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5 朝食の味は師匠に聞いてください

 師匠と合流して魔王様の待つ朝食の席へ向かった。


 案内された部屋は長方形で、真ん中に長ーい長方形のテーブルが鎮座している。

 魔王様は私たちと向かい合わせになるように、奥の方に座っていた。緊張して味がしない朝食になると思っていたけれど、これだけ遠いなら大丈夫かな。


 私と師匠が席に着くと、魔王様がにこやかに朝の挨拶をしてくれた。


「おはよう。二人とも疲れは取れたか?」

「おはよーアズロさん!僕は元々疲れていないよー。」

「おはようございます。素敵な部屋で、とてもよく眠れました。」


 旅なんて無かったし、疲れというと気疲れ的なものしか無いんだけれど……。


「そうか。良かった。」


 なんとなく……魔王様は私の様子を注意深く見ているように感じた。

 そんなに疲れているように見えていたのかな?


「食べながらで申し訳ないんだが、今後の話を軽くさせてくれ。」

「はい。」

「むぐむぐ……。」


 師匠はもう食べるだけの人形と化している。話は私がするしかない……。まったく、いつも面倒な事は私担当なんだよなぁ。私と一緒に暮らすようになるまで、よく生きていられたものだ。……美味しそうに食べおってからに……。


「君たちには城下町の空き家を使って、薬師として働いて貰おうと思う。」

「お店まで用意してくださったんですか……。」

「ああ。誰も使っていない古い家でな。そのまま放っておくとより悪くなる。誰かに暮らしてもらったほうが助かるんだ。そんな家だからあまり気にしないでくれ。店への改造はレイに相談してくれ。」

「そうですか。何から何までありがとうございます。」


 確かに、誰も住まなくなった家ってすぐにボロボロになっていくものね。村でも、誰も住まなくなった家が朽ちていくいく様子を見ることがあった。本当にあっという間で、朽ちた姿は少し寂しく感じられた。

 どんな状態だろうと、初期費用なく住んで良いなんてありがたい。遠慮なく住まわせてもらおう。



 ……だがしかし。



「魔王様、魔王様の所有している薬草園などはありますか?」

「うん?まぁ、あるにはあるが……今は誰も手を付けていないから荒れているし、城の裏の森の中にあるから、少し遠いぞ?」

「構いません。むしろ好都合です。その薬草園で師匠を働かせてください。師匠は薬草を育てるのがとても上手なんです。」

「ほぅ。」

「それに、遠いなら薬草園近くに掘っ建て小屋を建てますので大丈夫です。」

「えぇ!?僕、ヴィリアと一緒に街で暮らすんじゃないの?!」

「師匠は一週間に一日、休みの日は帰ってきて良いですよ。」


 師匠、てめーはダメだ!


 師匠がしっかりしていれば被ることの無かった被害だったのだ。少しは反省してもらう。師匠には厳しく!これ鉄則!


「そんなぁ……。」

「少しは反省してください、師匠。やたらめったら借金したり、誰彼構わず薬草をあげたりしたからこうなったんですよ。」

「うぅ……。」


 私が説教していると、遠くから笑い声が聞こえてきた。

 魔王様がコーヒーを飲みながら、優雅に笑っておられた。朝日を浴びながら笑うお姿……絵になるなぁ。


「ふはは……。いや、すまん。」

「お恥ずかしい限りです。」

「つい、楽しそうだと思ってしまったのだ。許せ。」

「いえ、むしろすみません。」


 魔王様が落ち着くのを待ってから、話の続きを始める。


「薬草園を復活させてくれるのならば、ありがたい事だ。小屋はこちらで請け負う事にしよう。レイ、良いな。」

「はい。かしこまりました。」

「ありがとうございます。」


 師匠は薬草園に放っておけば、勝手に色々と育てるだろう。何より、薬草が近くにあれば勝手にあちこち行かないところが師匠の特徴で一番良いところ。街から離れているなら好都合だ。


「僕、一週間に一回しか街に行けないの?」

「頑張って薬草を育てて下さいね、師匠。その薬草で私は薬を作りますから。」

「ううぅ……わかったよぉ。」


 いじけながらも了承した師匠。良い歳してそのいじけ方はやめなさいって……。


「師匠がいない三年の間に見つかった、新しい薬草の種もありますからね。」

「うわー!本当?それは楽しみだなぁ!」


 そしてすぐ治る機嫌。本当に師匠は天真爛漫という言葉がぴったりだと思う。


 話が落ち着いたと思っていたら、魔王様がおずおずとした様子で続けてきた。


「その……育てる薬草なんだが……。」

「はい?」

「フェドミ草を多めに頼みたい。」

「フェドミ草ですか……。構いませんが……。」


 師匠が魔王様にあげた薬草がフェドミ草だったな……。何に使うのか、聞いた方が良いかな。


「どなたが服用されるのでしょうか?私の方で飲む方に合った形に製薬しますよ。」

「飲むのは私だ。」

「魔王様が……フェドミ草を?」

「うむ……その……。」


 魔王様が言いにくそうにしていると、横に控えていたレイさんがニコニコとした表情で引き継いだ……というかぶっちゃけてくれた。


「我が主人は、夜眠れないそうなのです。」

「ぐ……。」


 何故か恥ずかしそうにする魔王様。


「不眠症、ですか。なるほど、それでフェドミ草……。」


 副交感神経を優位にさせるフェドミ草。リラックス状態になるので眠りやすくはなる。本来の薬効はアレルギーなどの反応を抑えるもの。副作用として眠くなるのだ。その副作用の方を目的としているみたい。しかし……。


「常用するのは良くないですね。」

「……そうなのか?」

「薬なしでは眠れなくなってしまいますよ?」

「むぅ……。」


 ……この表情、納得いっていなさそうだ。すでにあまり眠れていない、というところだろうか。それだったら薬がある方がいいだろう。なーんて思っていそうな顔。


 少し話を聞いた方が良いかなぁ。やたらめったら薬をあげるのは薬師として出来ない。


 魔王様を診察する人間なんて、私が初めてなんじゃなかろうか……。


「魔王様、眠れない、というのはいつ頃からですか?」

「む?……むぅ。何年くらいだろうか……。」

「ここ十八年はお昼に少し眠るようになっていますね。それも浅めですが。」


 魔王様が答えに悩んでいると、レイさんがサッと答えていった。

 レイさんの方が魔王様に詳しそうだ。それにしても、十八年不眠症はなかなか辛いな。人族ならそれだけで健康被害が出そうなものだ。私は続けて聞いた。


「朝は同じ時間に起きていますか?」

「はい。毎日同じ時間に起こしに行っています。」

「眠る前の行動として、寝る直前まで本を読んだり、仕事したりしていませんか?」

「していますね。明かりがいつも遅くまで灯っています。」

「不眠症になる前後に、精神的な不安があったりとかはしませんでしたか?」

「至って普通に過ごしていたと思います。敢えて言うならば、このくらいから仕事が忙しくなりましたかね。」

「先程、コーヒーを飲んでいるのを拝見しましたが、コーヒーは一日何杯飲んでいますか?また、夜遅くにも飲んでいますか?」

「一日六杯は必ず飲んでいますね。夜も欠かさず飲んでいます。」

「お前はどこまで俺を把握しているんだ……。」


 若干魔王様が引いている気がするけれど……。ま、いっか。


「そうですね……生活習慣病ですね。」

「生活習慣病?」

「生活習慣のせいで起こる病気の事です。その不眠症は精神的なものというより生活のリズムや行いによって起こっているようです。」


 軽い問診だったけれど、多分間違い無いだろう。魔王様は、最初に会った時から精神不安定な感じではなかったものね。目を見て話すし、すごく自信がありそうな動きだったもの。


「生活習慣によって起こる……。どう治せばいいんだ?」


 魔王様の質問に答えるとするならば、それはもう生活指導になる。長くなるので朝食の席ではなく、しっかりと時間をとってもらう事にしよう。

 私と師匠の暮らしのこともあるから、レイさんと打ち合わせた後で、もう一度会う事になった。


 時間があるときに睡眠に入りやすくなるアロマでも作っておきますかね……。

本編とはあまり関係ないですが、睡眠導入剤という市販薬について……。


ジフェンヒドラミンは、アレルギー反応を抑えるのに使われたり、風邪の時の鼻水を抑えるのに使われます。


その副作用として、眠くなります。

市販の睡眠導入剤に使われていたりもします。


睡眠導入剤とは眠るのを助ける、というもので、お医者さんが出してくれる睡眠薬よりも効果がとっても弱いものになります。

たまに、お医者さんにかかるのが面倒で、薬切らしちゃったから睡眠薬の代わりに売ってくれーって来る人がいましたが、飲んでも意味がないくらいに違うので、そういうお客様はお断りしていました。睡眠薬を常服している人にはこれっぽっちも効かない、と言われています。


ではどんな人に飲んでもらうものなのか、というと……。


明日の旅行が楽しみすぎて眠れない!とか

旅行中枕が変わるから眠れるか心配!とか

明日の会議の説明、心配すぎて緊張して眠れない!など


一時的、限定的な眠れない症状の時に使うものです。常に使うような薬ではありません。


ドラッグストアで購入出来るものはそういう用途になりますので、ご注意ください。

以上。どうでもいい薬の話でした。

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