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転生しても呪いの人形は憑いてくる  作者: おサボりにゃんこ軍師
第2章 ???「七不思議は作る派です!」
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七不思議の三四五六「なんか色々動いてる(要約)」

 ちなみにイクリプスはガチの馬です(想像の余地を尽く滅ぼす暗君の笑み)

 人化もしません(断固たる決意)




 放課後になるとミケ太郎は一気にヒマになる。クラスメイトたちも帰ってしまうし、先生も机に向かって何か書いたり会議したり忙しくて構ってくれない。ホーリー家に帰れば夫人がいるけれど、彼女はぬいぐるみとの遊び方を知らない。隊長は論外。

 そこで、クラスメイトのうち特に仲良くしてくれる人たちを引き止めて、学園のいろんな場所を案内してもらうよう頼んだ。客寄せのためフンコロガシくんの遊覧飛行ショーを開催したが、なぜかウケは悪く、集まったのは三人だけだった。


「にゃっは、何コレ、ちょー楽しい!」


 猫人(ワーキャット)のナナは宙を舞うフンコロガシを追いかけ、素手で仕留める遊びにハマっている。叩いても潰れない幻なので、ずっと飛ばしておけば無限に遊んでくれる。


「幻影魔法を搭載した自動人形(オートマタ)……どういう設計思想なんだ……?」


 二角獣(バイコーン)のイクリプスはフンコロガシというより、ミケ太郎そのものに興味津々だ。彼の住処は王都近郊の森で、門限もなく、日没ギリギリまで付き合ってくれる。


「私、帰って試験勉強やりたいんだけど……」


 人間のエイミーはいまいちノリが悪いが、クラスから暗黙のうちに「ミケタロウ係」に任命されてしまったため、なんだかんだで同行している。最年長にして既にほとんどのカリキュラムを終えている彼女は、卒業を間近に控えており、本人が言うほど自宅学習を必要としているわけではない。


(いこう!)


 ミケ太郎が飛べば、二人はタッタカ、一頭はパッパカとついてくる。それがたまらなく楽しかった。

 ミケ太郎にとって「友達と連れ立って遊ぶ」という体験は初めてだった。そもそも美咲ちゃん以外に「友達」と呼べる存在がいなかった。強いて言えば、美咲ちゃんの家にいた他のお人形がそうだったが、彼らに自我はなかった。友達というより静かな同僚という感覚だ。旅の途中に出会った同朋とも、情報交換以上のやり取りをすることはなかった。

 一番は美咲ちゃんに遊んでもらうことだが、自分が中心となって誰かと遊ぶのも、悪くはなかった。


「今日はどこ行くー?」

(しらないところ)

「うーん、行けるところはあらかた回っちゃったからなぁ。どうしよう」

「あ! それならさ、学園七不思議を調べようよ!」

「七不思議? ずいぶん古い噂だけど」

「いやいや、最近も、知らない間にトイレの扉が全部開いたり、更衣室のロッカーが開けっ放しになってたり、色々起きてるらしいよ!」


 学園七不思議――それはエイミーの先輩の先輩の先輩、そのまた先輩の時代から受け継がれている学園内のウワサ。時が経ち尾ひれが付きすぎてもはや最初の七不思議が何だったかすら辿れないが、最近また話題にのぼり始めたリバイバル・ブーム。

 情報通のナナの友達からのタレコミを要約すると、最近学園内のいろんな場所でいろんなモノが動いているらしい。トイレや更衣室の扉に、実験室の薬棚。図書室の奥の鍵付き書庫が開かれたかと思えば、次は美術品の保管庫が、パッカンパッカン開かれる。中に置いてあるモノの配置も微妙に変わっていて、銅像が三歩ほど進んだ位置に動いていることもあったらしい……。

 犯人は言うまでもなく、暇を持て余したどこぞの経歴詐称ニセ自動人形(オートマタ)だが、当の本人は「へぇーそんなことがあったんだー」的な顔でキョトンとしている。伝聞の形で聞くと自分のことと思えない、そういうこともあるものだ。


「とりあえず女子更衣室から行こうよ!」

「やめてくれ。俺が入れない」

「えー? 誰もいないしイックンなら許されると思うけどなー」

「イックンもやめてくれ」


 堅物のイックンに配慮して、目的地は図書室に決まった。ミケ太郎は空中でぴょんぴょこ跳ねながらついて行った。図書室は前にも案内してもらったことがあるし何なら数日前の三時間目にこっそり奥の書庫まで探検したが(←犯行時刻)、行くと絵本とか図鑑とかが読めるのでミケ太郎は楽しみだった。



「『勇者ミサキのドラゴン退治』、前も読んでなかったっけ?」

「ミケタロウは勇者ミサキのファンなんだねー」


 調査とは建前。結局のところ一行は図書室に入ってから、本を手に取りナチュラルにまったりモードへ移行した。イクリプスだけは真面目な顔して二本の角を四方八方にかざし、よからぬ意思を持った者がいないか探知している。ナナの体操着を盗んだ犯人は、まだ見つかっていないのだ。


「なんかさー、ミケタロウってもう、クラスメイトって感じだよねー」

「そうだね。いい意味で自動人形(オートマタ)らしくないっていうか。弟みたいな感じがする」


 エイミーはミケ太郎の頭を撫でる。ふわふわした見た目に反して少しガサガサした感触がする(幻影で隠されているけどその下には乾燥した血がこびりついているのだ)。こうするとミケ太郎は気持ちよさそうにするが、勇者ミサキの絵本を読んでいるときだけはまっすぐページを睨んで動かない。エイミーは苦笑しつつ、穏やかにミケ太郎を見守る。

 すっかり「お姉ちゃん顔」になってしまっているエイミーに、ナナは切り出した。


「ねー、エイミー。ミケタロウと"契約"してみたら?」

「え、そんな……駄目だよ。勝手にそんなこと」

「ミケタロウ、たぶん嫌がらないよ?」

「そうじゃなくて……王立研究所の秘密の試作品だし」

「秘密の試作品だからだよ!」


 ナナは、にゃふー、と鼻息を荒くしている。


「エイミーって卒業したら中等部行かないで冒険者になるんでしょ? ミケタロウと"契約"したら、さいきょーの人形術師になれるよ。さいきょーの人形術師になって勇者ミサキみたいに活躍したら、研究所も許してくれるって!」

「え、えぇー……ちょっと無理があるよ。イクリプスもそう思うよね?」

「無理がある。だが一理もある」

「ええぇ……」


 イクリプスは黒光りする理知的な瞳をこちらに向けて語った。


「推測だが、王立研究所の短期目標は新型自動人形(オートマタ)の運用データを取ること。そして最終目標は、新型自動人形(オートマタ)で国益を得ることだ。新型自動人形(オートマタ)を従えた冒険者が勇者並みの活躍をすれば、その両方が満たされる。机上の空論ではあるが、全く有り得ないというわけでもない」


 前提こそ違えど、「ミサキに並ぶ者を育成したい」という点において、イクリプスの説は国の真意を捉えていた。


「うそぉ……イクリプスは、私が勇者並みになれると思ってるの?」

「流石にそこまでは。しかし……一度くらい試してみるのも、悪くはないのではと考えている」

「試すって……」

「"契約"は決して不可逆のものではない。解除できる」


 要は「怒られたらやめればいいよね!」という話である。禁欲的なイクリプスが唯一抗いがたい煩悩、それは好奇心という名の劇薬だった。


「正直に打ち明けるが、ただの人形でなく自動人形(オートマタ)が人形術師と"契約"を成立させる瞬間、是非この目で見てみたい」

「ほらー! イックンもこう言ってんじゃん! やっちゃいにゃ、やっちゃいにゃー!」

「え、え、えええー」


 この場における唯一の良識までゴーサインを出してくる。件の自動人形(オートマタ)はこの手の下で無抵抗に撫でられている。

 エイミーは元より、集団のなかで意思を押し通せる性質(たち)ではなかった。クラス最年長であることも、引け目としか思っていなかった。ミケ太郎というきっかけがなければ、ナナやイクリプスに自分から話しかけにいくこともなかったし、誰かと特別仲良くなることもなかっただろう。

 エイミーはすでに、逆らえない流れに囚われてしまったのだ。すなわち、「悪友の囁き」に。


「も、もう。どうなっても知らないよ!」


 エイミーはミケ太郎に手をかざし、スキル【人形術】の基礎にして最重要の技――魔力糸を伸ばした。空中に仄かな赤い光の軌跡を描く魔力糸は、術者と人形を繋ぎ、指示を伝える架け橋となる。

 するすると伸びてミケ太郎を目指す魔力糸は、永遠に思える緊張の数秒を経て、いよいよ――


「む!」

「ふにゃ!?」

「きゃっ!?」


 イクリプスが突然そのたくましい首をぴんと伸ばしたせいで、驚き集中が途切れ、魔力糸は宙に溶けて消えた。


「な、なになに、やっぱり"契約"しちゃ駄目なの!?」

「いや、違う。これは――不純なる気配!」


 イクリプスは鬼気迫る様子で図書室の一点を振り向いた。それは鍵付きの書庫への入り口、数日前の怪奇現象を受けて封鎖が強められたはずの開かずの扉。


「なんか、煙が……」


 固く閉ざされた扉の隙間から、黒く、深く、重々しい煙が這い出してくる。火の気もないのに黒煙が伸び、意志持つ生き物のように蠢いている。

 ただならぬ気配にさすがのミケ太郎も絵本から顔を上げた。あんな煙知らない。この間書庫に侵入したのは事実だけどそのときは煙なんて無かった(←容疑者の供述)。書庫には古臭い資料ばっかりでミサキのミの字もなかったので何もせずすぐ退出した。ミケ太郎のせいではない、はずだ。

 黒い煙は徐々に形を定めていき、やがて歪なヒト型となった。


悪霊(ゴースト)!? そんな、どうしてここに」


 悪霊(ゴースト)は霊体系の魔獣の一種。闇の魔力で構成された霧状の身体を持ち、ほとんどの物理攻撃を受け付けない。

 学園長が張り巡らせた結界のおかげで、敷地内に魔獣は入ってこれないはず。その常識と目の前の現実がぶつかり、エイミーは困惑する。

 悪霊(ゴースト)は魔獣学の教科書でも最初の方に載っていたのでミケ太郎も知っている。無差別に人を襲い、魂を奪う悪いやつだ。ところで魂って何? ミケ太郎は魔獣学の先生に質問したが先生も答えられなかった。それはとても難しい問題で専門家の間でも意見が分かれて最終的には教会の聖女も巻き込んだ喧喧囂囂(けんけんごうごう)の大議論になっ


「ワケなんてどうでもいい! 霊体はヤバいにゃー!」


 ナナは尻尾を逆立てて言った。霊体はヤバいのだ。どれくらいヤバいかというと、普段「にゃーとか言ってる猫人(ワーキャット)は方言を自慢する田舎モンぐらい見苦しい」などとファッション猫語野郎どもをこき下ろしてるナナが「ヤバいにゃー」とか言っちゃうぐらいヤバいのだ!


「この場の戦力では厳しいか……!」


 霊体系の魔獣は基本的に攻撃魔法でしかダメージを与えられない。初等部の子どもたちは手軽で制御の簡単な魔法をひとつかふたつ使えるくらいで、悪霊(ゴースト)への対抗手段に乏しい。

 まごまごしている内に、悪霊(ゴースト)は動き出し、獲物を目指して近寄ってくる。


「に、に、逃げないと――」


 恐れおののくみんなを見て、ミケ太郎は異世界に来て何種類目かの、生まれて初めて経験する感情を覚えた。それはパパやママに抱いた感情ともまた違って、ミケ太郎の語彙ではうまく表現できなくて、けれど、近い言葉で無理やり翻訳するならば、


 俺の友達に手を出すな。


(《スカラベ・ストリーム》っ!)


 秒間五匹のフンコロガシが号砲となり、悪霊VS呪いの人形ドリームマッチが幕を開けた――!




 エイミーをしょっちゅうエミリーと書き間違える。いつか重要なシーンでやらかさないか心配です

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