二人だけの惑星
15
それから2年後、隆人の就職も無事決まり、6月の晴れ間に、私達二人は挙式を挙げた。
挙げたというよりは、これから始まる。
いや、始まらない。始めるつもりはない。
隆人のあの一言がなければ、当日は順調に進んでいた。
私は隆人の一言に腹を立てて、控え室に1人で立て籠った。隆人はまた借金取りみたいに、ドアを叩いた。
「瑠璃~!出て来てよ~!」
「絶対嫌!!」
私は2年前よりだいぶ太っていた。7キロという範囲内ではあっても、見た目は変わった。
だから、隆人に冗談で『豚に真珠』と言われた事が許せないでいた。多分、一生恨む。
そもそも挙式は乗り気じゃなかった。この年の差が冷やかされる気がして、また怖くなった。
お母さんにはウェディングドレス姿を見せたし、もうこのまま帰ってもいいかな?
ここを………………抜け出そう。
私はドレスのまま、窓から控え室を抜け出した。
外は綺麗な青空だった。昼下がりのゆったりとした時間が流れていた。青々とした芝生の上を、ドレスの裾を持って歩いた。
池の前を通りかかると、そこに、吉高さんの姿があった。
吉高さんは私の姿を見るなり、立ち上がって思わず口を抑えた。
「ごめん…………なんだか……。」
「吉高さんも豚に真珠って言いたいんですか?」
「いや、違う。ただ………………」
吉高さんは私を見て、多分、梨理の花嫁姿を想像した。無理もないよね。梨理が生きていたら、今ごろドレス姿で吉高さんの目の前に立っていたのは、私じゃなくて、梨理の方だった。
「………………ごめんなさい。」
「瑠璃が謝る事じゃない。天国の梨理も、きっと喜んでる。」
そう言って吉高さんは空を見上げた。
「何だ?どうした?マタニティブルーか?」
「まだマリッジブルーですよ!」
その後、突然吉高さんはこんな事を言い出した。
「瑠璃、太ったな。」
「え……!?」
それ気にしてるのに!!それが原因でマリッジブルーなのに!!
すると、吉高さんは笑顔で言った。
「別に、昔と変わらないぐらいだろ?そんなに気にするな。瑠璃はその方がいい。その方が瑠璃らしい。」
そんなの、ずるい…………
池の水面に移る私は、もう梨理じゃなかった。そこにはもう、梨理はいなかった。
梨理…………
梨理はライバルで……敵で……
「瑠璃。おめでとう。」
友達で…………
「ありがとう。吉高さん。」
お姉ちゃんだった。
お姉ちゃん、私、隼人の弟と結婚するよ。
私は、雲ひとつない空にそう伝えた。
それから、吉高さんになだめられて、控え室に戻った。
「だって、めちゃくちゃ腹立ったんですよ!普通ハレの日にそうゆう事言います?」
「隆人も緊張してるんだろ。」
「そんな事言ったって、隆人に緊張感全然無いですよ?」
「だからって、大事な体でこんな所から出て来るなよ。」
そう言われながら、吉高さん手伝ってもらって、窓からまた控え室の中に入った。
1人、鏡を見ていると……
鏡越しに、誰かのウェルカムボードが目に入った。きっと、私の前にここを使った人の忘れ物だ。
それを手に取ると、そこにはおとぎ話のお姫様と王子様がいた。
おとぎ話は、むかしむかしから始まってめでたしめでたしで終わる。
誰もが羨むお姫様が出てくるお話なら、ある所に……から始まって、末永く暮らしました。で終わる。
それは、あるところがどこで、王子はどんな人で、お姫様がどんな結婚生活を経て、どんな思いをして生き、何を思い死んでゆくのか、そんな事は書かれていない。
残念ながら今は、森で王子様に逢える確率は、熊に遭遇する確率より低い。でも、少しの偶然で熊に出会って、熊との時間が大切なら……
きっと、そこにセオリーはない。
その先の物語は描かれていない。それはきっと、自分自身が好きに描いていけばいいのかもしれない。
そう思えた。
すると………………とてつもない希望と不安が同時に襲ってきた。
何だか、見えぬ未来に、気持ちが押し潰されそうになった。
すると、白いレースのカーテンが肩をかすめた。そのカーテンが、強い風に揺れて舞い上がると、窓辺に人影が見えた。
「梨理…………?」
すると、ドアの方から隆人の声が聞こえた。
「瑠璃~!俺、今いいこと言った!聞こえてた~?」
「え?何~?聞いて無かった!」
今、すぐそこに梨理が………………もう一度窓辺を見ると、その影は消えていた。
「じゃあ、もう一度言うから!今度は聞いててよ?」
「え?何?何て言ったの??」
すると、隆人は大声で言った。
「俺は誰よりも瑠璃を愛してる!!」
私が驚いて呆気にとられていると、梨理の笑い声が聞こえた。
「あははははは!瑠璃、おめでとう。」
その笑い声は、今でも耳に残る、あの笑い声だった。
あの時と同じだった。
あの時と同じ、あの言葉が聞こえた。
『幸せになってね。』
すると、またカーテンが風に吹かれて、大きく揺れた。
「あれ?聞こえ無かった!?また言うよ!?開けるまで何度でも言うから!!」
私は慌ててドアを開けて言った。
「ちょっと!止めてよ!!恥ずかしい!!バっカなの!?」
「バっカなの。」
ドアの外には、いつものあの笑顔があった。いつも変わらない、あの部屋のドアを開けた後の、あの笑顔。
あの部屋は、梨理との二人だけの惑星は、隆人との二人だけの惑星になった。
二人だけの惑星なんて…………正直ごめんだけど……
「ごめん。瑠璃、もう機嫌直してよ~!」
「許すけど、一生忘れないと思う。」
「えぇ!そこは綺麗さっぱり忘れてよ!」
でも、ひとりぼっちの惑星よりよっぽどいい。
「隆人……あのね……」
「何?やっぱりやめた~!とかもう無しだよ?無しは無しで!!」
「いやだから……あのね、」
予定の時間は過ぎていた。隆人に手を引かれながらチャペルに向かった。
「何?どうしたの?無しは………………」
私は途中で立ち止まった。立ち止まって言った。
「私も、誰よりも隆人の事、愛してるからね。」
それを聞いた隆人は、しばらく立ち尽くしていた。そして、その目から涙を流した。
「それ……無しでしょ………………」
「え!?ちょ!今から始まるのに!」
すると、隆人は涙を拭きながら、ふざけてその涙を誤魔化そうとした。
「やだ~つけま落ちちゃう~!」
「ちょっと、それ誰の真似?」
「目の前のお姫様。」
「普段つけまなんてつけてないし!」
全然、誤魔化されないんだからね?
ここは、二人だけしかないんだから。
二人だけの惑星なんだから。
もう………………もうすぐ三人の惑星になるんだから、しっかりしてよね?
最後までお付き合いいただきありがとうございました。自分的には1週間弾丸ツアーか!ってほど書きまくりました。それは……現実逃避だからです!現実にやる事がたまりにたまっていて、こうなれば早く終わらせるしかない!(途中でやめるという選択肢はない)多少いつもより雑な感じに……。そんな事ないか、いつも雑か……。
当初の計画からだいぶ変わり……これ、ジャンル恋愛じゃなくね?と途中から気がつくも修正できず。本当にすみませんでした。やっぱりデータが消えたのが悔やまれます。
この作品が誰かの暇潰しになれば幸いです。ありがとうございました。




