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4 悪夢と薬。時々変態師匠

少し痛い表現があります。

お気をつけ下さい。

 その日は、お城に泊まっていけ、と魔王様が言ってくださった。


 他に行き場がない師匠と、魔王国に来たばかりで右も左もわからない私は遠慮出来るわけもなく、お言葉に甘えて泊めさせていただく事になった。


 案内された部屋はとても豪華で、ダンスでも練習するのか、と言いたくなるほどの広さだった。師匠はきっと小躍りならぬ、小踊りしているだろう。



 荷物を部屋の端っこに置き、その横に腰を下ろして部屋を見渡す。端っこ落ち着くわー。



 部屋の雰囲気も、色使いも、全然違うのになんとなく幼い頃を思い出してしまう。


 子供の頃住んでいた屋敷はここまで大きくはなかったけれど、絨毯が隅々まで敷いてあったり、大きなベッドだったりが、その頃の記憶を呼び寄せるのだろう。


「……師匠の家のようなボロっちくて狭くてどうしようもなく生活しにくい家が懐かしい……。」

「凄い酷い事言われているのに、そんなにしんみりされると反論出来ないー!」

「……師匠いたんですか。」

「隣を案内されたんだけどね、ヴィリアと会うの久々だから話をしようと思ってー。」


 そう言ってすぐ隣に腰を下ろす師匠。部屋は広いのに、二人でぎゅうぎゅうになって座る。

 師匠の家も狭かったから、よくぎゅうぎゅうになってたなぁ……。

 大体、師匠が森の中で拾ったのに流木と名付けた木とか、四種類が同じ場所にひしめき合っているのが珍しかったからと言って綺麗に別々に分けて採取して来た苔とか……よくわからないものを拾ってくるから部屋が狭くなっていたんだけれど。そのあとは大体私がブチ切れて、師匠と一緒に拾って来たものを投げ捨てていた。


「師匠が三年もいなかったので、今の部屋はとっても綺麗ですよ。」

「わー!じゃぁ帰ったら色んなものを置けるね!」

「絶対今の綺麗さを死守します。」

「ふっふっふー!出来るかなー?僕の物を拾ってくるスキルを甘くみないでもらいたいね!」

「自慢できる事じゃないでしょ……。」

「僕は毎回良い物を拾って来ていると思っているんだどなぁ……。」


 むむー、と年甲斐もない声を出しながら不貞腐れる師匠に呆れていたら、師匠がいきなり笑顔になった。


「うん。顔色良くなったね。」

「……悪かったですか?」

「うん、とても。……大丈夫?今日、一緒に寝る?」

「バカ言わないでくださいバカ師匠。私もう十八ですよ?」

「本気で心配しているのにー!っていうか、大きくなっちゃって……少し前まで、こーんなに小さかったのにね……。」


 昔の私を思い出すように、少し下がった目尻でこちらを見る師匠。こーんなに、と言いつつ手で表現しているサイズは小人か?というほど小さいんだけれど……なんとなく、その視線がこそばゆくて突っ込めなかった。


「もう寝ますよ。さっさと部屋に戻ってください。」

「えー?もう?うーん……。」

「……どうせこれから金貨千枚稼ぐまで一緒にいないといけないんですから……。」

「そうか……そうだね!うん!じゃぁまた明日ね!」

「はいはい。おやすみなさい、師匠。」


 不満そうにする師匠は、この先しばらく一緒に暮らすのだからと伝えると、笑顔になった。

 誰のせいだと思ってるんだか……くそぅ……その笑顔、ぶん殴りたい。あと二回のうちの一回をここで使うか?……いや、まだその時ではないかな。


「あ、そうそう。これね、はい。」

「……ありがとうございます。」


 師匠は胸ポケットから布袋を出した。

 私は中身を確認する。……空の魔石。数はかなりのものだった。これだけあれば、しばらくは安心だろう。


「……ずっと集めてくれていたんですか?」

「うん。いつでも大丈夫なように、ね!じゃぁ、おやすみヴィリア。何かあったら呼んでね。隣だから。」

「……ありがとうございます。おやすみなさい。」


 良い笑顔で手を振って出て行く師匠。


 扉が閉まった途端に、部屋の中が静かになる。ここ三年、師匠の家もこんな感じだったのだ。いつも通りだと思うのに、なんとなく、寂しくなった気がした。



 ……いやちょっとまて!久しぶりに会った上に、知らない土地で気がおかしくなったんだ。あの師匠に寂しさを感じるとか、ないない!うん。よし、寝よう。



 ベッドの周りに、師匠から貰った分少しと自分で持ってきた分の中身が入っていない魔石をばら撒いてから横になる。首元の上まで留めていたシャツのボタンを外して緩めると、少し息がしやすくなった。


「ふぅ……。今日一日、内容濃すぎた……疲れた……。」











 ……あつい……あついよぉ……


 いたい……こわい……いやだ……




 目の前の檻の隙間から覗く魔物の爪と牙。

 遠くで飛び交う兵士達の怒号。

 そして上空から降り注ぐ火の魔術。


 火の魔術が地面に衝突すると同時に破裂する。


 檻の中にいる私は、その爆風で飛ばされて、背後の檻に背中を強打する。


 ずるずると地面に落ちて、痛みで蹲る私。息をする事も難しい程の痛みの中、檻の外を見ると今の魔術で焼き殺された魔物と目が合った。


 肉や毛皮が焼ける匂いと血の匂い。怒りで我を忘れたような魔物の目。目の前で他の魔物が死んでも、それが目に入っていないかのように執拗に私へと爪を向ける魔物達。




 いやだ……こわいよ……


 しにたくない……





 しにたくない……。


「大丈夫。君は死なない。」


 ……本当?


「ああ。本当だ。その夢はもう終わったんだ。だから大丈夫。」


 そっか……夢か……じゃぁ……もう平気なんだ。


「そう、平気だよ。次はきっと嫌な夢は見ないから、ゆっくりとおやすみ。」


 ーー優しく頭を撫でられる感覚。あの時間の中で私に触れる人はいなかった。本当に夢だったんだ。よかった……。


「さぁ、おやすみ。」


 うん。おやすみなさい……。











 窓から入ってくる光で自然と目が覚めた。


 ……なんでだろう、何か嫌な夢を見たような気もするけれど、思い出せない。夢を見たと思うのに、体には疲労感が残っていない。不思議な感覚だった。


「……なんでだろう?」

「ヴィリアー!起きたー?」

「……はい。おはようございます、師匠。」


 どうやって部屋の外から私が起きたと気付いたのかわからないけれど、師匠がタイミング良く声をかけてきた。


 寝巻きのシャツのボタンを首元まで留めて、ベッドの周りに散らした魔石を確認しながら私が返事を返すと、勢い良く扉を開けて遠慮なく部屋に入ってくる。


「師匠。私、一応もう成人なんですが……。」

「うん?」

「声を掛けていたとはいえ、ノックもなくいきなり女性の部屋に入ってくるのは変態だと思います。変態師匠。」

「えぇー!バカ師匠から変態師匠になった!」


 私が蔑んだ目で師匠を見ると、シクシクと泣き真似を始める師匠。……さっさと要件を聞こう。


「で、何の用ですか?」

「シクシ……ん?ああ!これを渡すの、忘れていたんだ。」


 さっきまでの泣き真似が嘘のように表情が戻る。忘れていたと言いながら、師匠が取り出した物は軟膏を入れておく缶だった。いつも私に渡していた物と同じ入れ物。


「……この三年で少しは改善出来たと思うんだけれどね。まだまだ効能は微々たる物なんだ……。毎日朝晩の二回、塗ってね。」

「……ありがとうございます。」


 師匠から受け取った軟膏を開けて見ると、今までのものよりも少し色が濃くなっているのがわかった。この色味の分、効能を上げることが出来たという事だろうか。

 ……この薬のために……私のために、師匠は自分の時間の三年も費やしたのだ。そう思うと、薬が持っている重さ以上に重く感じる。

 

「じゃぁ僕は出ているね。しっかりと準備出来たら呼んでねー。アズロさんが一緒に朝食にしようってー。」

「魔王様と朝食……。」


 朝からヘビーな予定だな……。師匠はそうは思っていなさそうだけれど。そういう意味では師匠は大物だろう。


 さて、魔王様をあまり待たせるわけにはいかない。早く準備しなくては。



 私はベッドの周りの魔石を集めて、魔力が充満している物と空のままの魔石とに分けた。

 空の魔石の数的に見て、あと一週間は持つかな。


 魔石の確認が終わったら、身支度だ。


 寝巻きを脱いで、大きな鏡を見ながら師匠に貰った軟膏を塗る。

 ……相変わらず引きつった肌。消えない火傷の痕。変色してしまった皮膚のせいで、まるでつぎはぎの布のよう。


 頭と胴体の前側以外、あちこちに痕が残っている体は、何度見ても醜い……。



 自分で見ていても気分の良い物ではない。人が見たら余計だろう。だから準備は念入りに。



 私は、首の後ろが見えないようにしっかりと襟元までボタンを留めて、袖からも皮膚が見えないように肘まである手袋をはめる。足は厚手のタイツをはいて、膝下までのスカート、ブーツを履いた。


 鏡で全身を見て皮膚が見える部分がないか、しっかりと鏡で確認する。


 色が抜けて真っ白になった髪と、キッチリと着た服で顔面以外の肌の露出はない。

 いつも通りのやる気のなさそうな緑の目。無駄に長いまつ毛も相まって重ダルそうな表情になっている。うん。顔もいつも通り。



 魔王様と朝食かー……。緊張するし、憂鬱だわ……。


 でも、借金している相手だし、ちゃんとしないとな……。



 身支度を終え、私は部屋を出た。

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