表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/5


憂鬱な気持ちを抱えたまま、会社に向かう月曜日。

鞄のポケットの中にはスマホ。


──着信、十数件。


メッセージも吹き込まれてたし、ショートメールも入ってた。

メッセージは聞かずに消した。

メールは予め表示されてしまう部分だけ見て、仕事の話ではないことを確認してから消した。


……なんだか上手くいかない。

これで煩わしい事が終わると思ってたのに。なんでこんな煩わしい事になっているんだろう。




課長の左手薬指には、銀色のリング。




「これはカモフラージュなんだ、色々面倒だからね」なんて言っていたけど、信じちゃいない。

調べればわかることだが、必要ない。それが真実だったところで、この先など考えられないのだから。


あの夜は互いに人肌が恋しかったのだろう。それで構わないと思う。


事実など、それで充分だ。





「!」


仕事が終わると課長が待っていて、私はたじろいだ。


「お疲れ様」

「お疲れ様……です」


今週は忙しい筈だから大丈夫だと思っていた。

そして週を跨いでしまえばきっと、どうでもよくなると。


──目立つのは得策じゃない。

ただでさえ、仕事が正しく流れたことをよく思ってない馬鹿がいるのだ。


課長もそれを気にしているのか、居酒屋やレストランではなく、会社近くの喫茶店に入った。

個人経営の店で、社内でも退職などの個人的な相談の際割と使用する。一席一席が程よくあいており、木材のパーテーションで仕切られている。会社が多い場所柄故だろう。

ここなら私がサビ残を請け負っていた事実からも、軽い注意と思われるくらいで不思議に思う人間はいない。


課長のそつのなさに何故か若干の苛つきを覚えながらも、促されるまま後に従う。




「金曜日……どうしてついてきた? 嫌なら断れば良かったじゃないか」


ブレンドをふたつ頼むと、前置きなしで彼はそう言った。口調は静かなまま。


「さぁ……自分でもよくわかりません」


それが正直な答えだ。


「酔っていたのか」と聞かれないのは、然して飲んでいなかったからだろう。

生憎、顔には出ないがすぐ酔う、みたいな器用な体質でもない。



あの夜課長と私は、なんとなく波長が合った。



苦手だと思っていた『本社のエリート』臭のする課長だが、スーツの上を脱いでネクタイを外すとただの年上男性に見えた。


「ネクタイは仕事の時しかしないから」


字面だけみるとなんだか素敵な口説き文句のようだが……実際のところはそこに『口説こう』みたいな色はなく、ただ寛ぎたいだけの様子だった。

失礼な言い方をするならば、ただの疲れたサラリーマン。当然ときめきなどはない。


……そこにガードが緩くなったのは事実だ。

ときめきは感じなかったが、なんとなく安心感があった。


波長が合った。

そうとしか言いようがない。


話も盛り上がらなかった、というか然したる話もしていない。

ぽつり、ぽつりと互いにどうでも良いような事を言って、少し笑う。そんな感じだった。



「沈黙が気にならなかったから、かも……しれません」



理由をつけるなら、そんなところだろうか。



暫く黙って、ゆっくりとブレンドを飲み干した後で課長は、金曜日と同じ台詞を言った。



「……ウチで話さないか」


『嫌なら忘れて』と金曜日は続いたけれど今回は続かず、かわりに有無を言わさない圧が感じられた。




──ガタン、ゴトン


いつもの様に電車は走っている。

妙に冷めた気持ちでその音を聞いていた。

閲覧ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] とても読みやすくて好きです (*´▽`*)ノ ~♪ 素敵なお話だと思います。 当事者になったらキツイですけど (;'∀') 高架下から眺める感じで読んでます (`・ω・´)ゞ ~♪
[一言] 横レスすいません! 『課長馬鹿一代』www 私も野中英次大好きでした!!!ww 『ドリーム職人』も好きだったなあww
[一言] 銀色のリング……。 これはどっちなんだろう……? 本当にカモフラージュなのかな? それとも……。 >「沈黙が気にならなかったから、かも……しれません」 これは凄くわかります! 男女に限った…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ