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20 鳥はなぜ一緒に張り付いていたのか……わからずじまいです

 目を開けると、最近よく見る天井。……あ、ここは木の家か。


「夢……師匠に会うところまで見るのは初めてかも……。」


 いつもは妹にいろいろ言われた後、魔法の爆風で檻に背中を強打して呼吸が出来なくなって起きるのだ。夢を見始めた時には自分が夢を見ている自覚があって、最悪の夢見だと思ったけれど、覚めてみたらそうでもなかった。あの夢を見て、こんなにすっきりと起きられるとは……。


 師匠に会って、生きる希望をもらって……そして稚拙な作戦を決行して、私は自由になった。

 確か……国では私は死んだ事になっていたはず。役に立ったからか、大々的に葬儀を執り行ったと噂を聞いたのだ。


 きっと、私を逃した責任を取りたくなくて、兵士たちが死んだ事にしたのだと思う。子供に嘘を吐くような国王が治める国だ。娘一人逃したくらいでも責任を取れと言いそうだ。


 ……妹は王子様と結婚したのだろうか?妹の噂は、私のいた村まで届いてこなかった……。私が死ななかったから、妹が言っていたように本当に予定が狂ってしまったのかもしれない。今となってはわからないし、知りたいとも思わないが……。



 そんな事を考えながら体を起こし、ふと窓を見て……飛び上がった。


 窓に人が張り付いていた。その人の周りには、いつもの鳥が人と一緒に張り付いていて窓は埋まっていた。


「きも……。」

「ゔいりあー、おはおー。」

「聞いたことのある声……。」


 窓に張り付く人は、顔が腫れ上がり、目の少し上もタンコブのように腫れて青く変色していた。

 ただ、服装はついこの前見た人と同じような気がするし、黒くフワフワとした髪も間近で見た人と似ている気がする。どちらも砂遊びでもしたのか、砂と泥に塗れてとても汚いけれど。


「……シス君?」

「そうたよーゔいりあーいれておー。」

「……そこから家に入れたいとは思わないので、外の階段から二階の入り口へ来て下さい。あと、砂や泥の汚れはきちんと落として下さい。」

「ふぁいー。」


 しっかりと肌が見えない服に着替えてから、シス君を家に入れてあげる。

 というか、まだ日が出てからそんなに時間も経っていないほどの早朝だ。いつから彼は窓に張り付いていたのだろうか……。


「おはようございます、シス君。して、何故家へ?」

「おはおー、けが、なおちてー。薬草とってたかあ、なおちてくれゆおもたー。」

「……なるほど……。ではイスにかけて待っていて下さい。」

「ふぁいー。」


 何故私の家がバレているのかはよくわからなかったけれど、まずは本人の希望通り怪我の治療をする事にした。


「滲みるかもしれませんが、少し我慢して下さいね。」

「あいー。……あう、うばばば。」

「我慢、我慢。」

「あうあうあー。」


 傷を洗い、化膿を抑える軟膏を塗って、ガーゼを貼る。目の上の腫れは、見たところ目に影響が出ている感じではないので冷やすための氷嚢を当てる。腕や足にもあちこちに傷があり、処置にかなり時間がかかってしまった。


「……はい。終わりました。」

「あいがほー。」


 口元も腫れていて、うまく喋れないまま、にっこりと笑って御礼を言うシス君。

 その腫れは、すでに少し引いているように見えた。


「もう治り始めているんですね。さすが魔族、と言うところでしょうか。」

「そう?僕はいつもこうだから、あまり治る速度を気にした事なかったなー。」


 話している間にも、しゃべりが昨日のものに戻っている。


「……処置の意味、あったんですかね?」

「とっても嬉しかったー!」


 無邪気に言うシス君。つまり、気持ちだけと……。


「……処置代を請求します。」

「えぇーー!お、お友達価格でお願いします!」

「……却下します。」

「なんとー!お慈悲をーー!」


 使った薬の分と、処置に使った時間分。きっちりと請求する。

 そんなどうでもいいやりとりをしていると、お腹が空いたと言うので仕方なく一緒に朝ごはんを食べた。

 なんだろう……こんなにいろいろと他愛のない話をした人は、師匠以外には初めてだ。

 朝の夢の終わりがいつもより良かったせいなのか、気分が良かったのもあるかもしれない。


 その後もシス君と話をしていて……ふと、朝のことが気になって質問してみた。


「シス君は、どうやってこの家を特定したのですか?」

「えっとね、君が寝ていたからなのか、昨日よりも匂いが強くてすぐにわかったよ!」

「……。」


 その匂い……というのは……まさか……。


「君が魔香姫(まこうき)なのは昨日知ったからね!絶対もう一回会いたいって……いや、一回じゃなくて何回だって会いたいって、出来ればうちの国に来て欲しいなーって思っていたんだよ!」


 ニコニコと笑顔で言うシス君からは、不快感や拒絶しているような雰囲気を感じない……。


 昨日言っていた事は……魔香の事だった?でも、いい匂いのはずは……。

 それに、聴き慣れない言葉があった。


「魔香……き?」

「あれ?人間の国では魔香姫って言わないのかな?魔香を持って生まれるのは女性だけなんだって。だから魔香姫。魔香を持っているのはとても珍しくて、お姫様のように大切に扱う、敬う存在なんだよ。」

「そうなんですか……。」


 お姫様のように……そう言われてすぐに妹の顔が浮かんだ。妹は王子様と結婚したら本物のお姫様だ。私は……姫と言われるような存在ではない、とすぐに否定的な考えが頭をいっぱいにした。


「私は……敬われるようなものじゃないです。」

「なんでそう思うの?」

「……臭かったでしょう?」

「……は?臭い?」


 心底わからない、という顔になるシス君。


 どういう事だ。


「私の魔力は臭いと……そうずっと言われていたんです。」

「……なにそれ。誰?誰に言われたの?」


 何故そんな真顔になるのか。私の魔香の事を話している時には感じなかった緊張感が漂っている。


「誰って……私のいた国の人に……。」

「ヴィリアがいた国って事は、人族って事?」

「はい。」

「……ふーん、そうか。」


 何故こんなにピリピリしているのだろうか。空気の変わり様が急すぎてついていけない。


「じゃぁ、それからずっと魔香姫である事は隠してきたの?」

「そうですね。ずっと魔力を体から出さないようにして生活していました。私の魔力は……臭くて魔物を引き寄せる。」

「……。」


 その先の魔物をおびき寄せる餌にされていた、という部分は言うのをやめた。いい思い出ではないし、国が私をどう扱ったのかを言う必要があるのかわからなかったから。


 ついには黙ってしまったシス君。

 少しして、私に言い聞かせるようにゆっくりと話し始めた。


「あのね、僕は嘘をついていないよ。僕にはいい匂いに感じたんだ。君の魔力を。」

「……。」

「ちゃんと調べないとはっきりとは言えないんだけれど……ヴィリア、君の魔力は人族には臭く感じて、魔族にはいい匂いに感じるんだと思うよ。僕たち魔族は、魔物に近い変化を遂げているからね。だから、この国では魔力を抑える必要は無いと思うよ。」

「……本当に?」

「うん。……まぁヴィリアが魔香姫として目立ちたくないと言うのなら、今のままでも良いと思うよ!そこは君の自由だからね。……僕としてもその方が連れて行きやすいし……。」


 最後の方は聞き取れなかったけれど、さっきまでの緊迫感のある空気は霧散していった。シス君の機嫌が直ったのだろう。



 ……私の魔力が……魔族の人には臭くない。


 シス君だけが特別なのではないのか、とも考えてしまう。魔族みんなが本当に臭くないと感じるのか……。

 もしそうだったとしても、長年魔力を必死に抑えていた私には、いきなり解放する勇気もなくて……。

 解放した瞬間に、子供の時の光景がもう一度起こったら……私は耐えられる気がしない。

 それに、魔物は私に襲いかかってきたのだ。魔族が魔物に近い変化をしたのなら、襲ってくることもあり得るのではないだろうか?

 それを確認するのも恐ろしい。魔族の人に一斉に襲われたら、私は簡単に死ぬだろうから。



 シス君が最後に言った『君の自由』と言う言葉がとてもありがたかった。



 少し考えていたら、シス君が明るく別の話題を振ってくれた。

 私はその話題に乗った。


 今は……この国でゆっくりと薬を作っていたい。魔力の事は言う必要も感じないし……手に入った普通の人生を手放したくない。


 そう思って、私はこのままでいる事を選んだ。

ヴィリアの魔香の力が少し垣間見えてきました。


ちなみに、稚拙な作戦は……

1 師匠が治療をしている時に、魔力のコントロールの事が書いてある魔導書を数ページずつ切り取ってヴィリアに渡し、魔力のコントロールを覚えてもらう。その間に師匠は兵士たちにお酒を飲む習慣をつけさせる。


2 作戦当日のお酒に、酔いを強くさせる薬を師匠が仕込んで、周りの兵士を全員寝かせる。(ここで奇跡!兵士は油断して全員が飲んでくれた!)

さらに、檻の鍵を持っている兵士をまさぐって鍵を手に入れてヴィリア脱出。魔力を抑えて師匠と森の中に逃げる。

師匠が作った魔物避けが何故かとってもよく効いて魔物に遭遇する事もなく脱出成功。

さらに、朝起きた兵士たちは慌てすぎて、すぐに追ったりせず、夜中ヴィリアが魔物に襲われて死んだ事にする。


……やったぜ!という具合です。超運がいいね!誰のおかげかなー。



妹視点もいずれ……いずれ……。

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