第212話 串焼き屋「ロックバード」
「いらっしゃいませ」
「串盛20本とビール3つ」
久しぶりに庶民が集まる20街区の居酒屋に来ている。お店の名前は串焼き「ロックバード」。
名前の通り、ロックバードの肉を使っている訳ではなくほとんどが鶏の肉で、時々オークの肉が使
われた串焼きが出てくる。
「はい、串焼き20本、お待たせ」
この店の串焼きに肉が大きく、一本で100gくらいある。だから、串盛20本となると合計2kgになるのだが、私とミント、白狼娘の3人だけで食べてしまう。
「うまいな、これ」
「うん。おいしいね」
「だあね。やっぱり串焼きはここに限るな、大将」
「ありがとうございます。今をときめく土魔導士さんとふたりのパートナーにそう言われると照れますがな」
最近は白狼娘やミントを多くの世界を見せようと高級店に行くことが多かったから、こういう庶民的な店に来るのは久しぶりだ。
「やっぱり、こういう店の方が気が楽だな」
「我は高級店も好きだぞ」
「私もおしゃれなお店も楽しい」
あれ?女性陣は意外とここんとこ連れて行っている高級店がお好みらしい。僕はというと本音だと高級店より、こういう庶民的な店が好きだ。
「それで、大将、話というのは何かな?」
久々に庶民的な串焼きを食べたいというのもあったが、ここに来た本来の目的はこの店の大将が話があると言うから来たのだ。
「実は、新しくできた街のことなんですが」
新しい街壁が完成したことにより、街づくりがすでに始まっている。住宅地が売りに出されて、商業地も店舗を造る計画が進んでいる。
「うちの店も、2号店を新街の25街区に出したいと思っていまして」
「へぇ、新しい店オープンするんだ。でも大将がこの店と新しい店両方やるのは大変でしょう?」
「新しい店は、こいつに任せたくて」
この店で今、串を焼いているのは大将ともうひとり。背が高いからノッポ君と呼ばれている店員だ。
そのノッポ君を新店長にするつもりらしい。
「それはいいですね。ノッポ君なら大将のやり方しっかりとマスターしているしね」
「ええ、そうなんですが。正直、問題もあって」
「それは?」
どうも、お金の問題らしい。繁盛店をもう5年も続けている大将だけど元々庶民的な串焼き屋。そんなに貯金がある訳でもない。
だけど、新町に新しく店を作るチャンスはいまだけしかない。もう少しすると大抵の場所は押さえられてしまって、どうにもならなくなる。
「だから、土地魔道士の先生にも応援お願いしたいんですが」
「私に金を貸して欲しいと?」
「貸すのではなく出資をしてほしいと思います」
出資か。貸金と出資の違いはリスクの多さ。貸金は担保を取っておけばそれほどリスクはなく元の資金を回収できる。このお店を担保に金を貸せば回収は可能だろう。
だけど、出資となるとそうはいかない。お店が軌道に乗らず赤字続きで閉店してしまったら元の資金が回収できなくなる。
「なぜ、出資なのですか?」
「それは、新しい店をこいつの店にしてやりたいんです」
そうか。経営権が大将ならこの店を担保に金を借りることができる。でも、ノッポ君だとそれができない。
「新店舗が軌道に乗るまで、私がしっかりと指導します。土魔導士さんに迷惑は絶対かけませんし、必ず成功させて利益を還元させていただきます」
お店に出資をする。そんなことを考えたことがなかった。
今、手元には金貨で5万枚ほどのお金がある。街の壁が完成したからその作業代がすべて入ってきたのだ。
いままでお店のお客はしてきたけど、今度は出資者か。どうしよう?
出資話は危ないです。はい。