第56話 二股女が行きつく先
今、ひとりの男を待っている。
一緒にいるのは立ち合いを頼んだ狼娘だけ。
「なぜ、決闘なんてするの?」
「けじめかな」
左手には金貨200枚を入れた袋を持っている。
右手にはセラミックで作った長剣を2本。
「まあいい。我がこの決闘、見届けてやろう」
「来たようだな」
まだ家が建っていない整備されたばかりの土地にふたりは立っている。
元スラム街の土地だ。
そして、待っている男も元スラム街の住人で今は、団地に住んでいる。
「あの。。。どういったご用件でしょうか」
20歳くらいの男。
がっしりした体型で、筋肉がしっかりとついている。
肉体を使った仕事をしていることが分かる。
「気がついているのだろう。ミモザの話だ」
「・・・そうですか」
前にミモザとふたりで話ていた男。
探偵に調べさせたところ、この男の身元が分かった。
この街に来たのが15歳の時。
その前にいたのは、とある村。
その年、村が主に作っている作物に大規模な害虫被害が出てしまった。
毎年納める税金が納められない。
村が選んだ道は、娘を売ることだった。
村で美人になると言われていた娘。
その娘を売ることで村全体を助けることができる。
娘の両親も納得した決定だった。
だけど、ひとりだけ納得していない男がいた。
幼馴染でふたりの間だけのことだけど、婚約もしていた。
「人の女奴隷に手を出すとはいい度胸しているな」
「手を出すなんて・・・ただ、話がしたかっただけです」
この街でふたりは5年間暮らしていた。
女は、天使と呼ばれる愛玩用の奴隷として。
男は、スラム街で最低の生活をして。
だけど、住む世界が違いすぎて会うことはなかった。
私がスラム街だったここに家を建てて住むまでは。
「奴隷というのは、自由がないことは知っているな」
「もちろん知っています」
「主人の不興を買った奴隷がどうなるか、知っている?」
「・・・わかりません」
手に持った袋を開き、中に入っている金貨を下にこぼす。
「なっ」
「返品してきたよ、不良品とクレームを入れて」
「ええっ。なぜ、そんなことを」
「おまえのせいさ」
無言の時間が過ぎていく。
何が起きたのか、分かったらしい。
「返品された奴隷の女がどうなるか、分かるか?」
「どうなるんでしょうか?」
「まぁ、愛玩用として失格の烙印を押されるな。もっと過酷な役割の奴隷にされてしまうだろう」
目を落とす男。
自分がやったことにやっと気づいたらしい。
「まぁ、あいつのことは、もういい」
「そんな」
「あとは、お前の落とし前をつけるだけだ」
「どうしたら、いいんですか?」
「決まっているだろう、決闘だ」
今日の9話目。あと1話を残すのみです。
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