覚悟
15
いや、母と親しいのは何となくわかってはいたけど……。
「ねぇ、少し寄ってもいい?」
実家に行った帰り、ビリヤード場に寄った。
そこで私は、隆人に再戦を申し込んだ。
「今度手抜いたら承知しないからね!」
「今度途中で帰ったら承知しないよ?」
二人で勝負をしていると、たまたま隆人の友達が二人やって来た。
「あれ~?タカ!」
「よぉ!」
「何?彼女…………?」
友達は私を見ると、彼女と言っていいか一瞬迷ったようだった。
「俺の彼女!」
「あ~!前から言ってた年上の女の事か!」
私は隆人の友達と軽く挨拶をした。
嫌だなぁ……。みんなめちゃくちゃ若い。自分だけ30歳目前だと思うと、完全にアウェー感を感じる。
隆人から友達は取りあげたくはないし……。こうゆうことはこの先ずっと気にする事になるんだろうな。と思った。
「私、先に帰ってるね。」
「どうして?勝負するって言ったじゃん!」
「いや、でも友達いるし、私邪魔…………」
すると、隆人は怒り出した。
「それってさ、遠慮?それともまだ逃げてんの?」
「え?いや……その……」
私達の様子を見て察した友達が言った。
「あ、邪魔はこっち。俺ら、忘れ物取りに来ただけだから。タカ、また今度!」
「ああ!また!」
そう言って友達二人は帰って行った。
「いいの?」
20やそこらの男子ってまだ友達と遊びたい年頃じゃない?
「いいの。友達と遊びたい年頃とか言ってガキ扱いしないでよね?」
完全に読まれていた。
「俺ね、色々覚悟の上なの。ずっと昔からだから。」
覚悟ができてないのは、いつだって私の方だ。
「でも、友達は大事だよ?」
私には友達がいない。友達と呼べる人がいない。
「そんなのわかってる。でも、俺には瑠璃だって大事なの。瑠璃はわかってないよ。」
そう言って隆人はボールを並べ始めた。
そうかもしれない。私はまだ、隆人の事が全然わからない。
「ビリヤード、誰から教えてもらったの?」
「ほぼ独学だけど、たまにここのお客さんにアドバイスもらったり…………あ!」
隆人は1人の男の人の姿に気がついた。それと同時に、私も気がついた。
思わず持っていたキューを倒してしまった。
カタン、と音を立ててキューが転がった。
「備品は大切に。」
隆人はそう言ってキューを拾ってくれた。そして、その男の人の名前を呼んだ。
「関口さん…………」
思わず隆人と同時に同じ名前を発してしまった。そして、お互いに不思議な顔をして、顔を見合わせた。
「え?なんで?」
次のセリフも同時だった。
「俺、あのお客さんに何度か教えてもらったんだ。」
「あの人………………」
「あの人?」
元彼です。とは言えなかった。
「タカ、久しぶりだな!」
「関口さんも。」
二人の間でそんな会話がされている間、私はビリヤード台に隠れた。できればこっそり、バレずにここを抜け出したい。
「瑠璃………………?」
すぐにバレた。
「関口さん、瑠璃と知り合いなの?」
「あぁ、まぁ……」
元教え子、元彼女ですけど何か?そんな事、隆人の前で口が裂けても言えない。
関口さん、会わないうちに老けた。そりゃそうだよね。10年という時間は短いようで、意外と変化が大きい。
「お久しぶりです。」
「瑠璃、どうしてた?急に連絡が取れなくなったから……」
「ダメです!それ以上はここで言わないでください。」
私と関口さんの様子を見て、隆人はすぐに察した。そして、動揺した。
「ぐ、偶然だね!瑠璃も関口さんと知り合いだなんて……」
や、ヤバい……。
「瑠璃、後でちゃんと話をしよう。」
「いいです。話をする事は何もありません。もう、終わった事ですから。それより、また対決してもらえますか?」
関口さんは笑顔で言った。
「こちらこそ。」
「じゃあ……三人でやる?」
「え?いいの?」
えぇ!?友達は入れないのに、関口さんは入れるの?
「あ、いや、今人を待っているんだ。あ……噂をすればちょうど………………」
入口に人影が見えた。そこにいたのは………………
隆人の元カノ………………!!
「関口さん!お待たせ!」
そう言って元カノは関口さんに抱きついた。
その光景を見て、思わず私と隆人はキューを手から離してしまった。
カタン……コトン……と、騒がしく2本のキューが転がった。
「備品は大切にしないと。」
私達が呆然としていると、関口さんがキューを拾ってくれた。
嘘でしょ!?何歳差よ!?しかも、お互い元カノ同士って、そんな事あり得る!?あり得ないでしょ!?
「げ………………隆人!?」
元カノ……その反応はダメだ。それは色々とよろしくない。関口さんにバレる。
しばらくすると、隆人と関口さんに、見えない火花のようなものが見えてきた。
最初は男女混合で勝負をして、その後、隆人と関口さんの一騎討ちをした。
女二人はベンチに座り、その勝負の行方を見守った。
「関口さんの方が全然大人ですよね~。」
「何?隆人は子供だったって言いたい?」
「いえ、別に。それがいいときもあったんですけどね……。」
その後、元カノは自分もワガママで困らせたと反省していた。
「羨ましい。」
「羨ましい?もしかして、まだ関口さんに未練があるんですか!?」
「違う、違う!そうじゃないよ。」
胸を撫で下ろして、彼女は安堵の顔を見せた。
「私は……隆人に背伸びばかりさせてる。等身大の隆人でいて欲しいのに……。」
「そんなの、背伸びさせとけばいいじゃないですか。背伸びすると、伸びるってよく言うじゃないですか?」
「え……?」
意外な一言に、私は驚いた。
「私は関口さんに相応しくなるように、いくらでも背伸びします。背伸びしとけば、いつかは届くと信じてます。」
その目はしっかりと関口さんを見ていた。
「いつか、しっかり隣を歩ける女になるって決めたんです。」
その足には、相変わらず高いヒールの靴を履いていた。でもその色は、落ち着いた黒に変わっていた。
高校生の私には、そこまでの覚悟は無かった。
高校2年の終わりに、関口さんとの関係がバレて、噂が広まった。そうゆう女だと後ろ指を指されて、女子から総スカンを食らった。
でも、多分それが本当の原因じゃない。きっかけは何でも良かった。標的になれば誰でも良かったのかもしれない。
今になってみれば、自分の覚悟の無さが原因だ。
自分の気持ちに胸を張って、友達に打ち明けていれば、みんな離れて行く事もなかった。
勝負を終えた隆人が私の隣に座った。いつの間にか、元カノさんは関口さんの所へ行っていた。
「由奈と何話してたの?関口さんとのゲーム、全然見て無かったでしょ?」
「え?そんな事ないよ?」
「どっちが勝ったか知ってる?」
隆人が意地悪な顔をして訊いた。
「関口……」
「俺の勝ち。」
意外だった……。あの、はな垂れ坊主だった隆人が、関口さんに勝つなんて……。
背伸びすれば、届く……?
「大きくなったね。」
「いや、普通おめでとうじゃない?何、その母親目線の台詞?息子が勝った~!とかじゃ無いんだから。」
そういえば、そのイライラを梨理や母にぶつけていた時期もあった。うまくいかない時でも、側にいてくれたのは、家族だった。
「私、由奈ちゃんと友達になろうかな?」
「はぁ?」
「私も、友達欲しくなっちゃった。」
私が由奈ちゃんの連絡先を聞いていると、隆人と関口さんは不思議な顔をしていた。
「瑠璃が友達欲しいって珍しい。一匹狼がスタンスなのかと思ってた。」
「そうじゃないよ。私も、変わって行きたいなって思ったの。」
私も覚悟を持って、隆人の隣を胸を張って歩きたい。
「あ、でも、俺より優先するのは無しで!」
「えぇ……どうしようかな~?」
「え、じゃ、友達も無しで!!」
「はぁ!?」




