第269話 オーナーシェフの依頼はおいしい魚
「ご満足いただけましたかな」
「ええ。どれも、おいしかったです、オーナーシェフ」
特選ランチは全部で8品も料理が出た。
ミントは最後のデザート、ヨーグルトケーキをまだ食べている。
「このお店の野菜はすべて土魔法農法のAブランドの品を使っているんですよ」
「それは、うれしいですね」
「高品質な野菜を手に入れられるので、私のほうこそ、嬉しいです」
「もっと、良い野菜を作ってもらわないと、ですね」
「野菜は十分高品質ですよ。でも、ひとつ困っていることがありまして」
「なんでしょう」
オーナーシェフの困りごとは魚だと言う。
このあたりは川魚は獲れるけど、海魚が入手困難だそうだ。
塩漬けか干物しかない。
「もっと、新鮮な魚があればいいんですが」
元々、オーナーシェフは海の近くの村で育ったらしい。
だから、新鮮な魚の美味さをよく知っているとのこと。
「それは、私も食べたいですね。なんとかならないものでしょうか」
「そうなんですよ。どうしても魚となると鮮度を保つのが難しいので、水揚げしてから1日で街まで運べないかと」
要は馬車道の利用の話なんだね。
魚運搬用の高速馬列車を走らせたいとのこと。
「しかし、街道に近い漁村ってありますか?」
「あるんですよ。馬車道を引いてもらって、二頭立ての馬車を走られてくれれば、一日で到着可能だと思うんです」
あ、このオーナーシェフ。
無理ぽいことを、簡単に言う人みたい。
高級食材のためなら、無理言いまくる人。
「無理ですかね」
「やって、みますか!」
「おおーっ。やってみましょう」
翌日。
オーナーシェフと私、そして白狼娘の3人で下見に来た。
街から街道を馬に乗って走ってきた。
あいかわらず馬に乗れない僕は白狼娘と一緒に馬に乗っている。
オーナーシェフは、なかなかの手綱さばきで馬を操っている。
「ここから、この道を行けば、早馬車なら1日で村に着きます」
街道を右に曲がったところに、細い道がある。
馬車だとすれ違うこともできないくらいの細い道だ。
「ここからは、もう少しです。夜までに着きたいのでスピード上げますよ」
「我に任せろ。負けないぞ」
二頭の馬が競走して疾走する。
私は乗せられているだけだから、しっかりと白狼娘にしがみつく。
3時間ほどで漁村が見えてきた。
街を出て、7時間で着いた。
「どうです? うまく馬列車を走らしたら、一日で街まで海魚を運べますかね」
「できると思いますよ。ただ、レールを引くのに少々手間がかかりますが」
「そうですよね。何ヶ月くらいかかるものなんですか?」
「いえ、1日くらいです」
「そんなバカな」
街の人は馬車道が隣街まで4日で作られたことは知らないらしい。
造るのになれたのと、距離がそれほど長くないので、1日あれば簡単だ。
「明日中に作りましょう」
「本当にできるんですか?」
「やってみましょう。あと、急行馬列車の貨車が必要ですね」
ちょうど、馬が二頭いるし、今から造ってしまいましょう。
異世界エキスプレスですね。