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転生しても呪いの人形は憑いてくる  作者: おサボりにゃんこ軍師
第2章 ???「七不思議は作る派です!」
9/57

七不思議の七「遏・縺」縺ヲ縺ッ縺?¢縺ェ縺

 何度も言いますが、ジャンルはホラーではありません。念のため。




 先制の《スカラベ・ストリーム》は、何の効果もなく悪霊(ゴースト)の身体を突き抜けた。


「駄目だミケタロウ! 悪霊(ゴースト)は幻を恐れない!」


 いくら「光」とはいえ、攻撃力ゼロの魔法では時間稼ぎにもならないらしい。イクリプスはみんなを背中に乗せ、図書室から脱出した。悪霊(ゴースト)二角獣(バイコーン)の走りにも負けない速度で空中を滑るように追ってくる。


「《リジェクション》!」


 駆け抜けざま、イクリプスは後方に【闇魔法】の障壁を生成。敵を拒絶する漆黒の壁に、悪霊(ゴースト)は頭から突っ込んでいき、一瞬の間を置いて、染み出るようにこちら側へ抜け出してきた。イクリプスにもわかっていた結果だが、闇に近しい性質を持つ悪霊(ゴースト)に、闇属性は相性が悪いのだ。


(《スカラベ・ストリーム》!)

「ミケタロウ、何度やっても――あれ? 効いてる?」


 エイミーは肩越しに、二度目の《スカラベ・ストリーム》が悪霊(ゴースト)を怯ませるのを見た。エイミーはフンコロガシたちを観察し、一度目とは何かが違うと感じた――()()()()()。カラクリは【欺くもの】の効果だ。

 幻影魔法は幻と看破されれば何の意味もない。虫を飛ばしても無視されるだけ。しかし【欺くもの】をうまく併用すれば、魔力を誤魔化して効果を偽り「本物が混ざっている」あるいは「実は殺傷力がある」と相手に()()()()()ことができる。抜群のリアリティで迫ってくる幻を相手は無視することができず、回避するなり振り払うなり、何らかの対処を強いられる。

 これは本来ママのように幻影魔法を極め「五感をだます術」を体得しなければ成し得ない業であるが、ミケ太郎はユニークスキルの力を借りて擬似的にその境地へ達していた。


「チャンスだ! ナナ、【付与魔法】を頼む」

「がってんにゃ! 《フェザーブーツ》!」


 イクリプスの(ひづめ)を柔らかな魔力が包み、敏捷性を強化する。イクリプスは一気に加速!


「このまま職員室へ向かう! 舌を噛むなよ!」


 イクリプスは中央階段――二角獣(バイコーン)一角獣(ユニコーン)も不自由しない緩やかな坂道――を一気に駆け降りる。職員室に行って攻撃魔法の使える先生に助けを求めれば、悪霊(ゴースト)はあっと言う間に爆発四散。ゲームセットだ!

 職員室の扉が見えてきたあたりで、ミケ太郎は叫んだ。


(せんせー! せんせー!!)


 ミケ太郎の【思念授受(テレパシー)】は壁一枚程度なら貫通して向こうに届く――はずだが、職員室から応答はない。


「あたしが!」


 ナナは走るイクリプスから飛び降りて鮮やかなローリング受け身を決め、ぴったりと職員室の出入り口前に着地。


「センセー助けて悪霊(ゴースト)が出た!!」


 人生最高の勢いで扉を開け放ったナナが見たのは、そこにいるべき先生たちが、




 一人残らず悪霊(ゴースト)に変わっている光景だった。




「ぎにゃあああああああああああ!?」


 ナナは飛び上がって仲間のところに戻った。そこには同じくびっくり仰天している仲間たちしかいなかったが、一人よりはマシだった。


「え、え、な、何これ。先生たちはどこに行ったの?」

「分からん……どうしてこんなことに……!?」

「きっとみんなやられちゃったにゃあぁ、絶望にゃあぁ」


 気付けば一行は校舎の四方八方から迫ってくる悪霊(ゴースト)に退路を断たれていた。改良型《スカラベ・ストリーム》もダメージがないことを学習され、嫌がらせにしかなっていない。


「何か……何か手はないのか……!」

「そ、そうにゃ! "契約"にゃ! ミケタロウと"契約"してさいきょーの人形術師になってにゃ!」

「えぇ!?」


 ナナは半泣きで妄想を語った。もうそんなものにしかすがれないのだ。


「はよせーにゃ! にゃごにゃごすんにゃ! とっととしにゃーと引っ掻くにゃ! 引っ掻いて傷口をベッロンベロンに舐めつくすにゃ!」

「わ、わかったから爪しまって! ミケタロウ、お願い。突然で悪いけど、あなたの力を貸して!」


 ミケ太郎はお願いされたので快諾した。エイミーの手から伸びてくる赤い糸を抵抗せずに受け入れた。ミケ太郎のぽてっとした手の先に、魔力の糸が触れたとき――




――ミケ太郎は覚醒した。





 糸を通じて、意識が、魔力が、情報が、すさまじい勢いで駆け巡る。

 綿の身が膨張と収縮を繰り返し、湧き立つように力が満ちる。


「う、あ、これ、なんて適合率。高すぎて、制御が」


 いつもより【念動力(テレキネシス)】の出力が大きい。

 いつもより【思念授受(テレパシー)】の感度が高い。

 いつもより【隠密】も調子がいい。

 いつもより【幻影魔法】もうまくできそう。


「ちょっと待って、ミケタロウ。私、追いつけ、な」


 身体は軽く、想いは重い。

 今なら何でもできる気がする!


「速――!?」


 ミケ太郎は一瞬で悪霊(ゴースト)の顔面に肉薄した。ちいさな拳をめいっぱい引き絞り、振り下ろすとともに最大出力の念力を解放した。

 瞬間、爆風が吹き荒れた。悪霊(ゴースト)の全身が刹那のうちに吹き飛ぶ。


『スキル【武術】を獲得しました』

『武術《念功颶風拳(ねんこうぐふうけん)》がシステムに承認されました』


 煙でできた身体は徐々に寄り集まって再生していくが、関係ない。再生するそばから殴ってやればいいだけだ!


(ぱんち! ぱんち! ぱんち! ぱんち!)


 覚えたての【武術】、編み出したばかりの《念功颶風拳》が敵を蹂躙する。一度に三体以上の悪霊(ゴースト)が巻き込まれ、ホコリのように散っていく。武術の熟練度なんて溜まっていなかったはずだけれど、突然の行動が、その場の思いつきが、想いのままに実現してゆく!


「凄まじい性能! まさか、これほどとは――!」

「いけいけミケタロウ、やっちまえにゃー!」


 気分はお掃除! 仲間たちの応援を受け、右へ左へ飛び回り、四方八方の悪霊(ゴースト)を、手当たり次第に吹き散らす!


「これって、ミケ太郎の記憶? 流れ込んで――」


 エイミーは魔力的繋がりを通じて、ミケタロウの一生を追体験する。意思持つ存在と"契約"した際まれに起こる、対象から術者への記憶の流入。本来は【精霊術】の使い手くらいしか体験しない珍しい現象が、見習い人形術師の少女に襲いかかる。


「だれ、この子、"美咲ちゃん"? 知らない街、あ、だめ、"トラック"が。やめて来ないで行かないで、あ、あ、血が……い……いや……嫌ああああああああああああああああ!!」


 エイミーは耐えきれず"契約"を切断した。途端、ミケ太郎を満たしていた全能感がさっぱりと消え去った。異常な加速が失われ、ミケ太郎はゆっくりと廊下に着地する。

 酷い精神的ダメージを負ったエイミーは姿勢を維持できず、イクリプスの背中から落下した。


「エイミー、大丈夫か!?」

「頭痛いのにゃ!?」

「う……ううぅ……」


 夢から醒めたようだった。でも、悪夢は終わっていなかった。


「ヒッ。さ、再生してるにゃ!」


 盛大に吹き散らされた悪霊(ゴースト)たちは、いつもより時間がかかっているようだけれど、ゆっくりと、ゆっくりと、形を取り戻していく。

 ミケ太郎は《念功颶風拳》を使おうとした。が、できなかった。【念動力(テレキネシス)】の出力がぜんぜん足りなかった。ふつうの念力で散らそうとしても、箸でスープをかき回しているみたいに、ほとんど手ごたえがない。「面」での制圧力が絶望的に足りない。


「ワッケわかんないにゃ……ワッケわかんないにゃ!!」


 ナナは絶望を通り越して怒っていた。この理不尽に、理不尽を生み出した環境に。


「にゃんだこの状況! にゃんで学園に悪霊(ゴースト)がいるにゃ! センセーたちはどこ行ったにゃ!? 普段お説教ばっかりで、こういうときこそオトナの出番にゃのに。オトナは、オトナどもは、一体何やってんにゃあああああ!!」






「やあ、遅れてすまない。大人が来たよ」


 そのとき、光が弾けた。まぶしくて、暖かな光。悪霊(ゴースト)たちは悲鳴をあげ、蜘蛛の子を散らすように去っていく。


「よくぞ、ここまで持ちこたえてくれた。……あとは、大人の仕事だ」


 ナナは、イクリプスは、エイミーは、ミケ太郎は、光差すほうを見た。輝く廊下の向こうから、ゆったりと、まっすぐと、大人の影がやってくる。

 光が晴れたとき、そこにいたのは、


「ぼくに任せなさい」


 太った身体にパツパツの体操着を着たおじさんだった。

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