それぞれの休日 2
ここはユージュアルストリートの少し離れにあるスフィン武器店。立ち並ぶ様々な武器を手に取り、手入れをする一人の男がいた。
「よし、こいつの手入れはこれで大丈夫だな、さてと次は···」
「おい、アイル。お前今日ぐらい休んだらどうだ?」
と店の奥から声をかけるのはアイルの父、アル・スフィン。
「て言われても、やることないから武器の相手してる方が楽しいんだよ」
「あんたが手伝ってくれて助かるけど、いつか倒れやしないか私は心配だよ··」
カウンターからアイルの母、ノロン・スフィンが言う。
「大丈夫!武器屋の息子たるもの、どんな武器でも使いこなせるように体は鍛えてるし」
片方の手のひらを握り、力を入れるアイル。
「そうは言っても、あんた頼まれたことだいたい引き受けてしまうだろ?だから心配なんだよ。と、言ったそばからあんたにお客さんみたいだよ?」
そう言われ、アイルが店の出入り口のほうを見ると、そこには数人の男の子たちがいた。
「アイル兄ちゃん、今日は一緒に遊んだりできる?」
「ん?うーん、そうだなぁ···」
その時、店の奥から父、アルが出てきて
「行ってこい。お客は大事にしねぇとな」と言う。
それを見て、行ってらっしゃい、とでも言いそうな笑顔をみせる母、ノロン。
「よし、じゃあお昼までな!飯はちゃんと家に帰って食べるんだぞ?」
「うん!!じゃあ決まりだね!」
店を出て、男の子たちとの共に歩くアイル。
「よーし、今日はお前達を森の中で鍛えてやろう」
「えぇ〜、アイル兄ちゃん普段は優しいのに、そういう時は厳しくなるから嫌だ!」
「確かに厳しいかもしれんが、モンスターに襲われることがあるかもしれないだろ?生き残る確率をあげるために体を鍛えるんだぞ?」
「でも···」
それでも納得しない男の子達に、アイルは
「それに···」
「それに···?」
「強くなれば、女の子にモテモテだぞ?」
「やります!」
悪い顔で言ったにも関わらず、即答してきた男の子達を見て、アイルは少し吹き出しそうになっていた。
ーーーーーー3時間後ー···
みっちりと教えこまれて、クタクタになっていた男の子達を家まで送り、アイルはユージュアルストリートで買い物をしていた。
「うん、食材はこんなとこか。これでしばらくはもつな」
鍛えた腕で袋をいくつも持ち、店に帰るアイル。
ーー···
「お帰りアイル。もしかして食材買ってきてくれたの?」
「うん、今日の夕ご飯は俺が作るよ。母さんは休んでて」
「そうかい、ありがとね。本当にあんたは親孝行な息子だねぇ」
「好きなことしてるだけなんだけどね···」
と照れくさそうに笑うアイル。
「ご飯食べたらまた武器の手入れする」
そう言い残してアイルは店の奥へ行く。
その後、武器の手入れ、商品の入れ替え、お客への対応、武器の実演など、そんなこんなをしているうちに、今日の営業は終了した。
見かけに似合わず料理がうまいアイルは、その腕を存分に両親に振る舞い、疲れた体を癒すために風呂に入りながら、次に試す料理のイメージをした。最後に両親に「おやすみ」と言い、明日の仕事に備えて早く寝ることにした
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早朝5:30。朝から元気に走り回る犬耳少女の姿がそこにあった。
「えぇーっと、残りはあと5軒か」
手を地につけ、4足のような姿勢で走るルカ。
手が痛くないのかと突っ込みたいが、肉球を自分の意思で出せるようなので、痛くはないようだ。
10分ほどで役目を終え、友達のところへと戻るルカ。
「お疲れさま、カイン。こっちは終わったよ」
「ありがとおルカ!ほんとに助かったよ!相変わらず速いし!」
とルカの友達、カイン・ランスは言う。
カインは新聞屋で働いているのだが、今日は同じ配達区域の同僚が体調不良で来られなくなり、そこらを散歩していたルカに頼むことになったらしい。
「ちゃんとバイト代は払うからね!」
「いいよいいよ、散歩のついでだし」
「いやいや!!そういうのはちゃんとしないと!働いた分はもらわなきゃ!」
「そ、そう···?じゃあ、もらおうかな···」
カインの迫力に、そう答えざるを得なかったルカだった。
カインと別れ、とりあえず家に帰りついたルカ。
家のドアを開けると同時に、賑やかな声が聞こえてくる。
それもそのはず、この家にはルカの両親と兄弟、ルカを入れると7人住んでいるからだ。
ルカには兄が1人、妹2人、弟1人の兄弟がいた。
「おかえりルカ。今日は遅かったねぇ。何かあったの?」
「まさか!悪い男にでも捕まったんじゃ···!」
ルカの母、イル・アーティスと、父、ダン・アーティスは言う。
「ちがうちがう!カインの仕事の手伝いしてただけだよ」
「そうか?ならいいが···」
ダンは少し心配性な父親であった。
ひときわ騒がしい部屋へと入ると、
「お姉ちゃん、今日仕事はないんだよね?」
と次女のシルム・アーティスが聞いてきた
「うん、今日はおやすみ」
「じゃあじゃあ!今日は一緒に遊べる?」
「うん、一日中遊べるよ」
「やった!じゃあ今日はさ、私の絵のモデルになってよ!」
「え?モデル?」
「うん、走ってる姿勢のお姉ちゃんを描いてみたいって、前から思ってたんだ!」
「う、う〜ん、、モデルってじっとしてなきゃダメなんでしょ?あたしにできるかなぁ···」
「そんなに時間かけないようにするから!お願い!」
「まぁそれなら···」
「やった!ありがとお姉ちゃん!」
道具を持って近くの河原へと行くことにした2人。
そこでルカは、動きたくてウズウズする体を抑えながらモデルをすることになった。
ーーーーーーー4時間後ー···
「時間かけないようにするってのはいったい…」
「ご、ごめん…つい熱が入っちゃって···」
ようやく絵を描き終えたシルムは、ぐったりと寝そべるルカに謝っていた。
「うぐ、、このままでは終われない···!シルム!ご飯食べたら下の子達も連れてきて、みんなで遊ぶよ!」
「は、はい!」
一旦家に帰り、お昼ご飯を食べたルカは、下の子達を連れて、草原でこれでもかというくらい飛び回り、走り回った。
そして家に帰りつく頃にはすっかり日は暮れてしまっていた···。
夕ご飯を食べ、下の子達をお風呂に入れながら、ルカは
(この子達のためにも、頑張らないとね!)
と気合を入れ直していた。
ルカがナビゲーターになったのは、危険はあるが、自分の足が活かせそうで、ほかの仕事より給料が少し良かったからだ。
人数が多いために、決して裕福とは言えない家の支えになるという、ルカなりの決意がそこにあった。
お風呂を上がったルカは、ストレッチを行った後に、下の子達を寝かしつけながら優しい表情で「おやすみ」と一言。
あとで部屋に入ってきたイルは
仲良く並んで眠るルカたちを嬉しそうに見つめていた。