プロローグ
僕は息を潜め、周囲を漂う神防力と神力を自然と同化させカモフラージュを創る。そして、体力を両手に移動させ、弓を限界まで引き絞り、目の前の緑の肌にゴツゴツした体で身長が約140cmある所謂ゴブリンの頭に狙いを定める。ゴブリン達は前に2体、後ろに1体の陣形で草を掻き分け、警戒しているのか、周りを見つつ、歩いているようだ。ゴブリン達が十分に近づいたところで、右前のゴブリンの頭に矢を放つ。次いで、左前のゴブリンに瞬く間に2射目を放つ。その後、放った矢を確認せず、宙返りして、後ろの枝に飛び乗り、最後のゴブリンに3射目と重なるように4射目を放つ。
前の2体は、僕に気づいた様子もなく、前頭部を矢が貫いているようだ。後ろの1体は、僕を見つけた訳ではないが、方向にあたりをつけたのか、1つ目の矢を持っていた錆びて所々が欠けている短刀で防ぐが、前の矢で隠れていた矢によって鼻先を貫いた。
ゴブリン達が動かないのを確認し、弓矢を下ろす。神法『ウィンド』を使って、周りに風を起こし、辺りを注意する。木から降りてベルトに下げてあるナイフを取りだし、ゴブリン達の腹を切り裂く。手についた感覚に嫌な顔をするが、腹から青黒い血を垂れ流すゴブリン達の鳩尾の辺りからごつごつとした輝石を取り出す。
全ての輝石を取り出し、頭から矢を引き抜いた後、神法『アクア』を使い、目の前に突如現れた水で血に濡れたナイフや輝石等を洗い流し、ナイフを仕舞って、輝石を腰に下げた袋に入れる。
今日はかなり運が良く輝石が多く集まった。その事に少し気分を良くして、シュタハ王国のアチムという街に帰る。
アチムは2つあるダンジョンから出る利益で栄えている、シュタハ王国の東に位置する大きな街だ。その為、冒険者が多く住んでおり、他の街より少し治安は悪いが魔物のスタンピードやドラゴン等が襲ってきても退治出来るだけの戦力がある安全な街でもある。
街の門の前に着くとガタイの良い門番が2人、門の両端にいて、右の門番から話しかけられる。
「身分証明書の提示をお願いします。」
「これで宜しいでしょうか。」
「......ありがとうございます。問題は無いようなのでお返しします。」
冒険者免許証を返してもらい、軽く会釈して門をくぐる。夕方なので、仕事帰りの人や夕食の材料を探しいるような人達で騒がしい大通りを抜けて、冒険者組合に向かう。
冒険者組合の建物の中は酒場のスペースもあり、喧騒に包まれている。静かなところが好きな僕は、その雰囲気を少し不快に思いつつも、買い取りをしている受付に並ぶ。
3人から5人ぐらいのパーティーで並ぶ人が多く、1人で並ぶ人など殆ど居らず、かなり気まずい。僕だってパーティを組みたかったが、僕の変なステータスが問題で組むことが容易ではなかった。
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名前:葉月? 性別:男?
種族:サル目ヒト科? lv:10/100 rp:1435
職業:狩人? lv:10/25 jp:1435
HP:78/78 MP:58/58
体防力:55 体力:68 神力:46 神防力:37
スキル: 弓術5 スキル習熟度倍加 sp:2358
称号: ????
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標準的なステータス
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名前:鈴木太郎 性別:男
種族:サル目ヒト科 lv:12/100
職業:狩人 lv:12/25
HP:75/75 MP:50/50
体防力:50 体力:70 神力:45 神防力:40
スキル:様々
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標準的なステータスと比べるとまず、?が付いてなく、後ろにrp、jpなども付いていない。そもそも職業や種族等は普通では変えることが出来ない。スキルに関しては身体にあうものが先天的につくか、スキルに身体が合ったら後天的に付くわけで、スキルを身につけるために身体を鍛えることは出来るが、ポイントで意図的に取ることなどどの文献にも記載されたいない。実際にポイントでスキル習熟度倍加を獲得した時は、身体の内側がぶちぶち引きちぎられては押し込められ、ハンバーグを子供が作るときに遊ばれるミンチになったようだった。奇しくも、その痛みには慣れていたようであまり苦痛は感じない自分に少し恐怖心を抱いた記憶がある。まだ、職業や種族を変えた事はないがスキルより酷い目に合うのは明らかで使うのは躊躇われるが目的の為には早めに慣らしとかないといけないだろう。
「お客様!」
「あっ、すみません。」
かなり塾考していたようですでに自分の番が来ていたようだ。そう思い、謝罪して軽く頭を下げてから相手を見る。彼女は、童顔でそばかすが付いている笑みが眩しい綺麗な女性だ。そして、相手に見せつけんばかりの胸は西瓜のように大きく、柔らかいのかカウンター手前の机に深く沈み込んで形を歪めている。強調するために机の上に乗せているのだろうか。いや、でも胸を机に乗せる事で肩に負担を掛けないようにしているだけなのかもしれない。顔は純粋な瞳で少し首を傾げていて、とても強調させたくてしているようには全く見えない。いや、これは全て彼女の計算された演技なのではないだろうか......。
延々と続く思考を止めて、深呼吸をすると、袋から輝石を取り出しカウンターに置く。
「ゴブリンの輝石が12個で27,000ペリ、ホーンワームの輝石が5個で22,500ペリ、合計49,500ペリになります。」
「あ、レシートは大丈夫です。」
「ありがとうございました。」
どうやら、パーティーメンバーから頼まれていると思われたようだ。でも、彼女の容姿から見て頼む男性はおそらくいないだろう。女性だとわからないがパーティーメンバーが一人以外全員が女性等有り得ないし、もしそんなハーレムパーティーだったらきっとその男性は女性にだらしがなく、パーティーメンバーが放って置けないだろう。
僕は自分では確実に有り得ないハーレムパーティーのことを考えてしまい、気分が落ち込んだが、お金があるものを買える金額に達したことが分かり、気分が急上昇する。こうも気分が上下するのは男の性なのだろうか。
因みに彼は気付いていないが、過去に壮絶な体験をしたのか、真っ白な髪と真っ白でハイライトのない瞳をしており、気分が上下してしまうのも、取り繕って、形からでも心を動かそうとしているためだろう。
僕は気分が高揚しているせいか食い気味で金を取り扱う受付に行き、受付嬢に若干引かれつつも、預けていたお金を全額引き出して、冒険者組合を出て、駆け足で奴隷商会へ向かった。
完全に余談なのだが、受付嬢が引いたのは、白眼白髪で肌の色も真っ白な深刻な病気を患っているような風貌の男が食い気味でこちらにやってきたら引いてしまうのも当然至極のことだろう。
奴隷商会に来た。駆け足だった為、あれた息を整えて、中に入る。外観は一見した感じ道具屋といった感じに思えて、中も清掃が行き届いているのかかなり綺麗でシンプルな部屋だった。前に見える受付の男性に話しかける。
「葉月なのですが、店長を呼んでいただけますか。」
「葉月様ですね。かしこまりました。少々お待ちください。」
彼が奥に向かったので、近くのソファに座るがそわそわ忙しなく動いてしまう。やっと彼女が手に入るのだ。かなりの費用が掛かるがそれでも、これからのことを考えると非常に有益な出費と言えるのではないだろうか。
程よく筋肉がついた恰幅の良い男性、前に来た時にご紹介を受けた店長のセナムさんだ。そして、その後ろ隣にここに来た目的の彼女が首に付いた首輪に繋がっている店長が持っている鎖で引っ張られつつ歩いている。
彼女は沈んだようにどんよりとした黒い瞳に薄暗く光る髪に影に溶け込みそうな黒い肌でまさに闇を体現したような容姿だった。勿論、僕は僕の目的のために最善で最短であろう方法、その為に奴隷の彼女を買うのだが、もし彼女が最善で無くても買った恐れがあるほど彼女に見惚れていた。見惚れている僕が言う事ではないが、彼女は余り万人に好かれる容姿では無いと思う。それでも僕は彼女以外では満足出来ないほど、好きになってしまった。まぁ、目的の為ならば満足しなくても全く問題はなく、彼女にどれほど嫌われようとも大丈夫だろう。すごく傷つくだろうが......。
セナムさんと予め決めていた契約を結び、12,000,000ペリ払い、セナムさんは、神法『コントラクト』の使い手の男性を呼び、彼女の背中の奴隷紋と僕は契約する。僕はなんともなかったが、彼女は苦痛で少し顔を歪め、吐血する。セナムさんを見ると驚いた表情をしている。
「もしかして、何か特殊なスキルをお持ちですか。例えば倍加スキルなどを...」
「特殊なスキルなら多分持っていると思いますがそれがこの症状と関係が?」
「さっき話したスキルをお持ちなら、1.5倍加を奴隷が無理矢理習得し、その時におこる症状です。貴方様の奴隷になりましたのでステータスを見れるはずですよ。それより、特殊なスキルをお持ちとは思いませんでしたよ。これからもこのセナム商会をどうぞご贔屓に。」
「あ、あぁ。」
いきなりの情報に戸惑いを隠せず、生返事をしてしまい、セナムさんから鎖をもらい、そそくさと商会から出る。まさかこんな事例があるとは思わなかった。セナムさんも驚いていたと言うことはかなり珍しいようだ。それもそうだろう、スキル習熟度倍加はsp3000と引き換えに習得したものだ。sp3000は通常のスキルに換算すると剣術1でsp100、剣術2でsp200追加で必要になり、つまりsp3000は剣術7と余ったsp200となる。通常のスキルは1〜3が初心者、4〜5が中級者、6〜7が上級者、8〜10が人外と言われている。そして倍加スキルは先天的スキルで生まれる時から持っている、生まれる時から上級に該当する類い稀なスキルを持っている奴が奴隷の契約した時におこる超レアケースだ。図書館で探したところで本当か嘘か分からないような古い伝承にしか書かれていないだろう。人族では勇者が種族修練度倍加スキルを持っていたようだ。因みにその勇者は剣術が10に達して剣術が剣神に変わったようだ。つまり10になると、スキルの名称が変わるようで、その時に違う効果が加わったのではないかと推測する。
そんなレアスキルを安易に晒してしまったことに、少し後悔するがそれよりまず、彼女をどうにかする為に人気のない路地裏へ連れ込む。
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名前:無 性別:女
種族:サル目ヒト科 lv:13/100
職業:巫女 lv:13/25
HP:21/45 MP:18/50
体防力:34 体力:41 神力:72 神防力:68
スキル:闇神法3 杖術2 読心術5 スキル習熟度1.5倍加 sp:0
称号:腐触の呪い6 炎症の呪い5 汚毒の呪い2 呪いの巫女
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……どうやらスキル習熟度1.5倍加だけでなく、spも手に入れたようだ。そういえば、彼女が落ち着いた後、少し目を見開いていたが、あれはspのことだったのか。とりあえずそのことは後にしよう。今は呪いだ。
称号とは、その人の特殊な体質を表したものとされる、そしてスキルもだがステータスにある、解らないものに対しては説明が観れる。例えば腐触の呪い6だと、
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腐触の呪い6
触れた有機物を腐らせる。1時間、触れた生物はどろどろに腐り果て、死に至る。自身も徐々に腐り果て、1ヶ月を過ぎると同じく腐り果て、死に至る。
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これは、6の場合であり、8ぐらいなると呪いを受けた人は死なず、周囲10mの万物を腐らせてしまい、本当に腐触の呪いという名称で良いのか分からなくなる。そして僕が彼女を見た時から既に1ヶ月を過ぎているが彼女が死んでいないのは呪いの巫女が原因だろう。
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呪いの巫女
周囲の呪いを取り込むことが出来る。呪いの効果では死なず、自身への呪いの効果を弱めるが、その分だけの苦痛が齎される。
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呪いでは死なず、その分だけ苦痛が齎されるって、いっそ、そのまま死んだほうがいいんじゃないのかと思うような能力だな。
まぁ、考えるのもそのくらいにしよう、引っ張って来た彼女に直接見られているわけじゃないが、何か内側を見られている気分だ。読心術の能力だろうか。自分の思考を何処まで読まれているか不安になるも、sp2100を使い、聖神法6を習得する。聖神法は光神法4からの派生だが、スキルを自由に取れる僕は、直接とることができる。その分、苦痛もひとしおなのだが。
激しく内側をこねられブチブチと幻聴が聞こえるも、徐々に治っていく。どうやら、聖神法6が取れたようだ。だが習得した事で彼女を治せる神法に必要なmpが足りないことが分かったので、今度は職業を変えることにする。選ぶのはjp1000で取れる治癒士にする。これが初級職業の中で一番mpが上がる職業みたいだ。因みに職業に関しては派生職業は手順を踏まないと獲られないみたいだ。まぁ、獲ることが出来ても、jpが足りないと思うが…。
考えるのもこれくらいにして、気合いを入れて、治癒士を選ぶ。職業だからスキルよりも激しいかと思いきや同じくらいの痛みだったこれは、ポイントの分だけ苦痛が伴うと思っていいのだろうか。いや、種族を弄るとかなり危険な気がするので安易にそう考えて、痛い目に合わないように気を引き締めよう。
治癒士を選んだことで狩人が副業になった。時々、2つの職業を持って生まれる子もいるらしいから、これは予測済みだ。副業の方は大体0.2倍の能力しか発揮できず、職業を入れ替えることが出来る方が大きなメリットだ。ただ、4つの職業を持っていた人がいたらしく、3つの職業が副業になっていたことを考えると、主職業以外は全て副業になるのではないかと思う。つまり、僕にとってはたった0.2倍の能力でも大きな力になる可能性が高く、その事に興奮を隠せず、少し体が震えてしまう。
思考を止め、うすく深呼吸して、ステータスを確認する。
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名前:葉月? 性別:男?
種族:サル目ヒト科? lv:10/100 rp:1435
主職業:治癒士? lv:1/25 副業:狩人? lv10/25 jp:435
HP:34/34 MP:57/57
体防力:26 体力:33 神力:42 神防力:38
スキル: 弓術5 スキル習熟度倍加 sp:2358
称号: ????
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レベルが1のため全体的に低いがそれでもmpは前に近い。レベルを1つ上げるごとに必要ポイントが25づつ上がるため、レベルが6までしか上がらないがそれでも十分だろうと思い、治癒士をレベル6まであげ、ステータスを再度確認する。
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名前:葉月? 性別:男?
種族:サル目ヒト科? lv:10/100 rp:1435
主職業:治癒士? lv:6/25 副業:狩人? lv10/25 jp:60
HP:62/62 MP:124/124
体防力:41 体力:57 神力:75 神防力:70
スキル: 弓術5 スキル習熟度倍加 sp:2358
称号: ????
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必要mpが100程度いるため、ギリギリだが問題ないだろう。心配なのはjpだ。必要な場面に遭遇した時の為にとっておきたかったが仕方がないだろう。2人で戦えば今までより効率が良くなるはずだ。
mpが5分の1を下回るとかなり気分悪くなり、そして、mpを100も使う神法なので集中して神力を練る。神法『ブレシング』を使うと彼女に白い靄がかかり、黒く滲んだ後、消えていく。彼女は僕が呪いを解くとは思わなかったようで驚いた表情でこちらを見る。でも、僕が何をする為に路地裏に来たと思ったのか聞きたいが聞いても当たり障りのない回答しか言わないだろうと思い、彼女のステータスを見る。
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名前:無 性別:女
種族:サル目ヒト科 lv:13/100
職業:巫女 lv:13/25
HP:26/45 MP:24/50
体防力:34 体力:41 神力:72 神防力:68
スキル: 闇神法3 杖術2 読心術5 スキル習熟度1.5倍加 sp:0
称号: 癒しの手4 炎の御加護3 浄化のオーラ2 呪いの巫女
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ちゃんと治っているようだ。称号が変わっているのは呪いに打ち勝った為だろう。他の人がサポートした為レベルは下がっているがこれが本来の呪いの巫女の本領なのでは無いだろうか。そう言えば、彼女の名前が無になっている。名前を消すこともスキルで出来たはずで、主人が新しい名前をつける為だろうが、前の名前がいいのならそれでも別に構わないが彼女はどう思っているのだろうか。
「お前の名前が無いんだが、付けたい名前はあるか?」
「……ないです。」
彼女が読心術を使ったようだが心を鎮めていたので、これは彼女の本心と思っていいだろう。となると、彼女の名前なんだが別につけたい名前などない。強いて言えば、僕が名前をつけたいが、それ以外は興味がない。僕が名前をつけたい理由はただ単純に彼女を支配しているようだからだ。それ以上の理由はない。これが独占欲というものなのだろうか。ん〜、彼女の様子を見るに自分の名前がどうでも良いように見えるし、このまま考えても埒が明かない為、適当に思いついた名前にする。嫌になったら、金払って名前を変えればいいし。
「お前の名前は、クサハだ。それで良いか?」
「……はい。」
いい加減、人の心を読んでから言うのはやめてほしい。読まれているのは何故か興奮するが、反応が遅いのはやりとりがしづらいからな。
日も落ちて薄暗くなってきたので、泊まっている宿屋に向かう。僕が泊まっている宿屋は中の上の少し高いお店で、セキュリティなどかしっかりしていて、それぞれの部屋にシャワーがある。と言っても冷たい水しか出ないが、僕はスキルは無いが神法『プラーミャ』が使えるので、それで温めればspも獲得できて、全く問題ないので、ここ最近はずっと利用している。
宿屋まで着いた。クサハが奴隷商会からそのまま連れてきたので小汚く、受付の人が少ししかめっ面になる。
「ツインの部屋は空いてますか?」
「空いてますよ。2名朝食、夕飯付きで8,000ペリになります。」
「はい、どうぞ。」
「ありがとうございます。こちら202号室の鍵になります。夕飯はどうなされますか?」
「部屋まで持ってきて頂けるとありがたいです。」
「かしこまりました。今から1時間半程お待ち頂ければ出来上がりを持っていきますので、宜しいでしょうか。」
「分かりました。」
もらった鍵を使い、すぐさま部屋に入る。確かにクサハの臭いが気になるので、シャワールームで体を洗わせる。服に関しては、ボロボロの布切れのようなものをもう一回着てもらうしかないが、神法『バブル』も使えるので汚れはある程度取れるだろう。
シャワールームにクサハが入ったのを見計らって脱衣所にあるボロ布に神法『バブル』を使う。ボロ布は泡立ち、泡が汚れを吸い取って消えていき、相変わらずボロボロだが、汚れは落ちた。明日は服を買いに行きたいが、金を確認すると、30,000ペリしかなく、大変心許ない、服を買ってしまうと、明日の宿屋に泊まれなくなるので昼から魔物狩りとハードスケジュールだな。明日のことを思いぐったりしつつ、シャワールームからクサハが出るのを待つ。
脱衣所から音がしてそちらに目を向けると、ちょうど上がったクサハが居た。より一層美しく、目を奪われそうになるが、心を鎮め、シャワールームに入り汗を流す。少しクサハの匂いが残っており、ついつい嗅いでしまう自分を戒め、さっと体を洗い。寝巻きに着替えて、寛ぐ。
ドアをノックされ、開けると夕飯を持ってきた宿屋の従業員が居て、夕飯を机の上に置くと、
「ゆっくりお召し上がりください。」
と言って、従業員の方は帰っていった。今日はシュタボアのシチューのようだ。シュタボアは、歯ごたえがあり噛めば噛むほど味が出て、すごくおいしい。ご飯に感謝を捧げて、食べ始めるが、クサハが食べようとせずに立ったままだ。奴隷は基本的に食べ残りを食べるのが普通だが、それでは体力がもたないだろうし、それでミスをされても困るので、命令し、無理やり食べさせる。クサハは抵抗しているのか、ゆっくり食べていて、時間がかかる。でも、食べている姿を見るのも心が癒されるので苦痛はない。ただ、見ていると思われたくないので、別のことをして、視界の端にクサハをおさめる。
クサハが食べ終わったので、食器を下に持っていき、ベッドに倒れこむ。明日は早いので、クサハに寝るように言うが、何故かこっちのベッドに入り込む。
「お前のベッドはこっちじゃない。あっちだ。」
「......お金ない、......シングル安い。」
「…分かったが、今日はあっちで寝ろ。」
どうやら、お金がないのがバレたらしい。そっちの方が僕的には良いが、クサハはそれで良いのだろうか。本当に心を読んでいるなら本心を言って欲しいという僕の心が伝わっていれば良いが、もしも、これがストレスになって、奴隷紋を解除出来る人物に助けを求め、復讐されてはかなわないからな。出来るだけ、高待遇にして、裏切られないようにしないと、それとも、高位奴隷紋にするべきなのだろうか。それなら、解除出来る人物などほぼいなくなるだろう。でも、凄い高いしなぁ……。考えがまとまらないまま、僕は眠りに落ちた。