第270話 急行馬列車が走る
「うまいぞ! 我はこの焼き魚が好きだ」
「こっちのエビの辛ソース和えもうまいですよ」
「おぉっ、本当だ」
オーナーシェフの古くからの知り合いだという漁師が用意してくれた魚介類。
その新鮮魚介を使って、オーナーシェフ特製の魚料理づくしを作ってくれた。
「この味を街の人たちに味わってもらいたいんです」
「それはいいことだぞ。我も食べに行くぞ」
白狼娘もオーナーシェフの魚料理のファンになったらしい。
もちろん、僕もだが。
「しかし、料理を作っている間に急行馬列車を造ってしまうとは。びっくりしました」
貨車の造り方はセラミック板に記録してあるから簡単に作れる。
今回の貨車は先頭車両が風除けをつけた形にしてある。
通常の馬列車はせいぜい時速10kmだけど、この急行馬列車は時速30kmまで出すことを想定している。
全部で3両造って、積載量は全部で15t。
貨車の高さは通常の半分にしてあるから、積載量は半分だ。
「この急行馬列車を使えば、朝、この漁村を出て午後3時には街に着くはずです」
「素晴らしい!」
「明日一日かけて、街道までレールを引くから明後日には、テスト走行ができますよ」
「最初の急行馬列車は我が操るぞ」
「頼めますか。よろしくお願いします」
実はひとつ、問題があるのだが。
今、どんなスケジュールで馬列車が運行されているのか知らないのだ。
そのあたりはすべて馬車道商会任せにしている。
この件はまだ馬車道商会に話していないし。
勝手なことしたから、怒られてしまうかも。
「明後日が楽しみですな」
「はい」
翌日の夕方。
「出来ました!」
「素晴らしい。こんなに早く漁村につながるなんて」
オーナーシェフは喜んでくれた。
「なんとな! ここまで馬車道が繋がるとは思いもせんかった」
漁村の長老さんも見学に来ていた。
他にも30人ほどの村人が来ている。
老若男女、いろんな人がいる。
大人の男はみながっしりした浅黒い身体をしている。
いかにも、漁師ぽい。
「これで、街まで魚が届けられるんです。 みなさん。魚一杯獲ってください」
「「「「おおーーっ」」」」
オーナーシェフの言葉に漁師達が応える。
なんか、いいね。
「いままでは干物くらいしか、街に届けられなかったから商人もそれほど来なくてな。これからはこの漁村も発展するはずじゃ」
「そうなるといいですね」
村長さんも嬉しそうだ。
さて、明日はテスト走行で早朝出発する予定だ。
オーナーシェフの魚料理を食べて今日は早めに寝てしまいましょう。
翌朝。
漁師達が獲ってきた魚やエビ、たこといった海産物を満載して急行馬列車は走り出した。
「おおっ、速いですな」
「これだけ積んで、この速度が出れば合格です」
だいたい時速25kmくらいか。
これなら、予定通りに午後3時に街につけるな。
「ハイヨー」
白狼娘は片方の馬に乗り、声だけで二頭の馬を操っている。
上手いものだ。
私とオーナーシェフは先頭車両の風除けの後ろに椅子を置いて座っている。
前が見えないとつまらないから、目線の高さの部分はガラスになっている。
「楽しいですな。速い馬車というものも」
「ええ。自分で馬に乗るのとは違って感じですよね」
もっとも、私はひとりでは乗れないが。
そんな話をしていたら、10時には街道まで着くことができた。
街道のレールへは、分岐器を用意してある。
レバーを引くと、漁村と僕らの街へのレールが繋がる形になる。
レバーも、もちろんセラミック製だから、馬列車に乗ったまま、土魔法で操作できる。
「おおっ、ちゃんと曲がって街道に乗りましたな」
「はい。そう造ってあるんです」
この世界の人に仕組みを説明するのは難しいから、「そうなっている」で済ましてしまおう。
どんな構造なのかは技術者じゃないと興味はなさそうだし。
「おい。向こうから馬列車が来るぞ。どうしたら良いか?」
このタイミングで馬列車が来るのか。
まだ、すれ違いができる仕組みはレールには造っていない。
だけど、大丈夫。
「馬を左側に寄せてください。すれ違いますよ」
「了解した」
馬がレールの上ではなく、その左横を走り出した。
それにつれて、馬列車も左横に移動しはじめた。
「あれ? レールから外れていますね」
「大丈夫です。すれ違いのために、ちょっと馬列車は浮かせていますから」
ここは土魔法で対処してみた。
私がいないと出来ない方法ですが。
正式に運行するためには、すれ違いができるように一部はレールが2組必要になるな。
運行の状況を聞いて、対応しないと。
「やっほー」
「おおーい。なんだそれは?」
すれ違いざまに、馬列車の操者が声を掛けてくる。
「新型ぞ。スピードが速いだろう」
「おおっ、新型! そのうち、俺も乗せてくれ」
「分かったぞ」
すれ違いが終わったら、馬をレールの上に戻す。
後ろをついていくように列車もレールに乗せる。
うん。大丈夫だ。
予定通り、街に着くはずだ。
列車運行の商会に無断で新列車を走られて怒られちゃわないのかな。