表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/16

ごちそうさま


12



それから数日後、進藤 結子がやってきた。


前回とはまるで別人だった。進藤 結子は部屋に入るなり…………


「ねぇ、カフェオレ入れてくれる?」


そう言った。


私は呆気にとられて、ボーっと呆けてしまった。


「入れてくれるの?くれないの?」

「あ、ちょっと待ってて!」


進藤結子は勝手に部屋の奥に入り、ソファーに座った。それを見ながら、私はカフェオレを入れる準備をした。


気が動転していてなかなか作業が進まなかった。えっと……まずはお湯……


すると、進藤 結子は両手を合わせてお願いしてきた。


「ねぇ、瑠璃、洋服貸して欲しいの!お願い!可愛いやつ。」

「え?は?」


その仕草は、まるで梨理だった。


「あ、やっぱり、ユー子に似合うやつ。」


梨理………………?


「私、礼於にもう一度会いたいの。」

「今さら………………会ってどうするつもり?」

「お別れを言うの。」


私は思わず、持っていたケトルから手を離してしまった。


「そんなのダメだよ!!」


そう言った瞬間、ガタンと音を建ててシンクにケトルが落ちた。


「どうして?死んでから話をするなんて、なかなかできる事じゃないでしょ?」

「いや、そうゆう問題じゃないでしょ?」


なかなかやれないからやってみよう。その考え方は何だか…………梨理らしい。


「まさか、もう礼於と付き合ってたりする?だとしたらやめる!礼於に会うのやめやめ~!」


いやいや、中止すんの早っ!!


「さすがにそんなに軽い気持ちで会うのは止めてよ……。」


いくら何でもそれは安易過ぎるでしょ?!


「だって、二人の邪魔したくないもん!」

「ちょっと待って?違うよ?付き合ってないからね?」

「違うの?…………良かった~!」


良かった?でも、邪魔しなくないって……


え?どっち?


「いいよ。瑠璃になら礼於を任せられる。」

「な……何言ってるの?」


やっぱり……梨理は………………


「だから自分から車の前に飛び出したの?」

「へ?飛び出してないよ?」

「え?」


梨理が言うには、進藤結子の居眠り運転だと言う。


「やだ~!自殺なんかしないよ~!」


それは、記憶を無くしているからなのか、本当に進藤結子の過失なのか、どちらかはわからなかった。


だけど………………


「瑠璃の気持ちに私が気がついて自殺?はぁ?マジであり得ないんだけど?」


梨理は意地の悪い顔をして笑った。私が昔から腹を立てたあの顔だ。進藤結子の顔なのに、何故かわかった。


「私が譲ると思う?何年姉妹やってると思ってんの?一度でも瑠璃に譲った事があった?」


そういえば……姉だからと言って、梨理に何一つ譲られた事は無かった。


「瑠璃にピンクは似合わない。水色がお似合い。」

「はぁ?いつの話!?」

「瑠璃には隆人がお似合いだよ。」


隆人?


「あれ?まだ知らないの?」

「知らないって……?知らないよ?」

「あ、いいの。告られてないならいいの。こっちの事。」


いや、それ完全に隆人に告られるってバラしてるから。


「あ、コーヒーのいい匂い。やっぱり瑠璃の入れるカフェオレが一番だよね~♪」


そう言って、進藤 結子…………梨理がカウンターへやってきた。


「あ、ドーナツ!ここのドーナツちょー好き~!食べていい?」

「別にいいけど?」

「いただきます!」


そう言って梨理はドーナツを食べ始めた。


私はちょうど入ったカフェオレを、梨理の前に置いた。


「サンキュー!このドーナツ、よく隆人がお土産に持って来てくれたよね~」


梨理はカフェオレを片手に、ドーナツをパクついていた。


「それ、隆人が持って来てくれたの。」

「じゃあ、まだここに来てるんだ!え?結構頻繁?もうした?」

「い、いや、まだ………………」


告られてないのに、したかどうか訊くフツー?


「まだ………………?ふーーーーーん。」


ドーナツを食べた後、その指を舐めながら、梨理が意味深な顔をした。何その反応!?


「ね、もう一個食べていい?」

「いいけど?」

「あ、でもまた太っちゃう………………ま、いっか!どうせユー子の体だし!痩せるのユー子だし!」


ユー子って結子?梨理は進藤 結子の事がわかってて、体を借りてるの?


「ねぇ、どうして進藤 結子の体を借りてるの?」

「うーんと、隼人が貸してくれなかったから!」


いや、だから、こっちが無理ならこっちって……理由が安易過ぎるよ!


「じゃあ、私の体も使える?」

「わかんない?やった事ないし。瑠璃、自力で幽体離脱できる?あ、ネタじゃないよ?リアルなやつ!」

「いや………………それはちょっと……。」


じゃ、無理じゃない?と笑っていた。


「幽体離脱できれば、私の体を使って生きられるの?」

「できるだろうけどやらないよ。」


梨理はキッパリとそう言った。


「どうして?生き残る術があるなら、生きたいとは思わないの?」


私がそう、言うと、梨理は小さな声で言った。


「私は瑠璃を殺したくない。」

「殺す……?」

「睡眠の時間を私が使う事になる。隼人を見てればわかる。確実に体力的に負担がかかる。」


負担ぐらい何て事ない。それで梨理が助かるなら…………


「それでもいいよ。」

「良くないよ!隆人はどうするの?」

「隆人?」


その時初めて、ずっと昔から隆人が、私の事を想っていた事を知った。


「隆人は色々努力してるよ?昔から瑠璃に一途だし。」

「昔から?」

「隆人の夢知らないよね?」


夢……?


「早く社会人になって、瑠璃と結婚する事。」

「はぁ?何それ!?信じられない!」


夢が結婚!?あり得ない!!


「それほど瑠璃が好きなんだよ?」

「だからって結婚が夢なんてくだらなくない?」

「そぉ?夢はどんな夢でもいいと思うけど?それに………………誰かの夢を叶えられるっていい事思うんだよね。私にはうらやましいよ。」


梨理は指をティッシュで拭いて、両手でカフェオレを飲み干した。


「私はお母さんの夢…………叶えられ無かったから

。」

「お母さんの夢?」

「お母さん、自分がウェディングドレス着られなかったから、娘のドレス姿見るのが夢だって言ってたの。」


知らなかった。だから、あんなに喜んでたんだ……。


「お母さんの夢は、瑠璃に託した!」

「いや、託されても困るから!!」

「隆人がさ~」


って無視かい!!


「早く社会人になりたいって言ってたから、大学は出なさいって言っておいた。隆人には瑠璃の為にちゃんと稼いでもらわないとね!」

「別に……私も働くし……」

「わかってる!瑠璃は意外と働き者だもんね~」


それでも、私は納得できなかった。だって………………


「じゃあ……残された吉高さんは?吉高さんはいいの?」


梨理は少し困った顔をして微笑んだ。


「良くは…………ないかな?」

「じゃあ……」

もう一度、私の体で…………と言おうとした。


その前に、梨理は私の方をしっかりと見て言った。


「だから、礼於とちゃんとお別れしたいの。」


私は、その顔に怖じ気づいたのか…………


「私、今また吉高さんと同じ会社なの。」

そう言ってしまった。


「ごめん、それ、どこ?私、最近の記憶が無くて……。」


私が場所を説明しようとすると、梨理に止められた。


「ちょっと待って?あそこ、あそこの近くに洋食屋さんあったよね?レトロなお店!あそこ美味しかったよね~!覚えてる?ほら、3人でランチに行った事あったでしょ?」


私は、梨理のその言葉を聞いて、涙が出た。


「ほら、死んでからお別れするなんて、なかなかできる事じゃないでしょ?」


だから、お別れするの?残された方は、お別れしたくなんかないのに?


「それにね、生きたくないって言ったら嘘になる。でも………………自分が自分でいられないなら、生きたいとは思わない。そんなの、死んでるのと同じだよ。」


死んでいるのと同じ…………?そんなの全然違うよ!生きていればやり直せる。吉高さんとだってやり直せるんだよ?


「だからね、瑠璃、瑠璃は瑠璃らしく生きるんだよ?この部屋はもう瑠璃の部屋なんだから、瑠璃の好きな色のカーテン、ラグ、布団カバー、好きに変えていいんだよ?」


私は………………私らしく?あまりにも意外な一言に、何故か涙が出た。


「瑠璃にピンクは似合わない。」

「梨理………………嫌……梨理がいなくなるなんて…………嫌だ………………」

「ごめんね、瑠璃。いつも、カフェオレ入れてくれてありがとう。」


何言ってんの?梨理に…………ありがとう。だなんて……。そんなの梨理らしくない。


「美味しかった。ごちそうさま。」


梨理らしくないってば……。


死んでからお別れが言えるなんて………………確かに、なかなかできる事じゃない。


こうして私は、梨理に別れを告げられた。


そして、私は『ひとりぼっちの惑星』から出る事に決めた。


ここは、もう二度と………………


梨理との『二人だけの惑星』になる事はないと、やっと理解できた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ