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何だか




「瑠璃、ここにいたのか……。」

後ろから、声をかけられた。


吉高さんの声だった。


吉高さんが…………迎えに来てくれた。


それでも私は、まるで子供のように、公園のブランコに座ったまま、吉高さんの方を振り向く事ができずにいた。


人生があと何年あるのかわからない。


私はあと何年、この人と一緒にいられるんだろう?


そんな事を考えながら、片耳から聞こえる音楽を止めた。


早く……早く謝らなきゃ……。


「あのね、あの、吉高さん……。」

「どうした?」

「あの、その…………」


私が上手く言えないでいると、先に吉高さんに謝られた。


「ごめん、瑠璃。…………ごめん。」


そのごめんは、何に対してのごめんなの?梨理を許せなくて、梨理を手離した事?


それとも……………………今だに伝えられずにいる、あなたへの想い?


焦る。


だって、意図していなくても、梨理みたいにいつ人生が終わるかわからない。明日かもしれない。今日かもしれない。一時間後かもしれない。


この想いが伝わらないまま、人生が終わるかもしれない。そう思うと、何だか焦った。焦れば焦るほど、上手くは言えない。何も、言えなかった。


振り返ると、吉高さんは私から視線を逸らした。

「こんな時間に1人で出歩くな。今から部屋に送るから、帰るぞ。」


そう言うと、先に梨理の部屋に向かった。私は、遠ざかる背中を追いかけ、吉高さんの後について歩いた。


その背中を眺めると、やっぱり梨理の姿を思い出す。


梨理はよく後ろから吉高さんに抱きついて、二人でふざけ合っていた。


今、その背中に抱きついたら、どんな反応するだろう?何故か最悪な光景しか思い浮かばなかった。


だって……………………私は梨理じゃない。


とうとう、梨理の部屋の前に着いてしまった。


「瑠璃、その顔止めろ。」

「は?」


その顔というのは、どの顔の事を言っているのか理解できなかった。


「整形?じゃ、整形を……」

「いや、そうゆう事じゃなくて」

「全くの別人になった方が楽ですよね?ごめんなさい。梨理に似て無い方が良かったですね。」


梨理が死んでから、何故か痩せた。そのせいで、梨理に似てると言われるようになった。自分でも、痩せるだけでここまで似るのは怖いくらいだった。


「帰る。」


そう言って吉高さんは私に背を向けて、帰って行った。


『梨理に似ていない方が良かった。』その言葉に否定はしないんだ……。


あの人は絶対にここに長居はしない。それは、ここが…………元々梨理の部屋だから。


多分……梨理に会いたい気持ちと、もういないという事実が、心の歯車を上手く回せないでいる。私も、全然上手く回らない。


だからきっと私は、梨理の住んでいた頃のまま、ピンクだらけの部屋に今も住んでいる。嫌いなピンクのまま。


部屋に入ると、いつものように窓辺に座って音楽を聞きながら、夜の風を受けていた。


しばらくすると、インターホンが鳴った気がした。イヤホンを外すと、何も聞こえなかった。


なんだ、気のせいか…………吉高さん忘れ物?携帯を見ても連絡はない。忘れたとしても、わざわざ戻って来る事なんてしないだろうけど……。


そんな事を考えながら再びイヤホンをつけようとすると、ドーン!と、ドアを叩く音が聞こえた。


え……怖っ…………


「瑠璃~!いるのわかってんだからな~!開けろ~!!」

「隆人?」


私は慌てて玄関のドアを開けた。


ドアを明けると、そこにいたのは、やっぱり隆人だった。


「ちょっと静かにして!近所迷惑!」

まるで借金取りのようにやって来たこの男は、私達姉妹の幼なじみ、と言うか……大森隼人の弟。


私とは7歳年下の大学生。確か、大学3年だったかな?梨理のせいで、大森兄妹とは全員幼なじみだった。


「終電なくなった。泊めて!」

「はぁ!?ふざけんなネカフェ行け!」


全く許可していないのに、隆人は雑に靴を脱いで、ずかずかと上がり込んで来た。


すると、部屋を見た隆人が驚いて言った。


「部屋、まだ…………このまま?」


隆人には、異様な光景に映ったはず。梨理がいなくなって、半年は経つと言うのに、部屋は梨理がいた時のままだった。


隆人は以前から何度か終電に乗り遅れると、ここへ泊まりに来ていた。何度も隼人の所へ行けと言っても、必ずここに来る。


「悪い?」

「別に。瑠璃は昔からめんどくさがりだもんな~。あ~!喉乾いた!瑠璃、水!」

「飲んだら出てけよ~!」


私はいつものようにコップに水を入れて、ふてぶてしく当然のようにソファーに座っている隆人に、そのコップを乱暴に手渡した。


「え~!何でだよ~!」

隆人はコップを受けとると悪態をついて言った。

「何?梨理がいなくて二人きりだからダメ~とか言うつもりかよ?いやいや、勘違いす……」

「勘違いすんな!」


隆人が言い終わる前に、こっちが言ってやった。勘違いはそっちの方。


「私はあんたの姉じゃない。」


梨理だって、隆人の姉じゃない。いい加減に実の兄の所へ行けばいい。


「そんなのわかってるっての!でも…………あ、そうだ。俺、絵の具アレルギーなんだよ!」

「はぁ?!何そのアレルギー?」


しかもさっき、あ、そうだ。って言ったよね?それ確実に、今しがた思い付いた感じだよね?


「隼人の部屋は絵の具だらけでさ~!体中かゆくなるんだよ!」

「んな訳あるか!」

「俺はこの趣味の悪い布団カバーで寝たいんだ~!」


そう言って隆人は、ベッドにダイブして寝転んだ。


「コラ!!趣味悪い言うな!!」


すると、隆人は寝そべりながら肩肘をついてこう言った。


「……本当はさ、生きてるか様子見に来た。」

「はぁ!?」

「正確には、瑠璃の母ちゃん発、俺の母ちゃん経由、俺。」


なんだ。隆人は母の回し者か……。


「あれ?ガッカリした?」

「するかこのクソガキ!」


ソファーのクッションを隆人に向かって投げつけてやった。


母の事が出たら、余計に腹が立った。私が梨理の部屋に住み続ける事に、母は反対だった。何度も帰って来るように言われた。


それでも、私が実家に帰らない理由は…………


「吉高って奴に、まだ会ってんの?」

「え…………?」


隆人がどうして吉高さんの事を?


「さっき、下で会った。」


ああ、そうか……隆人は梨理の葬儀で吉高さんを見た事があるんだ。


何だか…………何故だか、隆人には吉高さんとの関係を知られたくなかった。


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