束縛
11
お、落ち着いて!落ち着いて!ね?
元カノさんは、肩に力が入り過ぎて、ボールがとことんポケットに嫌われた。
「だから、肩に力入りすぎだって。」
「だったら、私に譲ってください。」
「だから、譲るも何も私のじゃない。」
ダメだ全然話が通じない。
それでも、前半は集中力もあって、ゲームの流れ読みあって、なかなかの勝負をしていた。つもり。
女同士の読み合いというのは久しぶりだった。私的には、結構楽しかった。でも、時間が進むにつれて、元カノさんがイライラし始めた。
ふと、時計をみると、診察時間ギリギリの時間だった。
「あ、私そろそろ行かないと……」
「待ってください!」
元カノに袖を掴まれて、離してもらえない。えぇええええ!!嘘でしょ?
「私、こんな気持ちになったの初めてなんです。」
そう言って、元カノは泣き出した。
「うん、うん、だから、私、行くね。」
「だから、隆人を失いたくないんです。」
「うん、うん、そっか。じゃ、私行くね。」
どうしよう……今から急いでも、完全に予約時間過ぎる。でも、せめて午前中の診察に間に合えば……
そこに隆人がやってきた。
「隆人!」
「由奈、やっぱりここにいた……。」
なんだ。二人は待ち合わせしてたんだ。良かった。ちょうどいい。ここは、隆人に任せて私はここを出よう!
「あの、私、お邪魔みたいだから、帰るね。二人でごゆっくり~。」
「待ってよ。」
今度は隆人に引き止められた。
「だから、何なの!?私は関係ないってさっきから言ってるのに!」
「関係無くないよ。あのさ、俺、前から瑠璃の事が好きだって言ってるよね?」
はぁあああ?正気なの!?今この状況で言う!?元カノの前で言う!?何だかムカついた。
「あ~!はいはい、そう!いいよ!だったら付き合うよ!隆人と付き合えば、梨理は喜ぶかもしれないよね。」
「それって……俺が隼人の弟だから?」
こう言えば、隆人は離れてくれるはず。
「そりゃそうでしょ。だってさ、梨理が隼人と結婚できなかったし。梨理の無念を私が晴らす?みたいな?」
隆人には酷だけど、今の私にはこんな言葉しか出てこなかった。
私は酷い人間だ。
ごめん…………隆人。
すると、そこへ電話がかかってきた。画面をみると、吉高さんからだった。
「あ、ちょっと私、電話して来る。」
「待てよ!!」
外に出ようとすると、隆人に腕を掴まれて、その場から動けずにいた。その間、電話は鳴り続けた。
「え?でも、電話……」
「それでもいい。それでもいいから付き合ってよ。」
「はぁ?」
とうとう吉高さんの電話は切れてしまった。
「元々年が離れてるし、最初からOKしてもらえるとも思って無い。だけど……吉高の代わりでいい。それでもいい。」
それは………………意外だった。意外過ぎる言葉だった。
隆人がそこまで本気だったなんて……。
え?本気?嘘でしょ?
「隆人、ひどいよ……。私の目の前で……私がどれだけ隆人の事……最低!!」
そりゃ最低だわ。ある意味ギャグ?一周回ってギャグですか?
元カノは泣きながらビリヤード場を出て行った。
「瑠璃、巻き込んでごめん。」
隆人の反応に、何となく察した。隆人の告白は多分、元カノを諦めさせるためのパフォーマンスだったんじゃないかと思った。そんな風に感じた。
だからって、ここまでする事はないのに……。彼女が少し可哀想になった。
「彼女、可愛いのに……。本当にいいの?あんな風に振っちゃって……。」
その言葉に、何故か隆人がカチンときていた。
「いいって言ったからね?瑠璃は付き合うって言ったからね?誰が何と言おうと、俺達、付き合ってるんだからね?」
「え?」
何?何怒ってるの?
「だから、もう、吉高と会わないでよ?」
えぇ!?何子供みたいな事言ってるの?
「そんなの無理だよ。吉高さんとは同じ会社だし……」
「じゃあ、会社以外では会わないでよ。絶対だよ?わかった?」
何だか、隆人の顔が………………少し怖かった。
「でも電話…………」
「ダメ!!」
「はぁ?!」
隆人、そんなに束縛するタイプだったの!?そりゃ彼女も嫌になるよ……。いや、嫌になったのは隆人の方か……。
え!?一体どうゆう事!?
それからとうもの………………隆人の監視は続いて……
一緒にいる時は携帯まで取り上げられた。
正直、ここまでされるとストレスが溜まった。
「ねぇ、もういい加減にしてよ!!」
「瑠璃がいけないんだよ!!こそこそ吉高と連絡取ろうとするから!!」
「こそこそなんてしてないって!携帯返して!!明日仕事!!さっさと帰って!!」
そう言って、隆人を家から追い出した。
イライラする……。
隆人のせいで、休みに全然休めなかった……。
次の日、吉高さんに事の経緯を話して、電話に出られなかった事をお詫びした。
「そうか……。そうだったのか。いや、別に大した事じゃない。」
その、吉高さんの大した事じゃない事って何?逆に気になるんですけど……。
「瑠璃~!」
その高いテンションは……
私が吉高さんの所から戻ると、早坂さんがやってきた。
「瑠璃、合コンしよう!!」
「あの……いや……」
「え!?何!?やっぱり吉高さんと付き合ってるの!?」
いや、まぁ、そうなるよね。
「違うんですよ……。」
私は早坂さんとお昼にランチに出た。この前吉高さんと入った洋食屋さんに二人で入った。
それぞれ注文を済ませると、2歳年下の早坂さんに、まさかの恋の話を聞いてもらった。
早坂さんはオムライスのケチャップを口につけながら言った。
「なるほど~!彼氏の束縛が強くて合コン行けないのね~!」
「いや、彼氏というか、勢いと言うか、流れでそうなっただけで……。」
「そっかぁ~てっきり吉高とって思ってたのに」
正直、私もその可能性の方が高いと思ってました。
「彼氏、若いの?」
早坂さんが口を拭くのを見ながら、何故そう訊かれるのか不思議に思った。けど、冷静に考えると、7歳年下ってそこそこ年下。
現に7歳年下だと言うと、早坂さんは普通に驚いていた。
「7歳下と知り合える事ある?それって珍しいよね?何?ナンパ?」
「いえ、幼なじみです。弟みたいな人です。」
「弟~?そりゃ弟だね~!私の弟より下だもん。」
犯罪レベルで年下だとは一応自覚してます。私はサラダのクルトンをつつきながら早坂さんの話を聞いた。
「自分の5下って言うとさ、ちょうど就活とかで大変な時期じゃない?」
思わず、フォークを持つ手が止まった。
「そうなんですか?私、大学出てないのでそこらへんよくわからなくて……。」
「うちの弟が今年新社会人なんだけど、去年一昨年就活で大変そうだったよ~?」
私はまだ知らなかった。
隆人がこの7歳という年の差を、どれ程の苦労で埋めようと、苦しみもがいていたのか。
「でも、行き過ぎだと思ったらキッパリと別れた方がいいよ?」
「キッパリ…………。」
携帯取あげは実際やりすぎかなぁ……。
「そのうちDVとかになったりもするから」
隆人が暴力……?
「なんかあったら、すぐ!すぐ言って!」
早坂さん……。
全然、知ろうともしなかった。
隆人がどれ程の時間、私を想い悩み考えていたのか。
その時の私には、ただ子供みたいに、付き合ってるんだからね?彼女なんだからね?そう言っているだけにしか思えなかった。




