第250話 吊橋を補修するには
「ここですか」
「そうなんですよ」
翌日、私と白狼娘は騎士さんに連れられて吊橋のところまできている。
騎士さんは昨晩のパーティスーツと違って、騎士の正装で来ている。
ブルーの線が入った鎧姿。
別に闘いに行く訳ではないけど、訓練の一部として吊橋視察なので正装で来たのだ。
私と白狼娘は馬に乗って参加した。
もっとも、私は馬に乗れないから白狼娘が手綱を持っている。
「あれ?いつの間に馬に乗れるようになったんですか?」
「馬なら乗れるぞ。馬に命令すれば良いだけだ。馬が我の命令に反するはずがあるまい」
野生の掟を使っているのか。
それは考えなかった。
「どうだろうか。直せるものなのか」
「困りました。思ったより長い吊橋ですね」
吊橋は二本の長い縄で谷の向こう側まで伸びている。
その一本が切れて、下の板がだらんと下がっている。
その吊橋は縄で作られているから、土魔法では制御できない。
吊橋の構造を無視して、セラミック板で橋を造れば良いと思っていたけど、それでは出来そうもない。
谷が深いところに掛かる吊橋だから、橋桁を造るのも無理だ。
「できないか。残念だな」
「いえ。待ってください。要は強い綱があればいいんですよね」
カーボンファイバーがあるじゃないか。
カーボンファイバーは鉄より軽くて強さが何倍もある素材。
その上、炭素だから土魔法で扱えるな。
「できそうですよ。ちょっと探してみますね」
「おう。できるか。頼むぞ」
まずは炭素をたくさん含んだ土、黒土を探そう。
木が生えているから、たぶん近くにあるだろう。
《黒土探査》
おっ、すぐ近くにあるじゃないか。
《黒土レンガ製作:移動》
黒土をレンガ状に固めて移動させる。
吊橋の近くまで持ってきた。
「なんだ、これは。黒レンガ?」
「はい。吊橋の材料ですよ。これから綱を作って吊橋を直します」
「えっ、このレンガが綱?」
説明するより、実際に見せた方が早いかな。
《カーボンファイバー精製》
黒レンガから炭素だけが抽出され、綱状に組まれていく。
太さは5センチほどだ。
このくらいの吊橋を支えるなら、余裕だろう。
「おおっ、レンガが綱になっていくぞ。面白いな」
四角いレンガから綱が生えていく感じだ。
昔、蛇花火っていうのがあったけど、あれに似ているな。
「できました」
「完成か」
谷の向こうまで届く長さのカーボンファイバー綱が2本。
吊橋を支える綱をカーボンファイバー綱に置き換えてしまおう。
「それでは吊橋を直しますね」
「どうやって?」
「こうやります」
《吊橋補修》
カーボンファイバー綱がするすると伸びて、吊橋をつないでいく。
残った綱の換わりにカーボンファイバーが置き換えて補修は終了。
「吊橋が直りました」
「すごいな。黒レンガを作リ始めてから30分も経っていないぞ」
吊橋を見ながら本気で驚いているようだ。
「まぁ、補修ですからね。そんなものです」
「土魔法というのは、建築とかに関しては無敵じゃないのか」
「ええ。建築は得意です。ただし、木造を除きますが」
「しかし、この補修した吊橋は馬が乗っても大丈夫なのか?」
「元の吊橋より強度はすごく上がっていますよ。試してみてください」
「そうか」
騎士さんは馬で吊橋に乗った。
「確かに頑丈そうだ。元の吊橋より揺れが少ないな」
「しっかりとしたものに換えましたから」
「しかし、土魔法というのはすごいものだな」
騎士さんは喜んでくれた。
「明日から山岳訓練が再開できる。感謝するぞ」
「お安い御用です」
ちょっと格好つけてしまったな。




