第311話 貴族さんがダンジョン街に遊びにきた
「どうして、我が町の人口が減っているのだ?」
「それが……噂のダンジョン街へ引っ越す家族が増えていて」
「はぁ? できたての街など行っても飯が食えないだろう。それならばすぐに帰ってくるな」
「それが。。。あの街は儲かるって噂です」
「ば、ばかな! もしかして。その街の領主がやり手ってことなのか。爵位も高い人が領主なのか」
「いえ。領主は平民だと。すご腕の土魔法使いだそうです」
「へ、平民だと!」
我が領は町と名前はついているが実際は農村に毛が生えた程度だ。
大した税金があがる訳でもないのに、面倒なことはいろいろ起きやがる。
税金を少し上げただけで、逃げる奴もいて税金が増えやしない。
貴族というのは他の貴族との付き合いや見栄をはらねればならないことも多くある。
いくら金があっても足りやしない。
「平民の癖して、儲かっている街の領主た? ふざけるな」
「そうです、そうです。その上、税金がないどころか建物の賃料が無料だと言うんです」
「はぁ? 税金がない? 賃料もない? バカかその平民領主は」
「そうです、そうです」
「きっと平民だから領民になめられているのだろう。よし、これは私が手伝ってやるのがいいだろう」
「そうです。領主経験が豊富な男爵様が手伝えばきっといい街になります」
「だな。そうしておいて実権を握って。平民領主はお飾りにしておけばいい。どうだ、いいアイデアだろう」
「素晴らしいです」
☆ ☆ ☆
「男爵様をご案内しました」
「おはいりください」
出来立ての僕の街に貴族様がやってきた。
歩いて1日ほどの農業中心の町の領主らしい。
領主同士でお隣さんって感じの方ですね。
貴族なので、ちゃんと対応しないとマズいよね。
「おー、なかなかの邸宅ではないか」
「はい。貴族の方も使ってもらえるクオリティーで作っています」
石造2階建ての邸宅で真っ白な石で作った邸宅。
『白亜の邸宅』って呼ばれているみたいだ。
貴族さんが遊びに来たときに使ってもらおうと思って造った。
邸宅の前には花壇の多い庭園があって、プールにもなる池があり、真ん中には噴水があり、こんこんと水が湧きだしている。
「よし、この邸宅はワシが使うことにするぞ。ありがたく思え」
「えっと、何日間ほど滞在しますか?」
「滞在? なんを言っておる。この邸宅はワシの物になった。今な」
「はい?」
なにをこの人は言っているのだろう。
勝手に決めてもらっては困る。
「それだけではないぞ。街を治めるのに苦労しておるようだから、ワシが代わりにやってやろうというのだ。ありがたく思え」
「どういうことでしょう」
「お前みたいな平民に、この街を治められるはずがなかろう。男爵の名において、ワシをこの街の領主にすることに決めた。平民はおとなしく従えばいいのだ?」
どうもこの男爵さん。
頭が壊れているようだ。
まぁ、ちょっと接待してお帰りいただくことにしよう。