第一話 入学式
ピッピッピッ...
鳴り響く電子音。
一秒ごとに刻む音。
ピーーーー
音の均一が失われたとき、一斉に駒を打ち付ける音が鳴り響く。
大学一年生になった俺、銭本祐太朗は思う。
「なんで俺は大学将棋の団体戦に出ているのだろうか。」と。
学歴は平凡、容姿も平凡、わりに高校の先生は国公立に行かせたがるものだから、地方の国公立大学に俺は通うことになった。
けれど、それでいい。
大学なんて遊ぶ場所だ。バイトにサークル、旅行に飲み会。
そして下宿という、未知の世界。
今思うだけでも楽しみで仕方がない。
事前の下調べも万全だ。
大学のホームページやtwitterを観て、雰囲気の良さそうなサークルにいくつか目星もつけた。
入学式の前の勧誘もすさまじいものである。
「バレーサークルです。今ならなんと寿司食べ放題!」
「スキーサークルです。お花見してるから是非よっていってね!」
もはや競技と関係ないことでの勧誘をしている。
だが、それでいい。大学に入ってまでがちがちの運動部なんてしていられるか。
俺は目当ての「cafeサークル コーヒー」の勧誘を探していた。
週一でコーヒーを飲みながら雑談するサークルで、定期的に市内のカフェにも行く。
もちろん俺はコーヒー通というわけではないが、twitter の写真から観る女子率の高さ、そしてスペック。
これだけでこのサークルに入る価値があると言えよう。
こちら「cafeサークルです。新入生募集していまーす。」
勧誘が激しい開けた場所から離れたところで看板を持つ女性を俺は見かけた。
すぐさまそこへビラをもらいにいった。
とそのとき、
「あっ...」
同じスーツを着た新入生とビラをもらう手が触れ合ってしまった。
なんだか柔らかい手だなーと思って、見ると女の人だった。
「あ、すいません。」
すぐさま手を引っ込め、謝罪する。
「あ、いえ、私こそ...」
と女性は言い、顔をうずめる。
まだ化粧っ気の少ないいかにも大学生なりたての初々しさがある。
「2人ともコーヒーには興味ある?」
ビラ配りのお姉さんが尋ねる。「あ、はい。」と返事をすると、もう1人の女性とハモってしまった。
「あら、早々に息ぴったりね。ビラどうぞ。ぜひ入学式が終わったら見学に来てね。そこのサークル棟にいるから。」
と言って女性は手をひらひらさせながら去って行った。そして2人は取り残された。
「あ、名前なんて言うの。」
「あ、え、私?私は三枝美月。三本の枝に美しい月って書いて美月ね。あなたは。」
「俺は、銭本祐太朗。漢字はえーっと...うまく説明できないや。ま、まあよろしく。」
とっさに手を出してしまう。気づいて引っ込めようと思ったが今更恥ずかしい。
「よろしく。」
三枝さんは笑顔で俺の手を握ってくれた。
「じゃあ私は友達待たせているからまた後でね。」
そういって三枝さんは遠くへ行った。
「また後でね。」この言葉をかみしめて心の中でガッツポーズをしたのは言うまでもない。
入学式を終えると俺は早速カフェサークルへ向かった。
このビラによるとサークル棟の二階の208番の部屋だったな。
サークル棟へ入り、二階に続く階段を上ろうとしたとき、ふと声をかけられた。
「あなた、銭本祐太朗君よね。」
名前を呼ばれて振り返る。
ここは俺の地元じゃない。俺を知っている人がいるわけがない。
なのに、俺の名前を呼ぶ人がいた。
それは、とても美人な女の人だった。
俺が返事を言いよどんでいると、女の人は俺の所へ近づいて言った。
「あなたを歓迎するわ銭本祐太朗君。我が、津大学将棋部へ。」