第241話 神様と直談判
「こういう風習がある村の人と話してもラチがあかない」
これは、水の民の村で分かったこと。
過去から伝えられる伝承に基づく神事は変えてはならない。
そう村人は信じている。
村の外の人間が余計なことを言っても聞く耳を持たないだろう。
「となると、神様に直談判しかないな」
龍神様とはミントを通して話したことがある。
たぶん天使であった頃も神様と話したことくらいあるだろう。
しかし、今の僕ひとりで神様とお話ができるのかどうか。
それは分からない。
だけど、12歳の少女をただ見殺しにすることはできない。
やるしかない。
大蛇の滝に少女を捧げる。
その際に、僕も滝に飛び込む。
土魔素を最大限巡らせていれば、10分ほどの潜水なら問題にはならないはずだ。
泳ぎがうまいとは言えないが、土魔素の身体強化で楽に泳げると思う。
正直、どうなるか全く分からないけど、とにかく滝壺に飛び込んで、生贄の少女を捉えにくる大蛇神か、その使いと会う。
すべてはそこからだ。
シャーマンと少女と女性達は踊りながら山道を進んでいく。
20分も歩いただろうか。
水が落ちる音が聞こえてきた。
それもだんだんと大きくなる。
そこが大蛇神の滝だろう。
僕は村人の列から離れて、滝に向かって走る。
岩がごろごろした荒地だが、身体強化をしているたら、岩から岩へと飛び移って駆ける。
村人達より早く大蛇神の滝に着く。
高さ20mはある立派な滝だ。
大蛇神の滝というだけあって、まるで何匹もの大蛇が絡み合っているように、太い水流が何本にも分かれて落下している。
「ここに少女を投げ込むのか」
下を覗いてみると、大きな滝壺になっていて、深さがどれくらいあるのか不明だ。
どうしたものか考えていると、シャーマンを先頭にした村人達が踊りながら近づいてきた。
滝の近くの大岩に少女を載せると、シャーマンが叫びだした。
「大いなる大蛇の神よ。今宵、花嫁をおつれしました。行く久しく共に過ごされるよう、お祈りします。そして、我が村に加護を与え続けるようお願いいたします」
大蛇神への御言葉を並べている。
それが終わると、少女を滝壺に投げ入れるのだろう。
僕は見つからないように岩陰に隠れ、少女が投げ入れられるタイミングを待っていた。
シャーマンは大きく身体を動かし、少女を抱きかかえて岩の隅に歩いていく。
いよいよだ。
「大蛇神よ、永遠なれ」
ひときわ大きく叫ぶと、少女を投げ入れた。
僕も、同じタイミングで飛び込んだ。
5日ぶりの投稿です。また毎日投稿できるようにする予定です。




