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41 小さい子供がいる時に奥さんのお尻を触ろうとした罰だろう……と、村の人は後々教えてくれました

そう言えば、前話でイザリアお婆さんが飲んでいた薬草茶の名前を書くのを忘れていました。

あれはセンブリ茶を想像して書いています。あの苦味が胃液の分泌を促すんです。

 帰りは魔王様が転移魔法を使ってくれる事になった。どちらかが魔力を消費し過ぎていると、何かあった時に一人しか動けなくなるから、との事だ。


「では、行くぞ。ちゃんと掴まっているように。」

「はい、よろしくお願いします。」

「……よろしくお願いします。」


 魔王様は片手にサツイモの入った布袋を持ち、もう片方の手でイザリアお婆さんがくれたパイが入っている紙袋を持っている。すごく……気分転換出来たように見える。よかったよかった。


 魔王様の両手は塞がっているので、私とレイさんは魔王様を中心に左右に並び、二の腕あたりを掴む形になった。


 転移の魔法は勢いのある魔力の動きと、移動の時の一瞬の浮く感覚、それから一瞬で景色が変わる事により目がおかしくなるのを防ぐために目を瞑る。魔法を使う本人は慣れているので目を瞑る必要はないそうだ。私は慣れることはないだろう。転移の魔法……というか、生活に使う魔法以外の魔法は、ほとんど使えないのだ。


 私が目を瞑ると、それを確認したのか魔王様が転移の魔法を使い始めた。


 レイさんの時と同様に、足元から大量の魔力が上がっていく。


 いや、これは……。


「ま、魔王様!多すぎませんか?!」

「ん?そうか?」


 レイさんは焦っているような口調だが、魔王様にはその焦りが伝わっていないようだった。

 レイさんの時とは比べ物にならないほど、勢い良く魔力が下から上に抜けていく。前髪が持ち上がるだけに収まらず、重めのスカートの裾が持ち上がるほどだった。これだけの魔力量を使ったら、世界のどこへでも飛べるかもしれない。


 ……あ、太もも見えそう。

 スカートの揺れる感覚が、膝上にある気がする。タイツを履いているけれど、はしたないと思われてしまう。


 仕方なく、魔王様に触れていないほうの手でスカートを押さえると、隣の魔王様が咽せた。


「ぶっ!ゴホゴホッ!」

「魔王様!?」


 どうやら、レイさんにはこちらが見えていないようだ。もし太ももが見えていたら何か言ってくるだろう。

 それにしても、魔王様はこちらを見たのだろうか?私の太もも……見たのか?


 私は目を瞑ったままなので確認出来ないが、なんとなくそんな気がする。もし見たというのなら……この空いている手がぐーの形になりますよ?たとえどんなお偉いさんでも、助平はいけないってイザお婆さんが言っていた。助平は鉄拳制裁の対象にして良いと、ジルお爺さんも言っていた。

 ……何故かその時、ジルお爺さんの右頬は腫れ上がっていた。


「……魔王様……わかっていますよね?」

「ゔ……。すまん。いつも転移は勢いに任せているからそこまで気にしていなかった。魔力を多量に流せば大体いけるからな……。気を付けよう。」


 私が圧を込めて聞くと、魔王様は若干反省する様子でそう言って、放出する魔力量を抑えていった。


「このくらいか?レイ。」

「あ、はい。十分過ぎるくらいです。」


 抑えても転移には十分な量が辺りに放出されているらしい。

 レイさんの返事を聞いて魔法を発動したのか、一瞬の浮遊感があって空気が変わるのを感じた。


「よし、着いたぞ。」

「……ありがとうございます。」


 目を開けると、転移専用の部屋に到着していた。

 相変わらずすごい魔法だ。


「もう少し魔力のコントロールを練習なさった方がよろしいですね、魔王様。今度祖父に話しておきます。」

「……そうか。」


 若干しょんぼりしているような魔王様。レイさんが魔王様にこんなに強気な事を言っているのは初めて見る。レイさんは、魔王様大好きだから諫言なんてしないのかと思っていた。

 レイさんのお爺さんは魔力のコントロールに長けた方なのだろうか。魔王様に教えられるほどの人……なんだか偉いお人そうな感じだ。


 私の太ももが見えそうになっていた事だし、魔王様が魔力のコントロール精度を上げてくれるのはありがたい。……次に転移の魔法を使ってもらう事があるのかはわからないけれど。



 さて、用事は終わったし、ここに長居する必要はない。さっさとお城を出よう。


「魔王様、レイさん、今日はありがとうございました。レイさん、また畑の様子が気になった時はお願いします。」

「はい。いつでも声をかけてくださいね。」

「ありがとうございます。私はこれで失礼します。」

「ああ。」


 魔王様とレイさんにお礼を言ってお城を出た。


 私が魔香姫……魔香持ちである事は黙っていてくれる事になった。

 一番大事なのは魔香持ちの人の意思だから、との事だ。国としてはどんな力があるか調べて、国のために働いてほしいだろうけれど、そこに本人の承諾が無ければただの強制になってしまう。


 私は魔香持ちとして働くよりも、薬師として働きたい。それに、また魔物が暴れる姿を見るなんて……嫌だ。だからお断りする事にした。

 調べるだけも出来る、と言われたけれど……今は



 お城を出て空を見上げると、まだ日が落ちるまでは時間がありそうだとわかる。


 ならば、リンゴのパイをヘレナさんに届けて……行くか、魔窟に……。


 魔窟……いや、服飾店なんだけれど、あのお店の店員さんたちは濃い……。見た目も中身も濃い。

 故に魔窟と呼ぶ事にしたのだ。


 ちょうど働いていたヘレナさんにリンゴのパイを渡すと、とても喜んでくれた。帰ったらすぐに食べる!との事だ。師匠にあげるよりも断然、渡して良かったと思わせてくれる笑顔だ。感想は次回会った時に聞こう。美味しいのは間違いないのだけれども。



 服飾店には、靴下を頼んでから結構な日にちが経つ。だいぶ待たせてしまった。


 お店のドアを潜ると、目の前には大人二人分の大きさのクモがいた。こっちに向かって二本の足を広げている。


「いらっしゃいませ〜……ってあなた、やっと来たのね〜。」


 カウンターにいた店員さんは前回と同じ人だ。やたら語尾が揺れ伸びている。やっと来た、と言われたことから待っていてくれたのだとわかった。


 ……それはともかく、何故入り口でクモに両足を上げた状態で迎えられているのか聞く事にした。


「遅くなってすみません。……あの、この状況は?」

「ん〜?あ〜、この子、あなたがいつ来るのかとずっとソワソワしていたのよ。クモ子〜、良かったわね〜。ちゃ〜んとヘアバンドも着けてくれているようだし、あなたの事嫌っているわけじゃなさそうよ〜。」


 コクコク。


 クモは頭……というか体を上下に振って店員さんの言葉に返事をしているようだ。

 それにしても名前……クモ子って。いや、何も言うまい。本人がそれで良いなら良いのだ。


 前足と思われる二本の足は、私の肩に乗っかって何やら撫でているような動きをしている。

 喜びを表しているのかもしれない。

 今日初めてヘアバンドを着けたのだけれど、それをこんなに?喜んでくれているのならば、着けてきてよかったと思えた。


「見本はいくつか出来ているわよ〜。早速見ていくでしょう?」

「はい。お願いします。」


 良さそうなものは買い上げて家で試し履きしたい。


 店員さんがのんびりした動きで奥にある棚から靴下を取り出してくる。


 ……多いな。


「あの子、張り切っちゃってね〜。これだけあれば、きっと気に入る物があるだろうって〜。」

「はぁ……。」

「……あっちに試着室あるから、試しに履いて確認していってね〜。」


 試着室だと言われた方を見ると箱のような形の小さな部屋がある。入り口にはカーテンがかけられていて、中が見えないように出来ていた。

 見えないように出来ているけれど……。


「えっと……履いてもすぐにわかる物でもないので……。」

「でも、あきらかにダメな物もあるかもしれないし〜、ある程度絞るためにも試していってね〜。」

「……わかりました。」


 タイツを脱ぐのはちょっと抵抗があるので、タイツの上から靴下を履いていった。

 タイツを履いた状態で履けるようなものは圧が足りていないものなので、履けるものだけでも除外出来たのは良かったかもしれない。

 結果、残ったのは五足だった。


「この五足を一日ずつ履いて確認したいと思います。」

「わかったわ〜。じゃぁ試して、それで選んだ物を作るか、またそれを手直ししていく感じね〜。クモ子〜わかった〜?」


 コクコク。


「では一旦お買い上げを……。」

「あ〜大丈夫よ〜それ、お試し品だから。それに〜あなたのお店知っているし〜。パクられる心配もしていないもの〜。」

「……そうですか。ではお借りしていきますね。」

「ええ。また気長に待っているわ〜。」


 お店を出る時は、クモ子がドアまでお見送りしてくれた。

 足を一本だけ上げて、左右に降っている……。会話は出来ないけれど、とても優しいクモなのかもしれない。


 私が店を出てもしばらくドアからこっちを見ていた。いつまで見ているつもりなのか……。何度振り返っても前足一本をこちらに向かって降っている。ちょっと気が引けたけれど、そのまま私は進んだ。

 角を曲がってお店が見えなくなったところで先程の店員の叫びが聞こえてきた。


「ちょっと〜!また詰まっているじゃないの〜!だから少しは痩せなさいって言ってるのよ〜!今日の夜から肉少なめにするからね〜!」


 ……クモは肉食なのか……。

今日は、市販の医薬品の分類についてお話しようと思います。


市販の医薬品には副作用や効果の強さ、危険度によって分類されています。


第一類医薬品  指定第二類医薬品  第二類医薬品  第三類医薬品  医薬部外品

                                     です。


第一類医薬品は薬剤師がいないと販売できません。

指定第二類から第三類医薬品までは、登録販売者か薬剤師しか売れません。

医薬部外品はコンビニでも売る事ができます。部外品、なので当然と言えば当然ですね。


第一類医薬品には二種類あるんです。

一つは、お医者さんが出す処方箋でしか取り扱えなかった薬が、市販薬として降りてきたもの。今まで処方されてきた実績があって、市販薬にしてもまぁまぁ大丈夫な物として判断されたものが降りてきます。前に湿布薬で言った、インドメタシンや、ガスターてん!の成分なんかがそれにあたります。スイッチOTC、と言われます。

もう一つは、ダイレクトOTC。先のものと違って、いきなり市販薬として開発された医薬品をさします。


違いは実績の有無。

スイッチOTCの方はお医者さんが今まで処方していて、危険がまぁまぁ少ないねーって確認された物です。

ダイレクトは成分的にたぶん問題ないし、処方箋専用にするほど危険じゃないねーっていう認識の物です。


どちらも第一類なので、二類や三類に比べたら副作用に気を付けなければならないです。


このダイレクトOTCとスイッチOTC。一類から指定二類に降りるのに必要な年数が違うんです。

医薬品は、最初に指定された分類から何年も使われていって、副作用の報告があまりなかったり、危険が少ないと判断されると分類を下に落とす審査があります。


インドメタシンが入った湿布は昔処方箋専用のものでしたが、今は第二類になっています。

そんな風に危険が少ないと判断されると分類が下に落とされるのです。


確か、ですが……スイッチOTCは三年か四年、ダイレクトOTCは八年か九年ほど、様子を見て分類を落として良いか判断されるんです。

本当に安全な物なのか、しっかり確認しているんですね。


どちらも第一類として認められているので、どっちが危険!とかは無いのですが、なんとなくスイッチOTCの物の方が安全な気がしてしまいますよね。でも最初はお医者さんしか処方できなかった、というのを思うと、最初から市販の方に回されたダイレクトよりも元々は危険だったのか?とも思わなくは無いですね。

どっちにしても薬は異物、ですから慎重に選ぶ必要がありますね。心配な時は薬剤師さんや登録販売者さんに遠慮なく聞きましょう。



ちなみに、健康食品、と言われているものは薬ではありません。

あれは食品扱いになっています。でも、食物繊維が大量に入っている物や、総合ビタミン剤などに含まれるミネラル分など、必要以上に成分を摂取すると体調を壊す物なんかもありますから、食品でも気を付けた方がいいですね。


今日は以上です。


いつも読んでくださってありがとうございます。

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