第60話 『愛の天使』前の攻防戦
「よしなって。そういうのは無駄だって」
「そんなことないわ。今、一番必要なのよ」
無駄かどうかなんて、どうでもいい。
今は何も考えたくないだけ。
「だって、借金するんだぞ。返せなかったら大変じゃないか」
「装備だってそうでしょ。お金を借りて装備を強化して高額な依頼にチャレンジしたりするじゃない?」
お金で心が軽くなるなら、それもありだろ。
とにかく今は、天使が必要なんだ。
「金貨1000枚なんてありえないだろ」
「もしかして、あんた。自分が苦しんでいる彼の手伝えなかったから、私の手伝いを邪魔したいの?」
「ふざけるな。手伝えなかったんじゃないぞ。手伝わなかっただけだ」
B級冒険者リーダーとC級女剣士。
『愛の天使』と書いてある看板の前で言い争っている。
それを、口を挟まず聞いている私。
「とにかく。本人がいいと言っているんだから、入りましょう」
「わかった。ここよりももっといい所を知っている。一晩だけの関係でいいだろ」
「・・・魔物はお断りだ」
つい口を出してしまった。
『愛の天使』にすがりたくなった理由のひとつが色街の魔物だ。
また、そんな所に連れていかれるだけは、ごめんだ。
「魔物って。ちゃんとかわいい娘だっているんだぞ」
「もう、いい。入るぞ」
ふたりの冒険者と私、そしてもうひとり。
オババを連れて、『愛の天使』に入る。
この店は、愛玩用の奴隷を扱っているお店。
普通の労働だけの奴隷は一切扱っていない。
オーナーの目に止まった奴隷だけが「天使」として提供される。
「いらっしゃいませ、お待ちしていました」
「新しい天使を紹介してもらいにきました」
ダンディな店員さんが対応する。
ミモザを下取りに出した時も彼が対応してくれた。
すでにミモザはお店に返していて、9割のお金は返金されている。
もっとも、そのお金に多少プラスして、決闘の賞金にしてしまったから、私の手元にはもうない。
「今回はどんな天使がいいですか?」
「条件はない。私に一番合う天使を紹介してくれ」
「予算はいかほどでしょう」
「金貨1000枚までなら出すぞ」
「それはまた。ほとんどの天使が対象ということですね」
「おうよ」
そんなやりとりを女剣士の横にはいるオババがうなずきながら見ている。
女剣士もうなずいている。
お店に入ってまで口を出すのは違うとリーダーは苦虫を噛み潰したような顔をしている。
「それでは、今のあなたに最高の天使を紹介しましょう」
「よろしく頼む」
ダンディ店員さんが奥のドアに消える。
「どんな奴隷が出てくると思う?」
「奴隷じゃないでしょ。天使って呼ぶのよ」
そんなふたりの会話を聞いていて、初めてミモザに会った時のことを思い出していた。
あの扉から出てきたとき、私は一目で気に入ってしまった。
その後、バラ色の毎日だったなぁ・・・でも。
「おい、おまえ。また、暗い表情になっておるぞ。今は未来だけをみるのじゃ」
このオババは、どうも心を読めるような気がする。
そうだな。私はここに、新しい天使と出会うために来たんだ。
過去を振り返ってもいいことはない。
「お連れしました。天使のミントさんです」
扉から現れたのは、少女。
腰までの長さの光り輝く金色の髪。
透き通るような白い肌。
そして、大きな瞳が印象的だ。
誰が見ても美少女と言うだろう。
実際、リーダーは声をうしなって、ただ見とれている。
オババと女剣士さえも魅了されている。
私はというと・・・一気に元気になった。
今日は普通のペースでの更新です。5話アップです。
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