1 師匠が借金を背負ったそうです
目の前には存在しているかわからないと言われていた魔族の魔人。頭に角が生えているから間違いない。
その魔人さんの手には請求書。もちろん、私に向かって出されている。
「こちらがあなたの師匠、サーテル殿の借金の金額になります。」
金額の部分を見る。……金貨千枚だそうな。良くもまぁこんな、きりの良い金額に出来たものだ。
私は思わず自分の頭を抱えた。
「……師匠が、魔族の住む国で借金こさえている……。」
「ええ。どうやらそのつもりは無かったそうなのですが……。あ、こちらがサーテル殿からあなた宛の手紙になります。」
魔人の男性は丁寧な所作で師匠の手紙をくれた。
私はその手紙を乱雑に開けた。
『ヴィリアアアアァァァァ!
助けてえええぇぇぇぇ……。僕、そんなつも……。』
途中で読むのをやめて、魔人さんの方を見る。
魔人さんは、もう読み終わったのか?と思っているのだろう。ちょっと不思議そうな顔をしていた。
「私に金貨千枚もの借金を返せるとは思えないのですが……。」
「その……失礼ながら、サーテル殿は支払い能力に問題がある感じでして……。サーテル殿とじっくり話し合った所、薬師として弟子のあなたがいればなんとか出来る、と言われたものですから。」
あんにゃろ……私を巻き込みやがったな……。
申し訳なさそうな顔をする魔人さん。迷惑かけているのは師匠なので、あなたがそんな顔をする必要は無いんだけれど……。
それにしても……。傍迷惑な師匠だ。どうやったら気付かぬうちに金貨千枚の借金が出来るのか……。魔族に迷惑をかけ、弟子である私にも迷惑をかけおって……。
そういえば、初めてこの森の中の家に来た時、この人はよく今まで一人で生きて来れたなぁと思うほど、酷いゴミ家だったのを思い出した。その部屋を見て、私は自分が頑張らなければ!と思ったのだ。
支払い能力……無いよなぁ。師匠はただの薬草馬鹿だもん。
死にかけた私を助けてくれて、ここまで育てて……くれたのか?いや、むしろ私が面倒を見ていたような気がしなくも無いけれど……。
でも一応、本当に一応!育ての親だしな……。なんとかしないとダメだよなぁ。
師匠が旅をしていた目的も、私の為だし……。
私のために、いるとも知れなかった魔族が暮らす国まで行ったのだ……。はぁ……。
「……わかりました。魔族の国、行きます。」
こうして私は、人族だけが住むアロンダイト王国の端っこ、辺鄙な村のそのまた端っこにある森の中のポツンと一軒家から、魔族が暮らすアズロ魔王国へ行く事になった。
借金返済のために他国に行く事になろうとは……。借金完済出来るのかなぁ……。
とりあえず、魔王国で師匠に会ったら一発……いや、三発くらい殴ろうと心に決めた。