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18 餌の夢 1

ちょっとだけくらーい過去話にお付き合い下さい。

怪我をする描写やエグい表現を入れてあります。苦手な方は後書きに内容を軽く書いてあるのでそちらを御覧下さい。

私の語彙力はペーペーなので、そこまで酷い表現にはなっていないと思いますが……。


「ヴィリア=フォン=アルシエル。そなたに魔物討伐の補佐に任命する。」

「……ヴィリア、返事を。」

「……つ、つつしんでお受けいたします。」

「そなたの魔香に期待しておる。帰ってきた暁には、我が息子ユースとの婚姻も考えている。精進せよ。」

「……はい。」


 ……キラキラした王城でたくさんの蔑む目に晒されながら、魔物討伐を命じられた。

 遠くから父親に名前を呼ばれ、言われていた通りに返事をする。



 (……いつも夢はここから始まる。)



 命じられたのは、七歳の誕生日に魔香を発現させてから二ヶ月後の事だった。

 私の魔力は発現してから凄まじい勢いで威力を増し、一月経った時には王都の半分を異臭で覆う程になっていた。


 ほんの少しでも家の外へ出れば、街の人から石を投げられ、罵詈雑言を浴びせられる。


 家族も屋敷の人達も誰も守ってはくれない。最初は魔香を発現した事に浮かれていた父と母は、すぐに忌まわしそうに私を見るようになった。


 唯一、私を嫌わないでいてくれた家族が妹のクロエ。彼女はまだ魔力を発現していなかったから、私の臭いがわからなかった。だから変わらずに接してくれていたのだ。



 王様との謁見を終えて、兵士に引っ立てられるように謁見の間から出る。


「お可哀想なお姉様……。」


 すれ違いざまにそう呟いた妹の顔はあまり良く見えなかったけれど……口元が笑っていたような気がした。


 身支度もなく、すぐに私は出発する事になった。


 案内されたのは城の出口のすぐそばに置かれていた檻。

 紺色の檻には、読めない文字がびっしりと彫られていて不気味な雰囲気だった。お城の出入り口にポツンと置かれているその箱は、場違いだと思うほど禍々しい。

 

「こん中に入れ。」

「え?」

「さっさと入れよ!異臭のガキ!」


 ドンッと背中を押され、折の中に入れられる。すぐに鍵がかけられて、自分から出ることは出来なくなった。

 檻に入れられたまま馬に引かれ、王都の中を進む。


「でた!臭いやつだ!」

「魔物討伐に行くらしい。やっと臭いのから解放されるぜ!」

「ははっ!そのまま魔物に喰われちまえばいいのに!」


 石を投げられながら街を進む。檻の隙間を縫って石が体に当たる。

 当たると街の人は嬉しそうに歓声を上げていた。


 幾度も投げつけられる石。その痛みに蹲る。


 ーーー貴族たる者、顔に傷などつけてはいけませんよ。


 幼少期に母に言われた言葉を思い出し、膝の間に顔を埋めて、さらに顔を腕で覆い、顔だけは必死に守った。



 ……私が何をしたというのだろう。

 なぜ私はこんな目に合わないといけないのだろう。ただ魔力が発現しただけなのに……。


 その疑問は誰にも言うことは出来ず、私は王都から離れた魔物の住む森まで運ばれた。



 ……魔香には、匂い以外にも特徴が現れる。私がそれを知ったのは、実際に作戦が実行されてからだった。


 森に入ってすぐの開けた場所で、移動は止まった。

 兵士達は慌てた様子で檻をその場に固定していく。それが終わるとすぐに離れていった。


「来るぞ!全員配置につけ!」

「俺たちの仕事はここから先に来るのを防ぐだけだ!仕留めるのは魔道士どもの仕事、死なないように気を引き締めろよ!」

「「「「おう!」」」」


 騎士ではなく兵士だからだろうか、口調は荒い人が多かった。

 彼らは私を放置して、森の入り口の方へと引き返していく。


 一体何が……と思ったところですぐに異変に気付いた。


 森の奥から魔物がゾロゾロと出てきたのだ。


「グルルルルルルゥ……。」

「ひっ……。」


 その全ての魔物が、こちらを睨んでいる。


 私は身動き出来ず、息を痙攣らせる。

 檻から出ることも出来ない……逃げられない……ただ魔物の目の前にいることしか出来ない。


 初めて見る魔物。

 牙や爪が恐ろしいほど鋭く、その目は殺気のようなものを放っているように感じた。

 貴族の飼うペットのような綺麗な毛並みのものはなく、常に生きるか死ぬかの世界にいるのだと思わせる風格をしている。


 最初、森の奥から様子を見ているようだった魔物達は少しずつ私に近づき……私が動けないとわかったのか、一気に飛びかかってきた。


 檻に魔物がぶつかる音があちこちからして、牙や爪が檻の隙間からこちらに向かってくる。

 一体の魔物の爪が私の足を掠って、驚きに腰が抜ける。恐ろしすぎて、痛みを感じない……でも足から流れる血が、必死に訴えているように見えた。

 このままだと……死んでしまう……。


 私は腰が抜けたまま、這いつくばって檻の中心へと移動した。


 後方で魔物の唸り声や叫び声に負けないくらいの大声で兵士たちが喋っている。


「よし!お偉い魔導士様が言っていた通りだ!あの異臭のガキが魔物を引き付けてくれてるぜ!」

「あんな匂いに惹かれるなんざ、魔物の鼻ってのはヤベェな!あんなクセェ餌が良いのかよ!」

「ちげぇねぇ!ははははっ!」

「俺たちもこの臭いの中で耐えなきゃいけねぇのが気に食わんがな!」

「まったくだぜ!魔導士様方は臭いが薄れるくらい遠くから見てるんだろ?良いご身分だぜ。」

「本当に良いご身分なんだがな!」

「そうだった!ははははっ!」


 私の魔香は魔物を引き寄せる。私の魔香を嗅ぐと、周りが見えないくらいに必死に私へと向かってくる。後ろの兵士が大声で喋ろうと関係ないくらいに……。




「来るぞ!全員下がれ!」


 これ以上、何が来るのかと思っていると、突然目の前の地面が爆ぜた。



 魔物の断末魔、巻き上がる爆炎。そして、熱風が私の体を焼いた。



「あ゛あ゛ぁぁぁぁ……。」


 いたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたい!


 魔物の攻撃が怖くて動くことも出来ない。熱風が全身を焼く痛みに蹲ることしか出来ない。


 必死に顔を守ろうと頭を腕で覆って、この熱いのと痛いのが早く過ぎ去れと願いながら、耐えることしか出来なかった。



 檻の外に何発も何発も爆炎が上がり、熱風が、巻き上げられた礫が押し寄せてきた。


 そのたびに魔物達が死んでいく。


 死んだ魔物がこちらを睨みつけている。

 牙を剥き出しにして、爪をこちらに向けて、ひたすら私目掛けて向かってくる魔物の目は、その最期まで私に向かったままだった。



 ここは地獄だった。……誰も助けてくれない。みんな遠くから笑って見ているだけだった。



 私を餌にした魔物討伐は、魔物が来なくなるまで続いた。


「よし!今日は撤退だ!さっさと檻を下げろ!」

「またクセェのに近づかないといけないのか……やれやれだぜ。」

「おい、こいつ生きてるか?」

「流石に初日に死なれちゃぁ困る。薬師を呼べ!」



 檻が森から離されると、その場で野営になるようだった。

 水を檻の外からかけられ、薬師と呼ばれている男が私を診た。終始顔をしかめて、触りたくないと言って見るだけで診察を終わらせた。


「……あぁ、中々の火傷ですな。それに足の傷は魔物によるものですかな?……ふむ。これとこれを塗っておけば良いでしょう。」

「死なない程度ならいい。必要以上の治療はするなよ。どうせいずれ死ぬんだ。ははっ!」


 いずれ死ぬ……。

 私は生きて王都に帰ることは出来ないのだと、生きて帰す気はないのだと初日に知る事になった。



 その日から毎日森に連れられ、魔物を呼び寄せる餌にされて魔物討伐は行われた。

 体の傷は治り切る前に新たにつけられ、火傷は私の体にたくさんのシミのような痕を作っていった。


 森の魔物の数が減ると、また違う地に運ばれて同じように餌にされた。



 延々と続くような地獄。



 餌にされるようになってから何日が過ぎたのかもわからなくなった頃、妹が私に会いに来た。

ヴィリアは元々貴族の娘でした。父母妹がいる四人家族でした。


ヴィリアが七歳で発現させた魔香は臭いだけではなく、その臭いは魔物を呼び寄せる力がありました。

国はその力を使ってヴィリアを餌に魔物討伐をします。


人として扱われないヴィリアは、魔物を討伐するために放たれる魔法に巻き込まれ、身体中に傷と火傷を負います。


ただ、幼少期に母に言われた『貴族は顔に傷をつけてはいけない』という言葉を守り、顔だけはなんとか守っていました。


そんな餌生活のある日、妹が会いに来ました。

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