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44 お店に戻る時、市場の人にサムズアップされまくりました。恥ずかしい……

 倒れていた男性に向かって治療院の人が手をかざし、頭から足元まで手を行ったり来たりさせている。


「んー。心臓付近の血管の破裂が見られますね。すぐに修復、内出血した血液を血管内に戻しますね。」


 治癒師は治療魔法に特化した人の事。

 体の中に自らの魔力を通し、異変の起きている場所を特定させてからその場所を修復する。

 他人の体内に自分の魔力を通す、というのは魔力の親和性がないと出来ないらしい。治癒師になれるのは、あらゆる人と魔力を通わせることができる特殊な魔力を持っていて、さらに治療の魔法を使える人だけなのだそうだ。


 この魔力の質を持っている人は極稀で、その質を持つ人間が現れると王の管理下に置かれ丁重に扱われるらしい。


 男性の心臓近くで手を止めた治癒師は、そこに魔法をかけていく。


 治癒師の手から溢れた魔力は、不思議な紋様を描いて男性の体に吸い込まれていくように消えた。


「……。はい、これで大丈夫です。」

「ありがとうございました。」

「間に合って良かったですね。」


 治癒師が手を下ろしてニッコリと微笑む。治って良かったと心から思っているような顔だ。


 男の子は父親に駆け寄って顔を覗き込んでいる。

 私も一緒に男性に顔を見る。顔色は先ほどまでと変わり青さはなく、ごく普通の寝顔のようになっている。


 これで一安心だろう。


「カイさん、イトさんご協力感謝します。」

「あ……ありがとう……ございます。」


 私がイトさんとカイさんにお礼を言うと、男の子は思い出したと言わんばかりに振り向いて、二人にお礼を言った。

 そこまで背も大きくないから、年齢は十にも満たない子供だろうけれど、きちんと敬語でお礼が言えている。偉い。


「いいにょよー。」

「ほっほぅ、間に合って良かったのじゃー。」


 そんな男の子に二人のご老人も良かったね、と笑顔で応じていた。



 男性の目が覚めるまでここに居ていいということで、治癒師の人は下がっていった。

 代わりにやってきたのは、書類の束を抱えたきつい目つきの女性だ。


「代金についてのお話はどちらの方にすれば良いでしょうか?」

「え、あ……。」


 今ここに男性の身内は男の子しかいない。弱々しく手をあげた男の子に容赦のない目つきで見下ろし、質問していく。


「あなたは確か……やはり。前回の支払いがまだ済んでいませんね。今回の支払いもその続きで払っていただく形になりますがよろしいでしょうか?」

「う、は、はい……たぶん。」

「金額は前回と一緒です。そのまま払い続ける期間が伸びたと思って下さい。」

「はい……。」


 女性がキビキビと手続きを進めていく。


 この治療院は誰でも、貴族も平民も分けることなく見てくれる。王の下に平等に開かれている施設だ。

 支払い金額も貴族などの区別なく一定に決められていて、分割払いが出来る。ただし、高い。とにかく高い……らしい。貴族はわからないが、平民は今回の男性のように、緊急の場合以外ほとんど利用しないとの事だ。これは市場情報だけれども。


 男の子の父親は前に倒れたときの支払いがまだ済んでいなかったようだ。高いからね、仕方ない。

 この先も支払いが続くのは気の毒だけれど……待ってくれるだけありがたい事なのかもしれない。


 ……それにしても、この女性のキビキビ具合を見ると、治癒師の人は金額に関しては関与しないのだろうな、と思われる。慣れたように金額の話を進め、手続きをしていく様子は金銭担当のように感じられる。治療は治癒師が、金額はこの女性のような専門の人が話をつけるのだろう。

 治癒師の人は穏やかそうな人だったし、治ったことを本当に喜んでくれているようだったし……絆されて値引きさせられそうな人の良さだったように思う。


 もしかしたら、治癒師になれる特別な魔力というのは、そういう性格も影響しているのかもしれない。



 男の子への説明が終わると、女性はキツい目つきのままこちらを向いた。


「……あなたが、噂の薬師ですか。」

「はぁ。」

「まぁ頑張っていらっしゃるのでしょうが、あまり余計な事はなさらないで下さい。領分というものがありますので。」

「はぁ。」

「では、失礼いたします。」


 睨み付けるようにそう言って女性は去っていった。……釘を刺されたのだろうか?


 領分?


 そんなものわかっている。自分に出来る事と出来ない事……治療院に任せたほうがいいものの区別など分かっている。だから今回、この男性は連れてきたのだ。


 ……つまりあれか。あの女性は自分の領分が脅かされると勘違いしているのか。


「……愚かやにょー。」

「ほっほぅ、治療院はあまり外と関わらんからな。勘違いも甚だしいのじゃー。」

「……。」


 思った事をハッキリキッパリご老人ズに言われてしまった。

 誰かが代わりに文句を言ってくれるのを聞くと、なんとなくイラッとした感情も凪いでしまう。ご老人ズは私の代わりに怒ってくれているようだし、もういいか。


「君のお父さんが起きたら、ゆっくりで良いのでお店に戻ってきてくれますか?そこで話を聞かせてもらいますね。」

「うん。あの、お姉さんも、ありがとう。」

「……はい。」



 男性が目覚めるまでお店を放っておくわけにもいかないので、私とご老人ズは先に戻る事にした。



 お店に戻ると、シオさんが手を振っていた。


「おぉ、お帰りお帰りー。大丈夫だったんかいのー?」

「はい。無事に治療院で治療してもらいました。後でこちらに来てもらう事になっています。お店を見ていてくれてありがとうございました。」

「そうかそうかー。いやぁお嬢ちゃんがいない間に来た客には、急用だからもうちょい後で来るようにって言っておいたかいのー。」

「はい。助かりました。」


 シオさんは客に急な患者で席を外している事を伝えて、また後で来るようにと言ってくれたようだった。助かった。


 帰って来ると、時間はお昼を少し過ぎたくらいだった。

 ご老人ズにお昼はどうされるのか質問すると、三人ともお弁当を出してきた。


 ……店にずっといるつもりなのだろうか……?


 仕方ないので私もご飯を二階に取りにいってご老人ズと一緒に昼食をとる事にした。


 むくみとり靴下は二階に上がった時に脱いだ。足首の部分になかなか強固な横線の痕が残った。……やっぱりこの靴下は締め付け過ぎかな。



 ご老人ズのお弁当はそれぞれ個性が出ていた。


 イトさんのお弁当はお重になっていて、一人で食べるには量が半端なく多い気がする。

 彩りは豊かで、見た目にも拘っているのが感じられる多さ以外は可愛らしいお弁当だ。


 シオさんのお弁当はこじんまりしていて、ご高齢にしても少なくないだろうか?と心配してしまうほど小さい。中身はサンドウィッチになっていて、具は主に卵だった。


 カイさんのお弁当は成人男性が持っていそうな大きさの箱で、開けると肉で埋め尽くされていた。

 肉しかない。え?肉オンリー?と思って見ていると、下からお米がチラッと出てきた。お米派なんですね。でも、肉とお米のバランスがとっても悪いように感じる。主に肉のお弁当だった。


 ……私のお昼ご飯は適当に大量に野菜をぶっ込んだスープにパン。スープに少しだけベーコンも入っている。


「二人にょ食事バランシュはいつもにょ事だとしぃて……ヴィリア嬢ちゃんはしょれで足りるんかにょー?」

「あ、はい。大体いつもこれです。……むしろイトさんはそれ、全部食べられるのですか?」

「んー?余裕だにょー。」

「イトばぁの胃袋は異常だかいのー。」

「ほっほぅ、シオじぃの量も異常といえば異常なのじゃー。」



 そんなこんなで和やかな遅めのお昼ご飯になった。

 ……なったは良いんだけれど、これってお昼持参で居座る気満々で朝から来ていたって事なのだろうか?ご老人ズ……恐ろしや。



 日が傾きかけた頃、一命を取り留めた男性とその子供である男の子が一緒にお店にやってきた。


 さて、何か助けになれれば良いのだけれど……。

 

今回は、登録販売者の資格と意義について少し書こうと思います。


私がいつもこの後書きで勝手に語っているどうでもいい薬の話の時に、〜〜気になる場合は病院で診てもらいましょう。〜〜とよく言っているのを、お付き合いくださって読んでくださる方々は気付いていらっしゃる事でしょう。


これは今回の本編の内容にも少しだけかかっています。


まず、登録販売者という資格を取る試験は、誰でも受けられます。私が受けたときは一年以上ドラッグストアや調剤薬局で働いていないと受けられなかったのですが、その後改訂されました。


誰でも勉強して試験に合格さえすれば得られる資格です。


勉強する内容は、体の仕組み、薬を飲んだ時の流れ、市販薬に使われる成分の特徴、よくある副反応、軽い薬事法、お店に薬を置く際の法律……などです。

私は薬に関して一切、何もわからない状態から勉強しました。仕事が終わった後、一日二時間の勉強を六ヶ月くらいして取れました。お店で試験について誰かに質問したりするのは仕事と関係ない事だから……と憚られて、本当に一切その時間以外は勉強しませんでした。


つまり、普通に薬に関して何もわからない人でも勉強すれば取れる資格なんです。


対してお医者さんや薬剤師さんというのは、専門の大学に入り、六年間必死に勉強してさらに試験に合格する必要があります。学校でも帰ってからも勉強漬けになる人がほとんどになるほど勉強していらっしゃいます。


そうして試験に合格して、そのあと色々研修とかしてやっとお医者さん、薬剤師さんになれるんです。

勉強のレベルが段違いなんです。


登録販売者が勉強する薬の範囲は市販薬に含まれる成分が主です。お医者さんが出す薬に関してはあまり詳しくないです。よく聞くものくらいしか把握していません。それも副作用の恐れや飲み合わせに関してほんのちょっと知っている、程度です。


なので、私は常にこう考えていました。


私に判断出来るものは、本当に軽いものだけ。少しでも怪しい、おかしい、と思ったら病院へ行くように勧めよう。


ただの風邪一つでも、一週間ほど市販薬を飲んで、効かなかったり症状が悪化した場合はもっと重い病気の可能性が出てきます。間質性肺炎という、風邪薬を飲み続ける事で起こる病気もあります。

でも、それを判断出来る程の診断技術は登録販売者にはないんです。怪しいと思ったらすぐに病院へ行くように勧める事しかできません。



では、登録販売者とはなんなのか……。


登録販売者は、セルフメディケーションという考えを手助けするためにいます。

セルフメディケーションとは、軽い怪我や風邪のような病院に行くまでもないような症状を市販薬などを使って自分で対処しましょう。という考え方です。

きっと医療費削減の目的があるのでしょうが……そんな感じで作られたんです。


そのセルフメディケーションの手助けとして、市販薬に詳しい者をお店に置きましょう、という事ですね。薬剤師はなかなかなれる人が少ないので、その代わりとも言えるかもしれません。


登録販売者はセルフメディケーションで完結出来るものなのか、お客様の症状をみたり聞いたりして判断します。

そのため、少しでも変だな、と思ったら病院を勧めるんです。セルフメディケーション、自己完結出来ないかもしれない、という疑いを常に持っています。


お客様自身でも気付かないほんのちょっとの違和感に気付けるように、気を付けて接客をしていました。

まぁ、実際そこまでやばそうな人は……そこまで多く無かったんですけれど。


登録販売者について、伝わったでしょうか?

市販薬についてはまぁまぁ詳しいですので、セルフメディケーションでなんとかなるかな?という症状の時は遠慮無く相談して欲しいと思います。

その症状を聞いて、登録販売者は薬の説明と、ヤバそうなら遠慮無く病院を勧めますのでまずは相談して欲しいですね。


今日は以上です。


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