第5話 幼女と狼さん
「それでその男はどこにいるのだ?」
「はい。大鷹の森のほとりに住んでいます」
たった一日で百人隊の二週間分の土木作業を完了した魔法使い。
なんとしても、我が軍団の専属になってほしい。
軍団長の指示をうけ千人隊長がやってきた。
「ほら、あそこの石の家に・・・えっ?」
指さした方向を千人隊長と一緒に見るが何もない。
「おいおい。勘違いしているだろう。もう一回よく考えてみろ」
「そんなはずは。あの大木の前に立派な石造りの家があったんですが」
そこにあるのは広場。
草は生えていないが家などないし、家があった形跡もない。
「どこ行ってしまったんでしょうか」
百人隊長は頭を抱えてしまった。
その頃、土魔法使いは山の麓にいた。
昨日、泊まった森の近くの家を土魔法で消去して、今日は山に来ている。
この山は水晶をはじめいろいろな貴石があると聞いたからだ。
「どれどれ。どのあたりにあるかな」
地面に手を当てると心の中で魔法を唱える。
《地中探索:貴石》
貴石が多くある方向と距離が表示される。
そのうちの一番近い地点に目的地をセットする。
《移動ナビ》
この魔法をかけておけば、あとは行く方向を→で示してくれる。
迷うことがなくなるから便利だ。
ナビの→にしたがって山を登っていく。
すると、前方で声がする。
「いやっ。来ないでっ」
小さな女の子の声。
必死な感じがする。
急いで声の方に行ってみると、7歳くらいの女の子が岩狼と向き合っている。
岩狼は山に住む狼で魔物ではなく野獣だ。
冒険者なら初級でなければ対応できる相手。
だけど7歳の女の子では無理だ。
「とりあえずは、と」
《地拘束》
土魔法を唱えると岩狼の足が地面から伸びてきた土に覆われる。
同時に土は硬化して岩狼の動きを制する。
「おーい。大丈夫か」
「あーん」
人が来て助けてくれたから安心して、泣きじゃくっている。
しばらく待って声をかける。
「もう、大丈夫だよ。ケガはない」
「ひっく。ありがとう。助けてくれて」
「おう。なんでこんなところにひとりで来たんだ?」
「おばあちゃんが病気になってしまって」
おばあちゃんの病気に効く薬草が山の中腹に生えているときいて採取に来たという。
「危ないな。大人の人はいないの?」
「おばあちゃんとふたりで住んでいるの」
そうか。それは大変だな。
ちょっと手助けしてあげよう。
《地表探索:薬草》
近くに生えている薬草をリストアップした。
おばあちゃんの病気に効く薬草に限定して場所を探る。
「意外と近いところにあるじゃないか」
「えっ、何?」
「お嬢ちゃんの探している薬草はこっちに100mくらいにあるよ」
「本当?」
一緒に行ってちょっと多めに採取する。
「ばいばい。おじちゃん」
「ああ。気をつけて帰るんだぞ」
子供ひとりで大丈夫かちょっと心配だが、魔物よけの石鈴を渡しておいたから、また野獣に襲われることもないだろう。
ちょっと寄り道したけど、目的地に向かって歩いていこう。