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51 カークさんは、ご老人ズも数年声を聞いていないくらい寡黙らしいです

た……大変遅くなりましたーーー!orz


今回の話は、お食事中の方はお食事が終わってから読んでいただいた方がいいかと思います。そんな感じの内容(症状)のお話です。あとがきも同じくです。お気をつけください!

 次の日。


 お店を開店させると、待ってましたと言わんばかりにご老人ズの三人が定位置に座る。

 ……もう完全に定着している。私はいつも通りにお茶を三人に振る舞った。


 午前中はのんびりとしたものだった。朝に少しだけ疲労回復のドリンクが売れ、その後はお昼までのほとんどの時間を調薬室で過ごした。


 午後になり、ご老人ズがお弁当を食べ終えたタイミングでお茶を出して、自分も一緒に休憩がてら座る。

 今日のご老人ズの話は、もっぱらご近所に住んでいるというスーケさん、カークさん、キンサーンさんの三人組についてだった。


「しょういえばにょー、スーケさんがまた大衆浴場にぃ、にょぞきあにゃを開けよったしょうでにょー。」

「まーたかいのー。あの助平じじぃは懲りないのー。」

「ほっほぅ、キンサーンがすぐに気付いて張り倒していたようじゃー。キンサーンも大変じゃのー。」

「前にぃ、スーケさんがやらかしたにょはにゃんだったかにょー?」

「ふむ、確かー……スカートめくりが出来るように杖に返しを付けておったやつかいのー?」

「しょれよしょれよ!ほっほっほー!地面にぃ着く方にぃ返しぃがあって、キンサーンがしゅぐにおかしぃいと気付いたんよにょー。」

「ほっほぅ!そんなこともあったのじゃー。被害が出る前に気付いて良かったのじゃー。」


 ……スーケさんがとんでもない助平であるという、どうでもいい事が私の頭にしっかりインプットされた。

 キンサーンさんは毎回それを止めているのだろう。……損な役回りだ。

 三人いるうちの一人、カークさんについてはほとんど語られない。きっと静かなお人なのだろう。



 ご老人ズの話に耳を傾けながら、肩をグリグリしたり薬の補充などをしていると、あっという間に夕方になった。


 もうそろそろ店を閉めようかというところで、控え目に入り口のドアが開いた。


「……すみません。まだ大丈夫でしょうか?」

「はい。大丈夫ですよ。」


 ドアを薄く開いてその隙間からこちらを覗いているようだ。声は女性のもの。

 私が大丈夫だと伝えると、恐る恐る……というように扉を開いてするりと店に入ってきた。


 店に入ってきた女性は、綺麗な濃い紫の真っ直ぐな髪に、落ち着いた黄色い色の角を持っていて、節目がちになっているのも合わさって落ち着いた雰囲気を纏っているように感じた。


「……あの、ご相談したいことがありまして。」

「はい。」

「あの……その……。」


 チラチラとテーブルに座るご老人ズを見ている女性。

 他の人に聞かれたくないような相談事なのだろうか。……あまり聞かれたくない内容の病気もあるだろうし、ご老人ズには席を外していただこうか。


「イトさん、シオさん、カイさん。今日はこちらのお客様を最後にお店を閉めようと思います。」

「しょうかにょー。そんじゃぁ帰ろうかにょー。」

「そうするかいのー。」

「ほっほぅ、今日もよく喋ってよく笑ったのー。ヴィリア嬢ちゃん、また明日のー。」

「はい。また明日。」


 普通に返事してしまったが、……明日も来るんだ。まぁ当然か。もうご老人ズは完全に入り浸り、茶飲み客として定着しているのだから。……ここは薬屋なのだけれど。


 ぞろぞろと三人が並んで去って行く。

 それを静かに見送って、扉にクローズの札をかけ、女性に声をかけた。


「今片付けますので、こちらにかけてください。」

「……はい。ありがとうございます。」


 足首まで隠れる長さのスカートを丁寧に整えながら座る仕草はとても上品に見えた。ルビス様のような貴族の方だろうか?

 座っても背もたれに体を預ける事なく、緊張した面持ちでこちらをチラチラと見ている。


 私はテーブルに残っていたお茶を片付けて、しっかり拭いて綺麗にしてから新しいお茶を入れ直して女性に持っていった。


「お待たせしました。ご相談とは?」

「はい……。あの、私……あの……。」


 ずいぶんと言いにくそうだ。一体どんなご相談なのか……。とにかく私は話してくれるまで、お茶を飲みながらゆっくりと待つことにした。


「えっと……べ……。」

「べ。」

「……便秘で……。」


 なるほど、便秘か。

 自分が便秘である、とは確かに言いにくいものだろう。ただ、薬師である私としては比較的よくあるご相談である。


「便秘ですね。今どのくらい出ていませんか?」

「……今は三日です。」

「なるほど。ちなみにいつぐらいから便秘の症状は出ていますか?」

「えっと……便秘自体は小さい頃からです。たぶん……四十年くらいでしょうか。」

「四十年……。」


 四十年ずっと便秘と付き合ってきたのか……。それはなかなか大変だったろう。


「今まで便秘の薬を飲んだ事はありますか?」

「その……恥ずかしくて……。近所の人に便秘の薬を買っているのを見られたりしたらって思ったら……なかなか買えなくて。」

「便秘はよくある症状ですよ。特に女性は便秘になりやすいんです。もしかしたらご近所さんの中にも便秘薬を服用している人はいたかもしれませんね。」

「そうなんですか?……うぅ。」


 たとえ他の人が買っていたとしても、自分が買っているところを見られたりしたら恥ずかしいと思ってしまうのだろう。この人は恥ずかしがり屋さんのようだ。


「普段の生活について質問をしていってもよろしいですか?」

「はい。」

「水分はよく摂っていますか?」

「飲みたいなーと思ったらとっていますが……。」

「野菜は一日どのくらい食べていますか?」

「えっと……。このくらいのお皿一杯分くらいでしょうか……。」


 女性が手で表したお皿はスープ用の小さいお椀くらいだった。

 ……一日の摂取量としては少なめだ。

 ちなみに、水分を飲みたいと思うまで飲まないというのも少ない部類に入るだろう。


「きのこ類やヨーグルトは食べますか?」

「外食の時は出てくると食べますね。家ではそこまで食べていないです。」

「運動はしていますか?」

「基本書類仕事ですので……。休日もお買い物くらいでしか動いていないです。」


 運動量も少ない。

 水分はあまり取らず、野菜もあまり食べず、運動量も少ない。

 ずっとその生活だとしたら、便秘にもなるだろう。


「お話を聞く限りですが、生活習慣によって便秘が起こっていると思われます。その状態ですと、薬を飲んで一時的に解消してもまた便秘になってしまうでしょう。」

「……そ、そうなんですか……。」

「はい。今回はとりあえず便秘の薬を飲んでもらいますが、そのあとは生活習慣の改善をしていきましょう。きっと便秘に悩まされない生活を送れるようになりますよ。」

「四十年悩んでいた便秘と離れられるんですか……!」


 信じられない、とでも言うかのように節目がちだった目が見開かれる。


 ……この女性は便秘薬を買うことも恥ずかしがっていた。

 もしかしたら、知り合いと便秘について話す事も、便秘解消に良い食べ物や行動の情報を手に入れる事すらも出来なかったのかもしれない。


 その状態で四十年便秘と付き合っていたのか。……孤独な戦士のようだ。



 とにかく、この人には便秘についての情報と、その解消のための情報が必要だろう。

 今日は便秘薬を調薬して、飲み方を伝えて今の便秘を解消してもらう事にした。


「生活習慣改善の話は次回来た時にしましょう。」

「は、はい。」

「時間は今日のように閉店間近で大丈夫ですか?」

「あ……はい。ありがとうございます。」


 きっと他の客がいる時に便秘の話をするなんて恥ずかしいだろうから、先に時間を閉店間際で良いか聞いてみた。

 案の定だったようで、女性は今日初めて微笑んでくれた。その微笑みには上品さがあって、やっぱり貴族の方なのかと思われた。


 よし。しっかりと便秘を解消していただけるように指導していこう。

今回は便秘についてですね。

便秘は比較的女性に多いです。


その原因は、男女の筋肉量の違いと、女性には腸の手前に子宮があることが関係しています。子宮があるために外部からの刺激が腸に届きにくいとかなんとか……。

あとは、高齢の方は男女に関係なく便秘になりやすいです。これは筋肉量が関係しています。高齢になると腸周りの筋肉が落ちて、腸を動かしにくくなってしまうんですね。


腸は蠕動(ぜんどう)運動と言って筋肉で動かしています。食事に気をつけていても水分を摂っていても便秘になりやすい方は、筋肉が落ちている事が考えられます。


また、水分も大事ですが、油分も少し必要です。

油分は滑りを良くしてくれるので、出しやすくしてくれるんですね。

高齢になると水分もさることながら、油分もあまり取らないので、便秘になりやすいんですね。


便秘の解消には水分、野菜、運動が大事です。

便秘についてのどうでもいい薬の話とその他の解消に向けた話は次回にしたいと思います。

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