度なんですけどね。」

「魔素の影響でしょうか?」

「おそらくそうだと思われます。ここは原初の魔力の影響を濃く受けた地、ですので。」



 原初の魔力……。さすが魔王様のお城のある地だ。


 原初の魔力は、この星に落ちた隕石の衝突と共に発生した力の事だ。それまでこの星には魔力は無く、かなりの文明を築いていたようだった。今は、隕石が落ちる前までに文明を築いていた人たちの事を古代人と呼んでいる。

 隕石の衝突を予測した古代人は、後世に文明の一端を残そうとあらゆる物を保存、保護したそうだ。

 ただ、隕石の衝撃があまりにも強大で、ほとんどの物は残らなかったのだけれど……。

 物と一緒に、ほとんどの人は死んでしまったようだった。私が知る限りでは99%の古代人が死んでしまったらしい。


 隕石の衝突で発生した原初の魔力は、運良く生き残った魔力を持たない人間と生物に大きな影響を及ぼした。


 隕石の落下地から近い場所にいた古代人と生物はその濃い魔力を受けて変異し、魔族、魔物となった。

 落下地から遠くにいた古代人は空気中に満ちた魔力に順応するため、進化して今の人族になった。

 ごく一部、古代人のままの人もいる。


 ……と、言われている。


 私が今立っているこの場所は、その隕石が衝突した場所から近いと言う事だ。いまだに濃い魔力が空気中には充満していて、木が変異してもおかしくはない。……家が変異っていうのは大変珍しいと思うけれど……。つまり、この家、生きてたって事だよね。


「元気なさそうだねー。人が住んでいないからなのかなー?」

「そのように見受けられますね。」

「ここに……住むんですよね?改装とか大丈夫ですか?」


 師匠が木の様子を心配している。まったく動じていない様子の師匠。さすがだ。絶対深く考えていないに違いない。

 私はこの全身で気持ちを表そうとしている木を改装して大丈夫なのか心配でしょうがなかった。


「こんにちはー!木の家さんー!これからここに住む事になったよー。よろしくねー!」

「……よろしくお願いします。」


 木に触れながら話しかける師匠。私にも言え、という視線が来たので仕方なく私も挨拶した。


 すると、なんという事でしょう。木の家がこちらをチラリと見るかのように、葉を揺らしたではありませんか。そして、私と師匠を確認すると、ブルブルと全身で震えだした。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴ!


 ゆっくりと地響きを起こしながら頭?を持ち上げる木の家。ピンと空へと伸びると、二階建ての家くらいは高さがあった。


 さらに木の家は葉を揺らし、黄色くなってしまっていた古い葉を落としていった。しばらく揺れて、黄色い葉を落としきると、緑の葉だけの元気そうな木へ変貌した。


「凄いねぇ!」

「そうですね。こんなに動くんですね。不安しかないです。」

「ははは。大丈夫ですよ……たぶん。中に入って改装について話しましょうか。」

「家の中はどうなっているのかなー?楽しみー!木の家さん、お邪魔するねー!」


 レイさんは私の心配を苦笑いで濁しながら、木の家に入っていった。師匠は木の家に話しかけながら、元気に後に続いていく。


 たぶんって言ったぞ。たぶんって。……変な家を案内されちゃったなぁ。


 ……ただ、この落ちた葉っぱ……何かに薬効があるかもしれない。いくらか拾って後で調べようっと。


「この葉っぱ、少し調べさせてもらいますね。」


 私は一応木の家に断りを入れてから、地面に落ちた黄色い葉っぱを拾い集めて布に包んだ。


 さて、家の中はどうなっているのだろう……。

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