39 村のみんなは殴り慣れています。もちろん、私も然りです
誤字報告ありがとうございます!とっても助かります!
私が魔香持ちである事、檻に入れられて魔物をおびき寄せる餌のような扱いを受けていた事、死ぬかもしれないと思ったところで師匠に会って逃げられた事を言うと、二人とも深刻そうな顔になってしまった。
私が魔香持ちだと言った時、レイさんはとても驚いていたけれど、魔王様はそこまで反応していなかった。薄々気付いていたのだろうか。同じ魔王様であるシス君は私が言う前に気付いてしまっていたし、その可能性はありそうだ。
あまりにも深刻そうな顔をしていたから、話の最後に、私は今穏やかに暮らせているからもうどうでも良い事なんです、とは言っておいた。実際そうだし、このままいけば、ずっと魔王国で暮らすのだ。人族とほとんど関わることもない。薬師として、静かに暮らせればそれで良い。
村に着くと、ジルお爺さんが村の入り口を少し入ったところで手を振っていた。
もうすぐ来るとイザお婆さんに聞いていたのかもしれない。
私はさっきまで話していた自分の過去話を頭の端に追いやって、お爺さんのもとに向かった。
「ジルお爺さん。」
「おぉー、ヴィリアちゃん来たなー。ばーさんの言った通りだ。……パイは食べられるか?」
「うん。少しだけなら食べられると思う。ありがとう、ジルお爺さん。」
「おう。……そんでそっちの二人がさっき隠れておったやつらだな。」
「先程は失礼しました。アーロと言います。」
「申し訳ございません。私はレイと申します。」
「ふむ。アーロさんにレイさんだな。いやなに、悪い感じはしなかったからな!気にしてねーよ。俺はジルっつーんだ。」
「ジルさんですね。そう言っていただけると助かります。」
ふんふんと鼻を鳴らしながら二人を上から下までじっくりと見るジルお爺さん。
満足いくまで見たのか、私の方を見てニヤリとした。
「どっちも、なかなかいいツラしてんじゃねーか。んで、どっちがヴィリアちゃんのコレなんだ?」
「……ジルお爺さん……。」
小指を立ててコレって……。それ、女性を意味するのでは……?
魔王様もレイさんもポカンとしてしまっているではないか。
「なんだ、どっちも違うのか?つまらんな。……まぁいいや、ついてきな。」
想像していた反応と違ったのか、つまらないと文句を言って歩き始めてしまうジルお爺さん。ジルお爺さんの家に向かっているのだろう。
「ジルお爺さんは冗談が大好きなんです。あまり気にしないでください。」
「そ、そうか……。」
気を取り直して、ジルお爺さんを追った。
ジルお爺さんのお家の前には奥さんのイザリアお婆さんが待っていた。
お婆さんは私の顔を見ると、嬉しそうに両手を合わせてにっこりと微笑んだ。
「あぁ、来たね。ヴィリアちゃん、お帰り。……一月見ない間にお洒落さんになったねぇ。」
「あ、これは……。」
「とーっても似合っているよ。やっぱり、若い女の子は都会に行くと変わるんだねぇ。」
ヘアバンドの事を言われているのだと気付いて、少し恥ずかしくなる。外そうか隠そうかと腕を上げたところで似合っていると笑顔で言われてしまったら……外すに外せない。
「自分で選んだのかい?」
「いえ、貰ったんです。お近づきの印にって。」
「えっ?」
「あらあら……うふふ。本当に女の子はあっという間に……。」
私とイザお婆さんの会話の間に何故か魔王様の声が割り込んできたけれど、お婆さんはその魔王様の反応も含めて笑っているみたいだった。
……ちなみに、お近づきの印にくれたのは、私の髪と同じ色合いの大きなクモですよ。
ジルお爺さんの家に入れてもらって、リビングのイスに座る。
イザお婆さんが私たちのお茶を用意してくれて、ジルお爺さんがお婆さんの手作りパイを切り分けてくれて、ゆっくりと食べ飲みしながらの会話が始まった。
「どうだ?パイは。」
「むぐむぐ……うん、とっても美味しい。」
「そうかそうかー!そうだよなー!うちのばーさんのパイは美味いよなぁー!」
「あらあら、まったくもう、お爺さんったら。」
ジルお爺さんに聞かれて正直に答える。いつもの味、安定の味、つまりいつものとっても美味しい味。
お婆さんの作るパイは変わらない。生地はバターが少なめでサクサクとしている。中のリンゴはパイ生地の味に負けないように少し酸味のあるリンゴを使っていて、あっさりとしているため、ついたくさん食べてしまう。
「ヴィリアちゃん、この一月くらいはどうやって暮らしていたの?大変な事は無かった?サーテルが迷惑かけていなかったかしら?」
イザお婆さんが私に質問してくる。
……大変な事なんてあっただろうか?恥ずかしい思いをする事はあった気がするけれど……。
「こちらの魔……アーロさ……アーロ……さんが、家を提供してくれて、その家の一階部分はお店になっているの。お店で薬師として働いていて、特に大変な事はないかな。」
呼び捨てなんてしたことない。いきなり呼び捨て、しかも魔王様を……。そう簡単にはいかない。
結局さん付けで名前を呼んで、良くしてもらっている事を伝える。
「そうなのね!今は魔族の方々が暮らす場所にいるのかしら?」
「うん。アズロ魔王国の城下町で暮らしてる。師匠は城下町から出て少しいった場所にある薬草園で働かせているの。」
「そう、サーテルもちゃんと働いているのね。あの子、顔を出しにこなかったのね……せっかくバケツを磨いておいたのにねぇ……。」
フライパンとバケツで殴られる師匠……。うん、素晴らしい。
最初は私が今どうしているか、ちゃんと生活できているのかといった、私を心配する質問がほとんどだった。
ジルお爺さんとイザお婆さんは、この村の人達の中でも特に私の面倒をよく見てくれた。そんな二人だから、とても心配してくれたのだろう。
私への質問が終わって、次は魔族の二人への質問だった。
私への質問はイザお婆さんが主導権を握っていたけれど、今度はジルお爺さんが質問していくようだ。そして、その質問には魔王様自らお答えになるらしい。
「そんで、アーロさんとレイさん、二人はヴィリアちゃんとどういう関係なんだ?」
「私はヴィリア殿に家を提供している形ですね。こちらのレイは私の部下です。」
「ふーむ、そうか。ヴィリアは俺たちの孫みたいなもんなんだ。良くしてくれて感謝するよ。」
「いえ。」
「サーテルは何か迷惑かけてなかったか?」
「あ、えー……。」
魔王様が言葉に詰まってしまった。それもそうだろう……師匠はご迷惑しかかけていない。
私が師匠の元に行くときには、どうなるかわからなかったから何も言わなかった。今回はもう隠す必要もないだろう。そのうち師匠も顔を出すと言っていたのだし、魔王様たちに言えば、帰らして貰えるのだ。お爺さんたちを心配させなくて済む。
だから、言い淀む魔王様に代わって、私が報告した。
「師匠はアーロ……さんに借金していました。今はそれを返済するために粉骨砕身で働かせています。」
「「……はぁ……。」」
ジルお爺さんとイザお婆さんは、ピッタリ完璧な一緒のタイミングでため息を吐いた。うん。私もため息を吐きたい。
「迷惑かけて申し訳ない……あいつは俺たちの……まぁ、息子のようなものなんだ。薬草とか薬に関しては天才的なんだが……天災的にあちこちに迷惑をかけやがる。」
「本当に……どうしてあんなに迷惑をかけてしまうのかしら……。ヴィリアちゃんにも迷惑かけちゃっているわよね。ごめんなさいね……。何回でも殴って良いからね。」
「はい。とりあえず一発は殴ってあります。」
「おう、もっともっとやったってくれ!帰ってきたら殴られるって思って帰って来なかったんだろう。その分も含めて殴ってやれ!」
「わかりました!」
「ははは……。」
殴る話になると、魔王様は乾いた笑いを出して引いていたような気がした。
師匠はちょっと殴ったくらいでは反省しないから、わかるまで殴るしかない!が村の共通認識だ。
このまま師匠に借金を返済させるためにも、私は魔王国で師匠の監視兼管理をする事を伝えた。
目を離したら興味のある事に突っ込んでいってしまう。それを殴り引き止めるのが私の役目だ。
……それに、薬師としての仕事が楽しいのもある。
師匠に薬草を育てさせつつ、薬師として薬を作る毎日……。うん。
きっかけは師匠の借金だったけれど、たくさんの人に私の作った薬を売れる今の生活は悪くない。
これからものんびりと薬を作りながら静かに暮らせるならば、むしろ求めていたものだ。
良い感じに考えがまとまってきたところで、師匠の笑い声が頭の中で響いた……気がした。
……求めていたものに結果繋がっているけれど、師匠の借金は許さん。
よし、帰ったら一発殴っておくか。
どうでもいい薬の話を書く予定だったのですが、症状の事を本編にチラとも出せなかったので、次回にしたいと思います。
……もし、もしも、ちょっとでも楽しみにしてくれていた方がいらっしゃったらごめんなさい!
次には必ず!




