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会いたい




どうしてこうなったんだろう……?


部屋には、吉高さんと、私、そして何故か…………ベッドで眠る隼人。


なんて重苦しいんだろう。この部屋は、まるでGがかかったように重い空気だった。


私が吉高さんの前にコーヒーを置くと、吉高さんが口を開いた。


「瑠璃、この前どうして先に帰った?」

「えっと……その……急に……用事を思い出して……。」

「病院には本当に行ったのか?」


なんだか怖くて、吉高さんの方を向けなかった。


「……行きました。」

「突発性難聴、だったか?」

「え?」


どうしてそれを?


「治療は?仕事はどうするんだ?」

「ちょ、ちょっと待って下さい。どうしてそうだって決めつけて話すんですか?」

「違うか?」


吉高さんの圧に、嘘がつけなかった。


「そう……でした。」

「やっぱり。梨理もなった事がある。その時は運良く1週間以内に病院へ行って、すぐに治療が始められた。」


知らなかった。梨理も、同じようになった事があるんだ……。


「耳が慣れてからだと完治しにくい。だから瑠璃に………………」


吉高さんの話の途中で、隼人が目を覚ました。


「……ん?」

「あ、隼人、気がついた?」

私が隼人に声をかけると、隼人はゆっくりと起き上がった。


「え?瑠璃ちゃん?ここは………………えぇ!?」


隼人は慌ててベッドから降りると、こっちが驚くほど驚いていた。


「何で、なんで僕はここにいるの!?」


自分の格好にも気がついた。


「何!?何なのこの格好!!」


そして、頭を抱えてしゃがみこんだ。


「えぇええええ!?何だこれ~!?」


どうやら、隼人にはどうしてこうなったか記憶が無いみたい。それって結構………………ヤバくない?


女装に目覚めたのかと思ったけど……そうじゃないの?


そんな事を思っていると、隼人は突然立ち上がって叫んだ。


「梨理だ!!」


梨理………………だ?


隼人の意外な一言に、一瞬恐怖を感じた。


「梨理だ。って…………何だ?」


すると、ソファーに座って黙って様子を見ていた吉高さんが隼人にそう訊いた。隼人はその問いに答えないまま、私にこう訊いた。


「瑠璃ちゃん、もしかしてこの人…………吉高さん?」


私が頷くと、隼人は血の気が引いたように、顔が青ざめていった。


やっぱり………………どうしてこうなったんだろう?



それは、私が次の休みの日に、実家近くの病院へ行った時の事だった………………


実家の方向から、明らかに女装した男の人がやって来た。その男は私の顔を見ると、突然、親し気に話しかけて来た。


「あ!瑠璃~!久しぶり~!」

「え?は?」


それは、良く見たら……隼人だった。


それは確かに久しぶりだけど……。


「どうしたの?私、何かおかしい?」

隼人は、自分の格好を見て、クルリと回って私にそのワンピースを見せて来た。


私は突然の事で、思考が止まった。どうしていいか、わからなかった。正直、反応に困る。


「る…………」

隼人が私の名前を呼ぼうとした瞬間、私は先に怒鳴りつけた。


「何考えてるんですか?」

「え?」

「何考えてるって……どうしたの?久しぶりに会ったからって、その態度はないんじゃない?」


冷静に隼人にそう返されて、愕然とした。


「…………そうですね。すみません。」


もう、すみませんとしか言えなかった。


ここを離れよう。何だか怖い。隼人が隼人じゃないみたい。私はそう言ってその場から立ち去ろうとした。すると……


「ちょっと待って!」

「まだ何か?」

「いや、あの…………」


何故か隼人は私を引き止めて、何かを言いたそうにしていた。


「あれ?瑠璃、制服は?どうしてスーツなの?まさか高校辞めて働いてるとか!?」

「はぁ?」


何言ってるの?高校生だったのは10年近く前でしょ!?本当に……どうしちゃったの?隼人?


「あの、ハッキリ言わせてもらいますけど、梨理がいなければ、私達はただの他人ですから。」

「梨理がいなければ…………?」


それ、どうゆう意味?という顔をしていた。


理解できない?どうして?


「何言ってるの?私ならここに……瑠璃、悪い冗談は止めてよ。」


悪い冗談!?冗談をやってるのはそっちでしょ!?梨理みたいな格好して、実家の周りうろついて、完全に不審者だよ!!


私は思わず後退りして言った。


「そっちこそ!悪い冗談は止めてよ!気持ち悪い!!」

「気持ち悪い…………?」


そう言った瞬間、隼人はふと花屋のガラス張りの自動ドアの方を見て、突然倒れた。


とっさになんとか隼人を支えた。隼人が華奢で良かった。私は重い隼人の頭をゆっくりと置いて、道の端に横たわらせた。


どうしよう……。もうすぐ病院の時間……でも今はそれどころじゃない。


救急車?救急車を呼ぼう。


そう思って携帯を見たら、隆人から着信があった。そうだ隆人!!隆人に来てもらおう!!


隆人に電話をかけても、隆人は電話に出なかった。仕方なく電話を切ると、ちょうど吉高さんから電話があった。


「もしもし?吉高さん?えっと、あの今……そう、私、救急車呼ばなくちゃいけなくて……」

「救急車!?」


吉高さんは驚いて、様々な質問をしてきた。今どこにいるのか、何があったのか、警察は必要なのか……。


私はいつしか、吉高さんに助けを求めていた。


「吉高さん……助けて……。」


その一言に、吉高さんはすぐに車で駆けつけてくれた。


そして、隼人をこの部屋に運んでくれた。


そして、現在………………


吉高さんと隼人の対峙に至る。


「俺が、吉高 礼於です。はじめまして……じゃないか……葬式の時、一度拝見してます。あなたが、大森 隼人さんですよね? 」

「え、あ…………はい…………。」

「で?梨理が?どうしたんですか?」


吉高さんの隼人への敬語が、何だか怖かった。


すると、隼人はこうなった理由を話始めた。


「梨理の幽霊が出て」

「ゆ、幽霊!?」


真顔で幽霊とか言う人初めて見た……。


「梨理と半分こしたんだ。」

「は?……半分こ?」


言ってる意味がわからない。


「多分、僕達、僕の体を……意識をシェアしてるんです。」

「意識のシェアって何?」

「それは……つまりは………梨理にとりつかれてるって事だと思います。」


本当の所は隼人にもわからない。だけど、昼間に意識の無い時間が増えたらしい。それは、梨理が隼人の体を使っているからではないか。という訳だった。


梨理の幽霊?今さら?


「別に、梨理には僕が特別とかそうゆうんじゃないんです。ただ……」

隼人は何だか言葉を詰まらせながら、言い訳していた。


でも、どうフォローしても、幽霊の梨理が隼人の所に行った事は変わらない。死んでもなお、会い行ったのは吉高さんの所ではなく、隼人の所だった。


「すみません。これで失礼します。」


それから隼人は、逃げるように帰って行った。



隼人が帰った後、私は吉高さんに訊いてみた。


「吉高さん、隼人の話、どう思います?」


こんな話、信じられる訳がない。


「………………。」

隼人の話を聞いた後、吉高さんは黙ったまま冷めたコーヒーを眺めていた。


「でも、もし………もう一度梨理に会えるなら、それが梨理の姿をしていなくても……会いますか?」

「………………。」


吉高さんが答える前に、思わず言葉が出ていた。


「ダメですよ……。」


私は慌てて自分の出した言葉をごまかそうとした。


「え、あ、そんな……そんなの簡単に信じちゃダメですよ~?そんなのすぐ信じたら、霊感商法とかに騙されますよ?」


それでも、吉高さんは小さな声ではっきりと言った。


「それがもし、本当に梨理だとしたら……たとえ幽霊の姿でも、俺は会いたい。」


会いたい。


その言葉は…………私の胸に深く深く突き刺さって、抜けない刺のように胸を傷める。それは……


痛い。


吉高さんを想うと……


苦しい。


梨理を想うと……


悲しい。


私には何もできないと思うと……


辛い。


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